2/8(土)ビブリオバトルログ@BiblioEi8ht

八王子を中心に定期開催しているビブリオバトルサークル、ビブリオエイト。
チャンプ本にはチャンピオンベルトになぞらえた帯が贈呈されたり、開催回ごとに様々なテーマ設定をしたり、公式ルールを踏まえつつ様々な創意工夫を凝らしたイベントが特色です。
今回は通常より少人数での催行かも、と聞いて、その分人様の前で話すプレッシャーもやや減るかなと考えて申し込みました。当日、蓋を開けたらどうなったかはまあご覧ください。

第一ゲーム
1.『遺体  震災、津波の果てに』 石井光太 (新潮文庫)
2.『意識と感覚のない世界 実のところ、麻酔科医は何をしているのか』ヘンリー・ジェイ・プリスビロー(みすず書房)
3.『あしたのジョー』 高森朝雄・ちばてつや(週刊少年マガジンコミックス)
☆4.『文体練習』 レーモン・クノー(朝日出版社)
(☆チャンプ本)

(以下、発表内容のメモを元にした書き起こし)

1.東日本大震災の被災下の釜石市において、どのようにして人々が無数の死――しかも遺体という形で具体化された出来事と向かい合ったかを丹念に取材したルポルタージュ。
2.未だにどのような作用で効いているのか不明な『麻酔』というものを現場ではどのように取り扱っているのか・意識を失うことやその他の患者の不安にどう向かい合っているのかというよく聞くけれどよくは知らないものを臨床の現場で活躍した麻酔科医の著者が誠実に説明したノンフィクション。
3.説明不要では。
4.「バスの中で起きた口論、バスから降りたあとに駅前の広場でその口論の当事者をまた目撃した」というだけの出来事を99通りの文体・修辞で書き分けた“だけ”の作品。物語的な意味や意義はなくてもテキストを読むことの素朴な快感が見えてくる。


ビブリオエイトさんの発表はベテランの方も多く、全部の発表がハイレベルなのは前回参加したことで分かっていたが、今回も死の第一ゲームの様相を呈していた(では第二ゲームはどうだったのか、については後ほど)。


特筆したいのが、『あしたのジョー』。発表者は今回はじめてビブリオバトルのバトラーになるとのことだったが、あしたのジョーという漫画へ込める熱量が異常なほど強く、その熱が発表を仕上げていた。金竜飛のくだりとか本当によかった。
結果としては、風変わりな題材の文芸作品への興味への導線を発表の中で上手く作り上げたチャンプ本がより観客の心を掴んだ印象。
おめでとうございます。

第二ゲーム
1.『よいこの君主論』架神恭介/辰巳一世(ちくま文庫)
2.『序文つき序文集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス(国書刊行会)
☆3.『ろっかのきせつ』荒木健太郎/小沢かな(ジャムハウス)
4.『青春の終焉』三浦雅士(講談社)
(☆チャンプ本)

(以下、発表内容のメモを元にした書き起こし)

1.マキャベリの『君主論』のパスティーシュであるようでパロディであるようでオマージュにもなっている解説?本。5年3組ひろしくんが君主論を胸に、覇道を歩むストーリーと君主論の解説を同時に片付けるアクロバット。
2.アルゼンチンでも屈指の書厨、ボルヘスが古今の名作にことよせた序文を集成したもの。シェイクスピアや南米文学の白眉まで、文学史を俯瞰するボルヘスの博学と筆致が圧巻。メルヴィルの『代書人バートルビー』への序文が作品の知名度を押し分けて、読みたくなる気持を惹起させる。
3.可愛らしいイラストの絵本としての物語性と、しっかりとした気象学への手引書としての情報量を一冊の中に見事に収めている。雪の結晶の美しさ(降雪してくる過程で結晶が崩れる条件が有るかどうか)によって、上空の気象を考察できたりと、雪の結晶はただ鑑賞するだけではなく、立派な学問への扉となっている。綺麗な雪の結晶を採取・観察するには、あらかじめ冷凍庫で冷やしておいた黒い布を使うとよい、など実践的な知識も。
4.『青春』という目線で江戸期の曲亭馬琴から、芥川、太宰、七〇年代の文学まで、日本文学における『青春』の隆盛とその終焉がどこの地点かを探り当てていく文芸批評集。著者は『ユリイカ』の創刊者であり、ニューアカデミズムの牽引をした三浦雅士。

結局、第二ゲームも(発表者視点で)死のリーグだった。たぶんビブリオエイトに出る以上、どの面子で出場してもずっと死のリーグなのだ。なるほどね。
ちなみに私の紹介本は1冊目。内容の込み入った構造が好きだったので取り上げたけれども、いざ伝えようとすると5分の尺に収めるのが難しかった。

全体に文学の香りが濃厚なゲームだったけれども、紹介本の間口の広さ、理科的興味の奥深さを見事に伝えきったチャンプ本が見事な着地を決めた印象。おめでとうございます。

変わらず小心者ゆえに発表後にびっくりするくらい胃の痛みが染み渡ってきたものの、それを踏まえてもまた参加したいなと思いました。まる。



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