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ちょっと思い出しただけ

「なんで言葉ってこんなにたくさんあるんだろう?」

『どういうこと?』

「だってさ、みんな同じ言葉をしゃべれたらそのまま伝わるのに」

『でも言葉が伝わるからって心が通じるわけでもないし、言わなくても伝わることもある』

「言わなきゃ伝わんないよ」

映画が字幕か吹替えどっちが好きかでこの会話が始まる。

言葉は思っているよりも複雑で、含めることもできるけれど、その言い方、ニュアンスによっても変わってくる。また相手がその意味をどう理解しているか、自分との関係性によっても変化してくる。難しくて難しくてたまらない。

この映画はただひたすらにタクシーの中で周りの光が動いていく。その車内だけに流れる独立した空間をずっと客観視できる。

タクシー運転手である葉が「どこかに行きたいけれどどこに向かっていいのか分からないとき、お客さんに行き先を決めてもらって、ずっとどこかに向かっている気がする」といった。戻るでもなく、進み続ける乗り物、変化し続ける乗り物なのだと思った。

「愛って便利すぎない?」とこぼすシーンがある。居酒屋の店主がいいことも悪いことも言ったあげく『どのみち愛は逃げ道なんだから』という。

そんな愛おしくなるような時間をちょっと思い出しただけ。未練とかそんな言葉じゃなくて、思い出というより記憶。誰かと笑ってたと言う事実と相手が元彼だったからって消さなくてもいい記憶。

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