見出し画像

お誕生日おめでとう、 大切な君



お誕生日おめでとう、大切な君。
心から、本当に、
生きていてくれてありがとうと言うよ。




数ヶ月前までの君は、平日は4,5時に起きて支度をして、6時45分には家を出て、9時始業の会社に8時半には着く電車に1時間きっかり揺られて、

9時から17時まで空腹に耐えながら、嫌味で無神経で自分勝手な営業マンと、忘れっぽくて横柄で不公平な女王と、その他大勢の"古い"頭の持ち主と多くの時間を共にしてきた。



仕事をするための場所で"女"として扱われたり、都合のいい話のネタになることも"しょうがない"と笑って流すのが日常だった。

言い寄られたくない仕事場の男性からのアピールも、相手を立てながらNOと言うことを学び、親ほどの年齢の人から性的なことを言われることに慣れようと必死だった。

職場の女性内での人間関係に目を光らせて、中立的な立場を選ぶように努めた。

一番年下だから、誰かが君にひどく当たっても、それが当然と思い込んだ。
名前も知らない多部署の人から透明人間のような扱いを受けたって、気づかないフリをして時間が過ぎるのを待った。



女性を軽んじる会話が隣で繰り広げられていることに不快や怒りを覚えても、それを隠して黙っていることでやり過ごした。
心に残った驚きとショックと少しの傷は見ないことにした。
いちいち治すのには時間が足りないくらいに日常的だったから。

"利用されている"と気づいても、それを見なかったことにした。
誰も君自身を必要としているのではなく、"君"という女性をコンテンツにしていると、
若くて少し愚かで、反抗的でなく、感情的でもなく、不都合な点に目を瞑ってくれて、そして相談する相手もいない可哀想な君が"ちょうどいい存在"だと、彼らがそのように扱うことを許した。
可愛げのある愚かさを演じた。
そのような都合のいい存在に成り下がった。



帰る頃、君は君の全てが汚く浅ましい人間に感じて、
君自身を憎んだ。



そうやって一週間の大部分を自分じゃない"置物"として過ごしたご褒美に得た休日ではやりたいことをやる気力も体力も残ってはいなかった。
"置物"から"自分"に戻るのには時間が必要だったから。

そうして休日の夜ですら、君は悪夢を見て寝れない時間を過ごすことが多くなった。
好きなものに割く時間が減って、かわりに自分を取り戻す時間が必要だった。

「君は大丈夫」と言ってくれる人を夢見る時間が増えて、自分で自分を痛めつける時間はもっと増えた。

君が鏡の中の自分の頭に丸く毛の抜け落ちた部分を見つけて呆然と佇む姿を覚えている。


君はいつしか自分が本当は何が好きで、何を欲していて、何がしたいのかを忘れていった。
忘れることで、手に入れられない苦しみから逃げた。


君は人と会うことを恐れた。
変わってしまった自分に失望されることを、
嘲笑されることを恐れた。

外見への批判を恐れた。
自分への視線を恐れた。
自分以外の人の幸せを恐れた。
自分自身の幸せをも恐れた。

終わりあるものの全てを恐れ、自分で壊すことを、手放すことを選んだ。
縋って泣くことを恐れ、自分には必要ないと強がった。
何もない自分に嫌気が差すのに、それを変える努力は惜しんだ。


君は生きていなかった。
ただ息をして、食べて飲んで寝た。
感情が湧き上がる源泉を忘れた。
自分を削ってすり減らして気力にしていた。
勤勉ではなかったし、誠実でもなかった。
傲慢で、傷つきやすくて、怠惰であった。
哀しみに暮れ、思い出に浸った。
無い物をねだり、そして努力はしなかった。
さながら、赤子のようだった。


君は最後の最後で、初めて自分の人生を決めた。
親や友達や先生の考えなしに、世間の目を気にせずに初めてした選択を覚えていて。
怖くて辛くて、でもどこか高揚感があったことを覚えていて。


お誕生日おめでとう。

君はここ数年でたくさんのものを失った。
家族、友達、恋人、職場、四年生、健康な精神、真っ当な心、自尊心、お金、思い出、信頼していた彼。


たくさん傷ついた。
全てのものは偶然そこにあって、繋ぎ止めるには多くの努力が必要なことを学んだ。




誕生日、誰からもお祝いのこないメッセージアプリ、一人の部屋、日記帳。
空の冷蔵庫に残高のない預金口座。

この惨めさを覚えていて。
これが明日を生きる活力になる。
よりよい自分へと向かうときの道しるべになる。
自分が惰性に負けそうなとき、自分を取り戻す糧になる。



お誕生日おめでとう。
幸せになってね、なろうね。








サポートしていただけたら、泣いて喜びます。