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ansnam バイアスウールシャツ

「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋うまっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」
夏目漱石 『夢十夜』より


洋服については自分なりのルールがいくつかあって、その中に「地肌が直接襟裏に接する服は水洗いできるものしか着ない」というものがある。故に私はdior homme全盛期でも決してカットソーの上に直接テーラードジャケットは羽織らずに必ずシャツかハイネックニットをかましていた。

このルールから最も遠い所にあるのが高番手のウールシャツであり、インナーにするには先のルールが適応され、アウターとして使うには生地感が貧弱。その使い辛さの割に値段も割高、あと面構えが妙にスカした感じなのもあり、自分にとっては全くリアリティの無いアイテムの筆頭だった。これまでは。

画像だと着丈が長く見えるがそこまでではない。

素材を見ればそこに「在る」姿というものが、見える人には「見える」。このシャツもそうだと言われるとそうかもしれないと感じさせる迫力がある。
京都のセレクトショップPARKがアンスナムにオーダーしたバイアスウールシャツ。
カラー展開が豊富で、これはネイビーチェック。

ボタンは黒蝶貝。
バックショットの方がドレープの感じが伝わる。

ふんわり、ではなくストンと落ちる生地。さらりとしていて質の良いスラックスを連想させる。淡いネイビーにブルーのチェックが入る。ウリのバイアス模様は遠目から見るとわずかに感じられる程度で、おそらく明るめの単色生地の方がバイアスの雰囲気はより強まると思う。

第二ボタンなんて学生の時も開けたことはなかった。

ウール生地のコシと重さによって、第二ボタンまで外すと胸元の生地が綺麗なカーブを描いて開く。とにかくこの曲面がエレガントで、このシャツ最大のポイント。コットンのスタンドカラーシャツを所有していたことがあるが、このような生地の開き方にはまずならない。また、前を全開にした時も、胸元の生地が変にバタつかないのも良い。また、スタンドカラーかつ前述の通り第二ボタンまで開けた着方をするので、襟が背中側に倒れることになり、素肌とほぼ接することがないので、皮脂汚れにナーバスにならずに済む。

袖ぐりが特に広い。これがドレープにも効いてくる。

形は完全にシャツだが、厚手のニットやスウェットの上にも問題なく羽織ることができる。またウールのハリによってインナーのボリュームとも釣り合うので、違和感もほとんどない。これもコットンシャツではこうはならないだろう。販売元はカーディガンを着た上に羽織る着方を勧めていた。

見た目の繊細さに目が行くが、実はストリートウェアに寄せられるのでは?と思ったので、ブラックのスウェットとジーパンに合わせたところ、上品なオーバーオールみたいな趣になった。
この懐の深さは嬉しい誤算。それは上品なお坊ちゃんがsupremeの行列に並んでるのを見かけた時の気持ちに似ている。

当然クリスタセヤとは合う。

タックインもできなくは無い。ベルトで締め上げると身幅の太さが膨らんで不恰好なので、ウエストアジャスタータイプのスラックスで腰回りを若干解放させている。意を決して仕事に着て行ったところ、ウール×バイアス地×スタンドカラーだと流石に目立つのか、かなりの反応があった。勿論それ以来着て行っていない。

実生活と折り合いをつけながら洋服を買っているので、その服を着る機会が存在するかは極めて重要な要素である。一方で、そんな理詰めの理由を差し置いて、衝動的に購入してしまう服も少なからずあり、このシャツはまさにそうしたパターンの服であったが、幸運なことに着て行く場面には困らなそう。
アンスナムというブランドは浮世離れしている素材や制作背景を持ちながらも、製品としてはしっかり実生活にコミットしているところが強い。ストリートブランドとモードブランドを経由してきた私とって、ちょうど良い着地点だ。
大丈夫、まだPARKには在庫があるよ!早く売り切れて色違い購入を諦めさせてください!

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