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黒い王と白い王

ある国の王は、とても自分勝手な人間でした。

自分より下と思う者をこき使い、気に入らない人間を葬ってきました。

ただ、どんなことでも自分の手は下しません。

この王は口が上手く、気に入らない人間の周りの人間を取り込み、気に入らない人間の居場所をなくし、存在を消してしまうのです。

国民は、そんな王の手口を知っていながらも、王の言葉に騙されてしまいます。

そんなことを繰り返しているうちに、この王は『黒い王』と呼ばれるようになりました。

黒い王には、友達がいません。

自分が酷い人間だと自覚しているのですが、周りの人間も自分のような考えを持っていると思い込み、誰も信用ができなくなっているのです。

しかしある日、黒い王と友達になりたいという隣国の王がやってきました。

その王は慈愛に満ちた者として有名で、とても評判のいい王様でした。

黒い王と比較して『白い王』と呼ばれていました。

もちろん疑い深い黒い王は、いい顔をしている白い王を不審に思い、どうにかしてその化けの皮を剥いでやろうと試みました。

まずは、初会以降、白い王の訪問を幾度となく拒みました。

しかし、白い王は「貴方とのお話は楽しかった。今度はいつお会いできますか」と 何度も手紙をよこしてきます。

次は、わざと腐りやすい食べものを送りつけました。

しかし、白い王は「この前は贈り物をありがとう」と、お返しに色とりどりの果物を送ってきました。

また次に、一度訪問を許したところで、門の前で足止めをさせました。

しかし、白い王は一人で自分の従者の目をもかいくぐり、黒い王の民に聞いた抜け穴からこっそりと城内に忍び込み、黒い王の前に現れました。

目の前の白い王は、とても爽やかな笑顔を浮かべて立っています。

黒い王は呆れて何も言えません。

やがて黒い王は、白い王には邪心がないことを認め、次第に心を許し始めました。

黒い王と白い王は親友になりました。

それから黒い王は次第に変わっていきました。

気まぐれでこき使っていた使用人に決まった休みを与え、口調も穏やかになり、人間関係でギスギスしていた市民たちの心も穏やかになっていきました。

いつしか黒い王は白い王と会うのが楽しみになっていました。

黒い王と白い王が会う約束を交わしていたある日、黒い王の元に白い王の国とは逆の隣国の、青い王が訪ねてきました。

黒い王と青い王は面識がありましたが、ズバズバと物を言う青い王のことを、黒い王は快く思っていませんでした。

前の黒い王ならば青い王を追い返していたでしょうが、白い王と出会ってから丸くなった黒い王は、青い王の訪問を温かく迎えました。

そこに白い王も加わり、楽しい一日を過ごしました。

青い王は、モノの言い方がストレートではありましたが、ただ自分の信念に真っ直ぐであるということに黒い王は気付き、青い王にも心を許し始めました。

黒い王に、もう一人親友ができました。

幾度となく、3人で食事会をしたりして親睦を深めていたある日。

今まで黒い王からの誘いを断ることがなかった白い王が、この度の誘いを断ってきました。

たまにはこんなこともある、と黒い王は気にしませんでした。

しかし、その日を境に白い王は黒い王の誘いを断ることが多くなりました。

元々気まぐれで断ることが度々ある青い王ならともかく、白い王がこんなにも難色を示すことに、黒い王は気になり始めました。

黒い王は、誘いに応じ訪ねてきてくれた青い王に相談してみました。

すると青い王は言いました。

「会いたいなら、会いに行けばいいじゃないか」

黒い王は、そうか、と思いました。

白い王に心許したあの日みたいに、今度は自分が驚かせてやろう、と。


・・・


なにが

なにが起こってるんだろう

どうして自分はここにいるんだろう

黒い王は、檻の中にいました。

記憶を遡らせます。

たしか、白い王に会いに来て、白い王の間に入ろうとしたら、青い王の声が聞こえたんだ

青い王と白い王が、自分に内緒で会っていたんだ

その時聞こえてきた会話は今思い出しても信じられない

「黒い王が会いたがってたよ」

「・・・困りますね」

「なんで?」

「最近、面白くないんですよ。彼と会っても」

「そう?確かにキミ、彼に気を遣ってたよね」

「ええ、貴方と気兼ねなく話してた方が楽ですね」

そんな会話が聞こえ、部屋の外で立ち尽くしてたら白い王と青い王の家来に取り押さえられ、この通りだ

親友だと思ってたのに

生まれて初めての

親友だと思ってたのに

檻の中で放心している黒い王の前に、白い王と青い王がやってきました。

2人は何も言いません。

黒い王は我慢できずに訪ねました。

なぜ、こんなことを、と。

すると、青い王は答えました。

「すまないね、キミの国が欲しくなって」

黒い王は、白い王の方を見ました。

白い王は、自分の心を解いてくれた時のような笑顔を浮かべました。

それは誰でも騙される、完璧な笑顔でした。

絶望の表情を浮かべた黒い王は、声を絞り出しました。

いつから、と。

白い王は答えました。

「さあ?なんとなく、成り行き、かな」

黒い王は、この時悟りました。

ああ、こういう人間が一番危ないんだ、と。

純粋な気持ちで人の心に踏み込んできながら、横の人間や気分に左右され、心を許してきた人間を粗末に扱うような人間が。

自分はこの人間の、大勢いる友達の中の一人だったのだ。

私にとってはかけがえのない親友だったのに。

しかし、それに気づいても遅かったのです。


黒い王の国は、王不在のまま攻め入られ、青い王と白い王の国で二つに分けられてしまいました。

黒い王は、白い王の城地下の檻の中で、声を殺して泣きました。


END

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だいぶ昔に凹んだことがあった時に書き殴った作品なんですが、ちょっと気に入っているのでサルベージ。

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