「テックウェア」という得体の知れない存在について

これまでの記事にて、さんざん「テックウェア 」について述べてきておいて何だが、「テックウェア 」というカテゴリーそのものに対する何とも言えない座りの悪さ、違和感が拭い難く存在していた。当noteでは「テックウェア」という分かるようでわからんカテゴリーの実像について自身の所見をまとめていく。以下の内容は拙稿「テックウェア導入マニュアル」を補完するものなので、気になった方はそちらも読んでいただけると幸いである。


テックウェア という概念

一般的に認知されているテックウェアを構成する要素を整理すると以下のようになる。

1.近未来SF、サイバーパンク、サイバネティクス、サイボーグ忍者

上記の作品群のメインキャラクター衣装、すなわち、ブラック化繊合成素材にフード、マント、ケープ、サーコートと言った貴族趣味またはミリタリー装飾の掛け合せ。

2.過剰なギミック

一般的なウェアに見られないような巨大なポケットや形状のトランスフォーム、モールシステムなどによる拡張要素、目立つ生地の切り替えやジッパー違い。特殊なフードやアームパーツ。

3.街着、都市生活、アーバンウェア

アウトドアウェアの領域ではなく、あくまで都市生活がメインフィールド。ブラック、グレー、ネイビーが基本カラー。

4.機能性素材の採用

ゴアテックスを代表とする防水透湿性素材、高フィルパワーダウン、コアロフト等の化繊中綿、シワになりにくいパッカブル素材、吸湿早乾。夏涼しく冬暖かい快適性や極地に耐えうる信頼性を与えるテクノロジー。

5.実験的な加工

ナイロンをガラス粒子を混ぜ込んだ樹脂に浸したり、機械にプログラミングして織りをランダムに切り替えながら一枚のニットを作ったり、温度で色が変化したり等、そのブランドでなければ技術的に真似できない(誰もしようとしない)新素材や加工処理。

1〜3はテックウェアの外観イメージを、4と5は工業的背景を司る領域と言える。それぞれの要素は緩やかに重なり合っているものの、ブランドごとに立ち位置は異なっており、さらに厄介なのはブランド自身が「テックウェア」を自称することはほとんどなく、消費者が上記の要素に当てはまるブランドを勝手に「テックウェア」と呼んでいるに過ぎない。そのため、「テックウェア」について話題にしている個人がイメージしている服やブランドが「サイバーニンジャな外見だが素材はフツーの綿100なブランド」だったり「見た目はユニクロにしか見えないが、その全てが最新鋭素材のブランド」だったり「ライトを当たると突然ビカビカ光りだす素材を開発したブランド」だったりする。結局のところ、言葉が一人歩きして誰も実態が掴めていない鵼のようなカテゴリーが「テックウェア」なのである。サイボーグニンジャや弐瓶勉的コスプレ衣装、そのようなサイバーな雰囲気そのものにテックを感じている人間に「それは偽物なんだ機能性などないハリボテなんだ」と説いたところで無意味であるし、テックという語源に忠実な4の要素から見れば、ユニクロやワークマンの空調服も立派な「テックウェア 」であるが、それらの存在は往々にして黙殺される。テックウェアはみんなの心の中にあるんだ。それを表に出したら戦争が起こるんだよ。

テックウェアという概念の中心

ここまではテックウェアというカテゴリーの全体像について述べてきた。では逆に、上記テックウェア構成要素をすべて満たしている存在、テックウェアという概念の中心にあるものは何か?

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都会に蠢くサイボーグ忍者な雰囲気で過剰なギミック満載ながら最新鋭の機能性素材を採用することを許され、マッドサイエンスな加工もそつなくこなす存在。「テックウェア」というカテゴリーの中心には、やっぱりエロルゾン・ヒュー氏が収まるのである。拙稿にて勝手に決めたテックウェアBIG3(アクロニウム 、ヴェイランス、ストーンアイランドシャドウプロジェクト)は全て彼が大きく関わっているブランド達である。

つまり、極めて原理主義的に「テックウェア 」を定義付けるとすれば、「開祖たるエロルゾン氏が関わっている、または深く関わっていたブランドがテックウェア」ということになる(ただそれをそのまま当てはめてしまうと、この世のテックウェアは5ブランドほどしか残らなくなってしまうのだが)。氏のシグネチャーブランドアクロニウムを中心に、その技術的背景を受け継いだ工業的テックブランド群とサイバーテックニンジャブランドがそれぞれの領域で幅を利かせている。中心部から眺めたテックウェア世界は大体こんな感じであろう。

テックウェアとアルチザン

かつて、一世を風靡しファッション大地に巨大な沼を作り上げ、そしてごく一部の殉教者を残して忘れ去られていったカテゴリーがある。しばしば「地獄の果て」だの「ファッション巡礼者終着地」だのと散々な言われ方をされて久しい「アルチザン」ブランド界隈のことだ。極めて実験性・独自性の強い商品を作るカリスマデザイナー(引退者含)がカテゴリーの中心に鎮座し、その後継者またはそれを騙るブランドが連なり、さらにその外縁にそのおこぼれに預かろうとする何ちゃってブランドが続く。これが「アルチザン」を構成する世界であり、先に述べた「エロルゾン氏を中心としたテックウェア世界観 」の構成要素とかなり類似していることが分かる。

御大はまだ若く引退もまだまだ先の話だろうが、そう遠くない未来「元アクロニウムデザイナー」なる肩書の存在が現れて「値段の高いアクロニウムモドキ」を売り出すとこの界隈もいよいよアルチザンじみてくるのである。まあ、仮に「テックウェア 」がアルチザンブランドと同じような道を辿るとしても、世情に取り残されて窒息していくのは、バックボーン無きモドキブランドであり、センスと技術と信者がいる限りブランドは生き残っていくものだ。その時、共に地獄に降っていく殉教者になるかはあなた次第。悪いが私はこれ以上、付き合いきれんがね。

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