【公式見解あり】ゴアとダウン・化繊のドッキングアウターを買う前に知っておきたい洗濯の問題

当noteで話題にするハイスペックアウターとは、一枚のアウターで防水、防風、保温を高次元で実現した街着と規定している。上記の三要素はもとよりアウトドアの領域の概念であるが、昨今これらの要素を街着に逆輸入したアウターが多種多様なブランドでリリースされている。雨に強く、暖かく、軽く、そしてビジネスの場面でも違和感のないモノトーン。世間一般の高機能アウター像とはだいたいこんな感じであり、本稿でもそのイメージに準じて筆を進めることとする。これらのアウターを所有する者として購入前に是非知っておいて欲しいことをまとめた。アウトドアブランドのアーバンラインも含めてこの辺りに興味がある方にとって、きっと参考になるはずである。

防水性、防風性、保温性を一枚の服で実現させるためには、ゴアテックスを始めとした完全防水のナイロンハードシェルに、ダウンもしくはプリマロフト等の化繊中綿のインサレーションを内側にドッキングさせることになる。アウトドアでは環境の変化に応じて機能をレイヤリングしていく必要があるため、基本的にハードシェルとインサレーションを一枚でまかなうことはしない。一方で街着となるとアウター格となる両者を重ね着するのは脱ぎ着が面倒でありビジネスなどに対応できないためこのような服の需要が生まれたのだろう。言い換えれば、この三機能を両立させる必要性を感じないのなら、それぞれ単体素材のアウターを選ぶことを強くお勧めする。防水、防風性はゴアテックス一枚に任せて、インナーでニットやフリースを着て保温性を確保する。または最低限のDWR防水加工をしたインサレーションを羽織り、豪雨豪雪時は傘を持つ、もしくは外出しない。など、街で冬を越す方法はいくらでもあるのである。防水防風保温の3要素を高次元で満たす服は日本では紛れもないオーバースペックであり、それでもそれを望むならそれ相応の覚悟が必要である。主に予算とケアの面で。

とは言えハイスペックアウターはアイテムとして非常に魅力的なのは紛れもない事実であるし、実際に着てみるとその快適さに驚くこともしきりである。されど大枚を叩いて購入したアウターも冬の終わりとともに役目を終える。その際に避けて通れないのが洗濯問題である。それぞれの素材について、洗濯時の留意事項を簡単にまとめる。

ゴアテックス:ナイロンメンブレンに水は通さず水蒸気のみを通す孔の空いたフィルムを貼り付けた素材。洗濯は家庭洗濯機に専用洗剤で洗濯することが推奨されている(公式ではドライクリーニング禁止と表記)。素材が水を通さないので脱水は厳禁。干して水気がなくなったら乾燥機かアイロンで熱を加えれば撥水性が復活する。

ダウン:最も保温性に優れる。空気を含む量をフィルパワーとして数値化しておりハイスペックなものなら750fp以上が一つの目安。濡れると嵩が減り保温性が消失する。家庭洗濯機でも洗えなくは無いが素直にクリーニングが良い。

化繊:プリマロフトとかコアロフトとか、開発企業によって名前が異なる。ダウンの弱点である水濡れに強く、濡れにくく濡れても嵩が減らず保温性が保たれるが、保温性はダウンには及ばない。家庭洗濯機で他の洗濯物と一緒に洗って全く問題ないイージーケアの代表。ただし柔軟剤はカンベンな。

お分かりだと思うが、ゴアテックスとインサレーションで取り扱いに矛盾が生じる。インサレーションにゴアテックスが付いてくるとクリーニングにも出せないし、洗濯機で脱水もできないのだ。筆者はゴアテックス+化繊のアウターを所有しているが洗濯機に入れて普通に洗濯したところ、脱水することができず(しようとすると遠心力がかかって自動停止する)大変苦労した。自分調べた限り各素材単体でのケア方法はネット上に豊富に存在するが、この手のドッキング素材に関する情報は見当たらなかった。ちなみにこの問題についてゴアテックス公式に問い合わせ中であり返答がこちら。

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そしてこれが筆者が所有しているゴアテックス+化繊インサレーションアウターである、veilanceのfield ISの洗濯表記タグである。

