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「理系」に女性が少ないと困るワケ

男女共同参画白書(令和2年版)によれば、大学(学部)への進学率は女子が50.7%で男子が56.6%と男子の方が5.9%ポイント上回っています。専攻分野を見てみると、女子で圧倒的に多いのは社会科学と人文科学。保健や農学も含めた理系の学部生の女性比率は38%、工学系は16%にとどまります。理系を目指す女性は増えてはいるものの、国家資格に直結する医薬系が多いのが現状です(学校基本調査)。

STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)、つまり科学・技術・工学・数学の分野に女性が少ないことが、問題視されています。なぜでしょうか。ビッグデータを活用した画期的なイノベーションが様々な分野で生み出される中、元となるデータに偏りがあったり、男性に偏った視点で開発が進められれば、生み出される商品やサービスは女性にとって使いにくいものになる危険性があります。

https://style.nikkei.com/article/DGXKZO68855410V00C21A2TY5000?channel=DF130120166018

女性が理工系に少ないことは女性に不利益をもたらす。例えば、シートベルトは男性の体形を元に設計されており、交通事故では女性の方が重傷を負いやすい。体調管理アプリでは血圧や心拍数だけでなく、生理周期など女性特有の数値の把握も求められるが、開発者が男性だけだとこうした視点を取り込むことは難しい。

こうしたリスクは性別だけではありません。例えばコロナ新薬開発の臨床試験で使用されるデータのうち、有色人種のものは少ないとの指摘があります。ヒスパニック系やアフリカ系人種の重症化比率は白人よりも高いことが確認されていますが、臨床試験では白人男性の参加率が圧倒的に高いというのです。

https://style.nikkei.com/article/DGXKZO66999180U0A201C2TY5000?channel=DF130120166018&n_cid=LMNST011

こうした問題を解決するには多くの女性やマイノリティーの人種がSTEM分野に広く従事することが重要になります。でも経済協力開発機構(OECD)の加盟国平均を見ると高等教育レベルの科学プログラムに進学する人のうち女性は約37%、コンピューターサイエンスでは20%にも満たないのが現状です。程度の差はあれ、日本も海外も同じ課題を抱えています。

理系に女性が少ない理由の1つとして「女子は数学が苦手」といった無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)があります。また、実際に理系に進んだとしても研究者として働き続けるのが困難という現状も軽視できません。研究者としてキャリアを積む場合、出産や育児が重くのしかかるのです。そんな実情がコロナ禍で明らかになりました。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67707060V21C20A2TJM000/

この記事は有料会員限定なので解説すると、米ワシントン・ポストが運営するウェブメディアによれば2020年1~4月の女性研究者の論文投稿数が前年同期と比べて最大で50%減少したようです。子供が自宅にいる時間が増え、家事などを女性が担っているからです。新型コロナウイルスの感染拡大が究者の男女格差を浮き彫りにした格好です。日本も同様です。緊急事態宣言が発令された2020年5月中旬に文部科学省が研究者に聞いたアンケートでは「学校や保育園の休止で育児の負担が大きい」「特に若手や女性研究者への影響が大きい」との回答がありました。ここにも「家事・育児は女性の役割」という無意識の偏見が存在しています。研究者の場合、論文が評価につながるので、育児による研究時間の減少はキャリアに大きく影響します。

坂井主任研究員は「大学や研究機関側にライフイベントを迎える優秀な研究者をキープする努力が足りない」と指摘する。フランスなどの研究機関は産休や育休の期間を実働期間から差し引く制度があり、育休などしても成果を出せば不利にならない。魅力にひかれ渡欧する研究者も多い。東京工業大学の星野歩子准教授は「日本では安心して出産し研究に戻れる体制が十分でない」と話す。

そんななか、大学内に保育所を設けるなど育児と研究の両立をサポートする動きも出ています。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO46101360U9A610C1000000

第5次男女共同参画基本計画では、大学の理工系教員に占める女性の割合を、例えば工学系なら現在の4.9%から5年後には9%に、大学の研究者の採用に占める女性の割合を理学系なら17.2%から20%に増やすとしています。最近はフェムテックなど、女性の課題を技術で解決する動きも広がっています。女の子が理系を志望したとき、躊躇なく進学できるような土壌作りが大切です。

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