見出し画像

高嶺の花

天界の湖のそばの、それはそれは高い樹のてっぺんに、とても美しい花が咲いておりました。

ある天使は羽ばたき花のそばへ行くと優しく撫で、ある天使たちはその花を眺めながらおしゃべりをしたりお茶会を開いたりしておりました。

その花のある樹の下には、ひっそりと咲いている小さな花がありました。

小さな花は美しい花に憧れ、見上げ眺めていることがとても幸せでした。

天使たちにも大切に扱われ、賛美されるその花を見ながら、小さくゆらゆらと揺れておりました。


ある日、ひとりの天使が美しい花を近くで見ようと羽ばたいて花の近くへゆきました。

するとその羽がふわりと花に掠め、羽の風圧で花はポロリと落ちてゆきました。

天使は慌てて落ちてゆく花を追いかけましたが届かず、花は下界へ続く湖に落ちて沈んでいきました。

天使は湖のそばに座り込み、ただその様子を見ていることしか出来ませんでした。

そんな天使に、それを一部始終見ていた小さな花が言いました。


「あなたの力を貸してください。私が彼女を迎えにゆきましょう」


天使はその小さな花の言うとおり、自分の力を宿した羽を一本用意し、小さな花をその羽に乗せて湖の水面にそっと乗せました。

小さな花は一本の羽に乗ったまま、湖に沈んでいきました。

小さな花は、下界の空から羽に乗ってふわふわと落ちていきました。

落ちながら下を覗くと、美しい花が地面に落ちているのを見つけました。

その花のもとへゆこうとした瞬間、下界の人がその美しい花に気づきました。

下界の男のようでした。

男はその花を拾い上げ、うっとりとしたあと、その花を持ったまま歩き出しました。

小さな花は、羽に乗ったまま慌ててそれを追いかけました。


男は待ち合わせをしていたようで、目線の先に女性が立っておりました。

女性に頭を下げながら、男は先ほど拾い上げた美しい花を女性に渡しました。

女性もその花の美しさに心を奪われ、喜び、その花を手にしたまま男と歩き始めました。

小さな花は追いかけました。


暫くして、男と女性は喧嘩を始めました。

女性は美しい花を地面に叩きつけその場を去っていきました。

男は慌てて女性を追いかけていきました。

美しい花はまた地面に落ちました。


小さな花が近づこうとすると、今度は下界の子供が美しい花に気づき、拾い上げました。

子供は乱暴に花をくしゃくしゃと触り、花びらを数枚抜きました。

花びらを包んだ手のひらをパッと開くと花びらがひらひらと落ちていきました。

それを楽しんだ子供は、花本体をぽいっと放り投げました。

美しい花はまた地面に落ちました。


それから小さな花が美しい花に近づこうとするも、下界の犬に邪魔をされ、車の風圧で飛ばされ、思うように近づけません。

やっと小さな花が美しい花のそばへたどり着いた時は、既に美しい花は萎れ、天界で見た神々しさを失っておりました。

小さな花は悲しみました。

小さな花は「そうだ」と思い、自分の乗ってきた羽の力を使うことにしました。

花が二つ分乗れるくらいの大きさの羽には天使の力が宿っており、2つだけ小さな力が使えるのです。

小さな花は、美しい花にその羽の力を使い、天界でで賛美されていたようなもとの姿に戻しました。

力を使った羽は、半分の大きさになりました。

小さな花は羽から降り、その羽に美しい花を乗せました。

そして「元の場所に」と願うと、羽は美しい花を天界へ運んでゆきました。

小さな花は地面に落ちていました。


天界へ戻った美しい花は、再び樹の上で咲き、天使たちの癒しとなりました。

小さな花は、天界に帰るすべがありませんでした。

でも、それでも、これでよかったのだと思っておりました。

美しい花は皆に賛美され大事にされなければならない、と。

しかし、下界から遠い天界を見上げ、天使たちが美しい花のそばで笑っているのを見て、小さな花の花びらが一枚黒く染まっていきました。

染まった花びらに気づき、小さな花は驚きながらも、自分の思いに気づきました。


自分はただあの花のそばに居たかっただけだったのだ、と。


気づいた小さな花は、自分で一枚ずつ花びらを黒く染め、灰になり風で流されゆきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?