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社会人やり直しのきっかけ

私の人生における最大のターニングポイントを挙げるとしたら、間違いなく、新卒で入社した会社を退職した、11年前のあの日だと思う。

私が新卒で入社したのは、日本ではそれなりに名の知れた電機メーカーだった。
大学生活をぼんやりと、何をやり遂げたわけでもなくダラダラと過ごした私があの会社に入社できたのは、内定をもらったのがリーマンショック直前の、2018年度上期だったからだと思う。
今思えば、本当に運とタイミングに恵まれた。

その年の下期にもなると、リーマンショックの影響で世間では「内定切り」が取り沙汰されたが、幸運なことに私はそんな目に遭うこともなかった。
正確には、そんな目に遭わないように会社側が一生懸命配慮してくださったのだが、当時の私は残念ながら、これからお世話になる会社が内定者のためにどれだけ苦労されたか思いを巡らせることも、感謝の気持ちを持つこともできない、子どもであった。

そんな世間知らずな私が入社してどうなったかというと、ものの見事に、常に受け身のしょうもない給料泥棒にしかなれなかった。
会社にこれといった貢献もしていないのに、口を開けば会社への不満ばかり。
ろくに手を動かしていないのに、もらうものはもらっておいて、口だけは一人前。
本当に、今、目の前に当時の私がいたらひっぱたいてやりたい。

そんなダメダメ社員の私は、11年前に息子を妊娠した。
社内では働きながら子どもを育てる風土が充分に整っている、当時としてはとても先進的な会社だったが、私は妊娠を機に会社を辞めることにした。
会社の経営が傾き、大規模なリストラがなされることになったのだ。

受け身でやる気のない当時の私でも、ろくに実績のない自分が育休を取って堂々と復職するほどの図太さは持ち合わせていなかった。
それに、大手企業での経歴があればそこそこの会社に再就職できるだろう、なんて甘い考えもあった。

辞めると決めてから、年の近い先輩と話した会話は今でも覚えている。
「一度やめても、最悪、派遣社員でもなんでも、やり直せばいいと思っているんです。」

かくして、入社してわずか3年半、たいした社会人経験もないまま専業主婦になった私は、世間の厳しさをようやく知ることになる。

会社が当たり前に天引きで支払ってくれていた社会保険料の金額がびっくりするくらい高かったこと。
(その年の終わり頃に退社したので、すぐには夫の扶養に入れなかったのだ。)
それまでどんぶり勘定でやってきた共働き世帯が、一馬力でやりくりするにはとても我慢が必要だということ。
赤ちゃんを育てるということが、とてつもなく大変だということ。

そして、子どもの幼稚園入学を機に再び正社員として働こうと決めたが、前職でろくな実績もなく、子どもも小さい私を正社員として雇ってくれる会社なんてなかったこと。
(息子の入った幼稚園は、延長保育が充実しておりフルタイム勤務も可能だったので、正社員になれると思っちゃったんだなあ…。)

これは「小さい子どもがいるから」というハンデではなく、ろくな職務経歴書も書けない私の空っぽさが原因であったと思う。

私は辞める前に先輩と話していたとおり、本当に派遣社員から出直しとなったわけだが、一からやり直しがこんなに大変だということを、身をもって知ることになった。

ただ、そこからの私は変わった。
もう、ろくな職務経歴書も書けない自分は卒業したかったし、前の職場がどれだけ恵まれていたのかも思い知ったからだ。

電話対応から力仕事まで、雑用は進んでこなすよう意識したし、先を見て仕事をすること、不明点はまず自分で調べてから質問すること、一度質問したことは自分用のFAQを作って同じ質問はしないようにしたこと。

どれも新卒入社したタイミングでやるべきことだけれど、私はようやく、そういう意識を持って仕事に取り組むことができるようになった。
だって、こんな私にもやらせてもらえる仕事があって、その対価にお給料がもらえる。それがどれだけありがたいことかようやくわかったのだから。

その後は、周囲の方たちの後押しなどもあって、派遣社員として就業していた会社の正社員になることができたし、昨年度には社会保険労務士の試験に合格することもできた。

が、残念ながらこんなに生まれ変わった私でも、実は新卒入社した会社の年収をまだ超えられていない。今の年齢の平均年収から考えても低いと思う。

こればっかりは後先考えず大手企業を退社したツケなのでしょうがないし、今でも収入面では後悔をしている。
でも、あの時会社を辞めずに残っていたとしても、今のように仕事にやりがいを感じながら、周りに感謝しながら働く自分になれただろうか。
専門性を身につけて、もう2度と職に困らないようにと、社会保険労務士試験に3年間もチャレンジを続け、合格を手にできただろうか。

派遣という非正規雇用だからこそ、悔しい思いもしたし大変なこともあったけど、間違いなく充実していた社会人やり直し生活だったと思う。

あの選択をしたから、今の私がいる。

きれいごとに聞こえるかもしれないけれど、人生ってやり直せるし、子どもがいてもキャリアの積み直しだってできる。

私の経験が、少しでも誰かの励みや、何かにチャレンジするきっかけになれたらとても嬉しい。

#あの選択をしたから


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