真実の盗撮事件簿 第一章 三 三つの柱

 私は入手した盗撮映像を元に、「探偵の目で徹底的に解析することにより、状況が必ず見えてくるはずだ」と思い、通常の調査と同じく着手するための柱を立てることとした。

一、盗撮ビデオに関する情報の収集と、盗撮場所として使用された浴場施設に関する資料収集。

二、和歌山市を中心とした半径百キロ圏内の浴場施設の設備や特徴を徹底的に調べる。

三、盗撮映像から盗撮方法・浴場施設の装備品などの特徴をキャプチャーして解析する。
この三点を調査の柱とし、「和歌山盗撮実態解明調査」に着手した。

 そして考えなくてはならない重要な問題は、調査費用の捻出だった。この時点ですでに数十万円が、私の財布より出ていた。通常、私達が一つの調査を実施するにはそれなりの費用がかかるのだが、この先盗撮実態を解明するための費用を如何に捻出するか・・・私はスタッフの協力を得るため、何度も社内で協議した。私個人から盗撮解明に捻出できるお金は数十万円が限度であるが、実際、長期間に亘り実施したとしたら「資料代」「人件費」「燃料代」「その他経費」だけでも、数百万円はかかるだろう。

 だが会社の売り上げ利益から捻出するには、それ相応の理由が必要となる。そこで「和歌山盗撮実態解明調査」を実施することは、地域社会に貢献することにもなり、また調査を実施することで先の事業として展開できる可能性もあることから、そのための先行投資として実施することで従業員の了解を得たのだった。

 調査に協力してくれる方には、調査費用の実費分だけを負担するということで理解を頂き、一旦は通常の調査から得た利益により捻出することで「和歌山盗撮実態解明調査」に着手することとした。

 一連の流れについて拙い文章でここまで書いてきたのだが、周りの理解を得るのは並大抵な事ではなかった。中には、「利益にならないのになぜするのか?」と色眼鏡で見る人も多く「盗撮」と話題をだしだけでも変態扱いされる有様だった。別に私自身が盗撮された被害者でもないのだから、その様な目で見られても仕方がない事なのだが・・・

 もし家族や恋人などが癒しの空間である浴場施設で盗撮され、猥褻な盗撮ビデオとして販売されていたとしたら?大の温泉好きの私にとって他人事ではない。加えて探偵という仕事は、他に経験したどの職種の仕事以上に大きなストレスや人の人生を左右するという負担がいつも私の中にある。そして年がら年中、仕事に明け暮れ、家庭を顧みることのない生活の中でたまの休日に家族や友人と過ごす唯一の癒しの場所が、和歌山近郊にたくさんある温泉施設なのである。その癒しの場所で家族や友人などが、営利目的の被写体として撮影され、猥褻な鑑賞映像として販売されているとしたら・・・

 私でなくても誰だって「ふざけるな!」と声を荒らげて怒るのは当たり前であり、絶対に許されないことである。この時点で、和歌山県を舞台にした盗撮の実態解明できるのは警察ではない。調査業を営む私しか出来ないとの使命感といえばカッコいいかも知れないが、本心で私を動かしたのだと思う。

 前置きは少し長くなったが、私達は当初の目的である盗撮ビデオに関する情報の収集とは別に、盗撮場所として使用された浴場施設に関する情報を収集することとした。探偵にとってインターネットは最高の情報源であり、簡単なカテゴリーを入力するだけで思いもよらない情報が集められる。盗撮ビデオの流通経路・趣味としての盗撮グループの実態などに関する情報を収集するため、昼夜を問わず空いている時間は徹底的にインターネットでマニアが集まりそうなサイト・掲示板などで探し回った。匿名性を確保するため、プロキシサーバーを経由し、様々なサイトで情報を集めて回った結果、その実態が少しずつ見えた。その一つとして、盗撮映像をマニアから買い取る業者の存在だった。現時点でもインターネットなどで「盗撮・買い取り」と検索すると何件かの盗撮ビデオの買い取り専門業者のホームページがヒットする。
 
 それら買い取り業者の大半は、個人的な趣味で撮影したとする盗撮映像を、買い取り業者が買い取り商品化するわけだがその仕組みについては次のとおりだ。個人の趣味として撮影した本物の盗撮映像をあたかも作り物だという誓約書を元に売買契約を締結し盗撮犯から購入、マスターテープを編集し自社商品として販売しているのだが、万一なんらかのトラブルが起こり警察から捜査の手が伸びた場合、買い取り業者が言い逃れ出来るようなシステムが取られている。またインターネットなどの検索サイトで、カテゴリーを入れ「盗撮・ビデオ販売」「盗撮・露天風呂」・「関西の盗撮」・「盗撮・掲示板」などを入力し検索すると、盗撮に関する情報は瞬く間に集まる。そうして日々集めた情報を整理していくと、大阪に本社を置く株式会社Nという風呂盗撮に主力を置く専門会社に注目をしたのは、私の職業上自然な流れであった。
つづく

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