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昔、書いた落書き

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2019年11月まで、mixi、Yahoo!ブログ、Bloggerなどに載せていた 小説や詩のようなもの掘り起こして載せています。 (『ガムテープ女』が最後の作品です。)
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#ホラー

『ガムテープ女』

閑静な住宅街といえば聞こえはいいが、 要は寂れて人通りがないってだけ。 少し前に区画整理がされたばかりで、 道幅は広くまっすぐで、街には清潔感が漂い、 それがまた、寂しさをさらに引き立てている。 なんだか、自分がひどく小さくなって 模型の街に迷い込んでしまったような そんな気にさえなってくる。 日曜日の早朝、空気はやや乾燥して少し冷たい。 俺はスエットの上下にサンダルというだらしない格好で 近所のコンビニまで、玉子を買いに向かっていた。 今日は息子のサッカーの試合があり、弁

『蟻』

小学生の娘が耳が痛いので見てくれというので、 膝枕をして耳の穴を覗き込んだ。 特に腫れている様子もなく、おかしなところは 見当たらない。 「どの辺りが痛む?」 俺は出来るだけ部屋の明かりが穴の奥に 届くようにしながら注意深く覗いた。 その時、穴の奥で何か動いたように感じた。 ん?虫? 俺は娘の頭をそっと床に下ろすと、 懐中電灯と耳かきを持ってきた。 再び膝枕をして、耳の穴を懐中電灯で照らす。 やはり奥の方で何かが動く気配がした。 「ちょっとこのまま、じっとしてな」 俺は娘に

『後ろのドア』

夜中、パソコンに向かっていると、ときどき後ろに気配を感じる。 振り返っても誰もいない。 ただ、後ろのドアが少しだけ開いている。 おかしいな、閉めたはずなのに、、、 閉めなおして再びパソコンに向かう。 しばらくすると、また後ろに気配を感じる。 僕の後ろに何かが立っているような気がするのだ。 恐怖を押さえ込みながら息を整える。 心臓の鼓動がうるさくて少し苛立つ。 意を決して振り向いてみるが当然何もいない。 ただ、後ろのドアが少しだけ開いている。 背筋に冷たいものが走る。 ド

『這う』

気がつくと辺りは闇に包まれていた。 どうやら気を失っていたらしい。 腕を下げた状態でうつ伏せのまま地面に寝転がっていた。 左の側頭部あたりに鈍い痛みがあるがどこが痛いのかよく分からない。 俺は痛む頭に触れようと手を動かしてみた。 さっきからずっと全身に妙な圧迫感を感じていたが やっとその理由が分かった。 腕を伸ばしきる前に冷たく硬い壁のような感触に突き当たった。 腕が動かせる範囲で闇に向かって手を突き出してみたがどこも同じだった。 次に足を左右に開いてみたがやはり壁に阻まれ

『素顔』

「あなたに見て欲しいものがあるの」 いっしょに暮らし始めたばかりの部屋で 彼女が剥いてくれたリンゴを食べていたとき、 背中越しに彼女の声が聞こえた。 「何?」 男が振り向くと、彼女はさっきまでリンゴを剥いていた 果物ナイフを手に男に近づいてきた。 「な、何をするんだ」 慌てる男に、彼女は宥めるように言った。 「大丈夫、そこに座って見てて」 そういうと持っていた果物ナイフで自分の首を切りつけた。 首をぐるりとあまり深くない傷が走ったが 不思議と血は出なかった。 声もなく、た

『新種の新薬』

「なぁ、お前、痩せたいって言ってたよな?」 なんだ?久々に連絡してきたと思ったら、第一声がこれかよ。 「悪ぃ悪い、突然言われたらムカツクよな。 でも、悪い話じゃないんだ、まぁ聞けよ。 今度さ、ウチの会社で『新種の新薬』を開発したんだよ」 ヤツとは、高校からのつきあいで今でもたまに会っている。 ある製薬会社で新薬の研究をしているのだと言っていた。 しかし『新種の新薬』?新種だから新薬なんだろ? 「今どき新薬っていっても、すでにある薬の効能を高めたりする程度で まったく新

『It's a Showtime!』

夕暮れと夜の闇が交差する街角。 濡れた石畳に街灯の光が薄ぼんやりと灯る。 行き交う人々の姿は闇の色にまぎれ 話し声さえもどこか憂鬱。 淀んだ空気が重くまとわりつく。 何もかもがスローモーションで流れていくなか 一人の少年だけが息を弾ませながら駆けていく。 少年の右手には一枚の金貨が握り締められている。 少年はこれから映画を観にいくところであった。 街はずれにぽつんと建つ古い映画館。 少年の父親もそのまた父親も その映画館で夢のひとときを過ごしてきた。 そこは、現実には存在し