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洗濯タグに脱水の表記がないから困っているのだが…現在アークテリクス公式に問い合わせ中である。

問い合わせの返答があった。こちら

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要約すると「無理やり脱水しろ。残った水は手で処理しろ」ということだろう。

これら公式見解から明らかなのは、ゴアテックスとインサレーションをドッキングさせたウェアの洗濯において、ゴアの性能を劣化させる恐れのある手順を避ける方法は、メーカーとして提供できない。という事実である。この「無理やり脱水」という手段について、ゴア+ダウン型ならば物理的に可能と思われる。なぜならばダウンは濡れた場合嵩が急激に減少する為、保水量もそれに比例して少なくなるからだ。ただし家庭洗濯に向かないダウンを「無理やり」洗濯するリスクは残ることは留意すべきである。一方の、ゴア+化繊型は、「無理やり脱水」することは自身の実体験から極めて困難であると言わざるを得ない。プリマロフトは先に述べた通り水に濡れても保温力をある程度保つことができる。すなわちそれは、濡れても素材の嵩がへらず、完全に素材に水が含まれてしまうと素材の嵩と同じ体積の水がそこに残り、それを極めて水を通しにくい素材が包んでいるといることだ。例えるならたっぷり水をたたえたスポンジを、針で幾つか穴を開けただけのジップロックに入れ、遠心力だけで中の水を抜こうとするようなものだ。それがメンズコートの大きさになると10kg近くの重量になる。それを家庭用のドラム型洗濯機で脱水できるはずもなく、数回回っては危険防止のために強制停止を繰り返すだけだった。故障が恐ろしいのでコインランドリーの使用も気がひけるものである。

このような洗濯に困るという、特大のデメリットを踏まえて購入を検討すべきと声を大にして伝えたい。

それでもハイスペックアウターが欲しいんや、という方のために、先の問題を回避できるアウターを紹介したいと思う。

一、ゴアとインサレーションを分離できる服

これが1番スマートな方法だろう。それぞれの特徴的を最大限に活かし、重ね着の煩わしさもない。しかし、このパターンの服はあまり見当たらない。いくつか候補を挙げる。

veilance patrol coat

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過去noteで話題にしたveilanceのフラグシップアウターである。最大の特徴はゴアテックスプロのシェルと、インナーの850fp(!)のダウンインサレーションを分離できるところ。普段はスナップボタンで7点留しているので生地が浮つくこともない。ゴアシェル、ダウン共に単体で着られるクオリティ。

acronymのレイヤリングシステム

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アクロニウムのシェルも、同ブランドのインサレーションウェアとドッキングが可能である。アウターの首元のジッパーでしっかり固定できる。欠点はシェルとインサレーションを両方買うと40万近くかかること。

ten-c のライナーシステム

イタリアが誇る高機能ブランドten-cは、ゴアテックスシェルもリリースされているが、ウリは撥水加工したベンタイルコットンで、ナイロンとは違う経年変化が楽しめる素材である。別売でダウンライナー、ムートンライナーを装着できる。筆者も所有していたがライナーを買うことなく手放した。だって重いんだもん…

ニ、防水性をすこーし犠牲にした服

GORE-TEX INFINIUMはゴアテックスの防水性を控え目にして扱いやすさを重視した素材。公式にも短時間脱水が可能と書かれているので安心だ。ただし、リリースされて間もない新素材なので耐久性は不明。

(追記)親愛なるフォロワーの方より、以下に紹介したヴェイランスのeuler coatの洗濯脱水をしたところ、通常のゴアテックスと同じように洗濯機脱水が困難であるとの情報を得た。あかんではないか。(追記ここまで)

カジュアルなデザインだとノースフェイスのpamir jacket

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ビジネスもカバーするなら

veilanceのelderシリーズ

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東レのDERMIZAXRシリーズを採用したデサントオルテラインのコート

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辺りが選択肢に入ってくるだろう。というかゴアテックス以外の機能性素材は情報が少なすぎる!公式にすら洗濯方法についても言及がないというのは確実に顧客を失っていると思うんだけどなぁ。







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