見出し画像

『洞窟の奥はお子様ランチ(文字数調整前ver.)』(毎週ショートショートnote)

先ほどから空腹を刺激する良い匂いがこの洞窟を満たしている。
それは奥に進むにしたがって濃くなっていくようだった。
もうどれくらい進んだのだろうか。
光が差し込まぬ洞窟を松明の明かりだけで進んでいるうちに
時間の感覚はとうに失われていた。

「私、おかしくなっちゃったのかな?」
唐突に後ろを歩く妻の声。
「さっきからいい匂いがしてるの。
ケチャップ、ハンバーグ、それにフライドポテト、、、」
俺の頭がおかしくなってしまったかと思っていたが
そうでもないようだ。
それとも、夫婦でおかしくなっているのか?

「あ!」
突然、目の前に広い空間が現れた。
吹き抜けのような高い天井に亀裂が走り、
そこから太陽の光が差し込んで辺りを照らしている。
「この匂いは、もしかして、、、」
足元に広がる地底湖の色に躊躇しながら掬って飲んでみると
それは何とデミグラスソースだった。
妻が匂いにつられて目の前の大きな岩の塊を口にした。
「みて、これハンバーグよ」
その横にはチキンライスの山がそびえ立ち
その頂上には旗まで立っている。
「こっちは大きなエビフライだ」
俺は人間の何倍もの大きさのエビフライにかぶりついた。
こうして俺たちは目の前の料理をかたっぱしから口に詰め込んだ。

その時、地面が大きく揺れた。
「あれを見て」
妻が割れた岩壁を指さす。
そこから何かが勢いよく飛び出すと俺たちに襲い掛かってきた。
それはさきほど俺がかぶりついたものよりも
さらに大きなエビだった。

(599文字)


<あとがき>
これが原型です。
だいたいいつもこのくらいの文字数から
410文字に削っています。
文字数のことが少し話題になっていたので
特別に載せてみました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?