見出し画像

2023年に観た映画&ベスト映画

まず、2023年の映画ベスト10。
ベスト10と言いつつベストワンは確定で、あとは順不同で好きな作品。

新作・旧作は関係なしで、映画館で観た映画から選んでいます


2023年のベストワン
カード・カウンター

観終わったとき「今年のベストワンはこれで決まりだろうな」と思ってそのまま変わらなかった作品。
傷を負ったひとりの男の深い部分に触れる、とてもポール・シュレイダーらしい作品。
俳優の演技、音楽、撮影すべてが好みだった。
主演のオスカー・アイザックは今もっとも好きな俳優でもあるのでその贔屓もあるかもと思いつつ、やっぱり今年はこれが一番。

ベストワン以下の9選は次のとおり。

(順不同)

アル中女の肖像
ほぼ台詞なし、ひたすら酒を飲み続けるタベア・ブルーメンシャインの気高さと美しさ。
ただ楽しく酒を飲み、好きなように生きることは社会への抵抗なのだ。

マリア・ブラウンの結婚
戦後の困窮を生き抜くため、自身のあらゆる魅力を駆使するマリアの生き様が目に焼き付く。
ファスビンダーが手がけるショットは退屈さが欠片もない。始まり方と終わり方の衝撃。

エドワード・ヤンの恋愛時代
人は誰かに属したり所有されるのではなく、自分という「個」であることで初めて、他者とともに在ることができると教えてくれた作品。
暗闇の先、そこに確かにある何かに手を伸ばす物語。

フェイブルマンズ
スティーブン・スピルバーグの自伝的映画がこんな作品になると想像できた人がいるだろうか。
映画を撮ること=カメラに記録することの恐ろしさすら描いてみせた、巨匠の余裕も感じる圧倒的作品。
今年のベスト・ラストシーン賞。

別れる決心
フィルムノワールで描かれ続けた「悪女」へのアンサーとも言える作品。
あらゆる表現を駆使しては描かれる愛とエロティック。
別れる決心、それは決して忘れさせないという呪いのようなもの。

非常宣言
イ・ビョンホンとソン・ガンホの二大スター共演、とにかくずっと面白い航空パニック映画。
セウォル号事件を経た韓国の人々の利他的行動。
100%解決!ハッピーエンドで良かったね、とはならない絶妙な後味が現代的とも言える。

逆転のトライアングル
序盤から皮肉たっぷりで意地悪なリューベン・オストランド節が全開で最悪=最高。
アル中のウディ・ハレルソンがいる船は乗っちゃ駄目。
人の愚かさ、可笑しさ、虚しさ、面白さを堪能した名作ブラックコメディ。

さらば、わが愛/覇王別姫
中国激動の時代と京劇という文化をあらためて知ることができた作品。
豪華絢爛、煌びやかな画面とレスリー・チャンの存在感に圧倒される。
没後20年を迎えた今も、彼は画面の中で輝き続け、多くの人の心を離さない。


思わず真似したくなる台詞や、あそこのシーン!と観た者同士で語り合いたくなる面白い映画ながら、そこに含まれた皮肉や毒も一級品。
長年、芸能の世界でトップを走り続けた人が撮る戦国の世は、紛れもなく現代にも通じる縮図だ。
観終わってから時間が経つほど好きになってる気がする。




以下、上に挙げた以外で2023年に映画館で観た作品の記録。
多少は抜けてるかもしれないけど、大体で。

ファミリア
まさか役所広司がコワルスキーになった和製グラン・トリノを観られると思わなくて感動。そしてあれだけ美形なのに普通に豊田に住んでる青年に見える吉沢亮の凄さ。「人と人は分かり合えるのかもしれない」「分かり合えないのかもしれない」の間を私達はずっと揺れ続ける。
SHE  SAID その名を暴け
誠実なジャーナリズム映画。男vs女で対立し合うのではなく、巨大な悪に立ち向かうためにはともに連帯することが大切。もとになった本も読んでみたい。
ピンク・クラウド
SFではなく一種の寓話として観る作品。彼女の最後の行動、もしかしたらあれもひとつの「解放」なのかもしれない。パンフレットの中身が充実していて良かった。
イニシェリン島の精霊
静かな映画かと思いきや、急なバイオレンスにどうしても笑う。そして物語に含まれる寓意は奥深い。今作の影響で一部の映画ファンが突然不仲になった二人のことを「イニシェリン島」って呼んでたのが面白かった。
対峙
ポランスキー「おとなのけんか」の、まったく洒落にならない版。深くもがき苦しんだ人間にだけ見えるものがある。観ていてつらかった。
BLUE GIANT
印象主義的な演奏表現、そして何より上原ひろみ他プロが手掛ける音楽を堪能するだけでも映画館で観る価値十分。声優をやった三人も良かった。
アントマン&ワスプ:クアントマニア
フェーズ5への突入。ジョナサン・メジャース演じるカーンはもう観られないのだな…と、後になってしみじみする一本。ジャネットとピム博士が良かった。
ベネデッタ
天国で下僕となるより、地獄で支配者になるのだ!バーホーベンは80歳をこえてもずっと尖ってる。だいたい悲惨なことが起こるけど、やっぱり彼の作品は勇気がもらえる。
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
万華鏡のような目まぐるしい映像表現とスピード感が楽しい。膨大な物語だけど、根っこにあるのはとある一家の物語なのが良い。ニヒリズムに陥りそうになる世の中だけど、今日も異なる世界のどこかでもうひとりの自分もきっと頑張ってる。
バニシング・ポイント
アメリカンニューシネマ、そして車を走らせる男。これだけでラストどうなるかはだいたい察しがつくけど何ともいえない魅力がある作品。彼は自由を見つけることができたのだろうか。
シン・仮面ライダー
池松壮亮がぴったりだった。柄本佑演じる一文字は好きになるなという方が無理な美味しいキャラ。結構変な映画なのに、熱い気持ちも湧いて、鑑賞後はどこかさわやかな気持ちに。
危険な関係
ジェラール・フィリップとジャンヌ・モローの二人をスクリーンで観る幸せ。全編で流れるジャズがスタイリッシュ。1959年の男性監督作品で「男が遊べばプレイボーイ、女が遊べば淫乱呼ばわり、それに反発する女性の物語です」という監督の言葉が出てくるのが現代的。
名探偵コナン 黒鉄の魚影
100億突破おめでとう&内容もとても良かったのでベスト10に入れてもいい作品。名探偵コナンは、自分なんか死んでもいいとすら思っていたひとりの女性が、誰かに希望や勇気を与える存在になるまでの物語でもあったんだとしみじみ。
生きる LIVING
黒澤明のオリジナル版と今作、どちらにもそれぞれの良さがある。ビル・ナイの名演にもぐっときたし、あらためてこの物語の大胆な構成に驚かされた。決して「良い話」で終わらない現実…な感じも、オリジナルのままで良かった。
Winny
当時の日本の空気感も知ることができた、地道で堅実な法廷ドラマ。金子氏の人となりや功績を知れただけでもこの映画があって良かった。いろいろあったけど、やっぱり役者・東出昌大は天才だな。
ザ・ホエール
ダーレン・アロノフスキー作品らしい、主人公が自らの肉体を犠牲にしながら自身を追い詰める姿が苦しかった。誰かを救うこと、そして自分自身を救うことの難しさ。救いたい、という思いのある種の傲慢さ。渾身の一作。
AIR/エア
エア・ジョーダンについては無知だったのでいろんなことが新鮮だった。エリートたちがその頭脳を駆使して希望を掴んでいく姿は熱い。終盤のスピーチシーンが特に印象的。NIKEのスニーカー欲しくなった。
聖地には蜘蛛が巣を張る
これも結構ベスト級。監督の前作(ボーダー 二つの世界)も好き。投げかけてくるものの重さ、止まることはない闇の連鎖で後味もつらすぎる。これは単に「イランやばい」という映画ではない。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3
まるで監督自身に向けたような「失敗してもまたやり直せばいい」というメッセージが優しくあたたかく光り続ける作品。やっぱりウィル・ポールターは良い俳優だと実感。
ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
マリオはおじさんだと思ってたら自分と歳が近そうだという驚き。劇中で何度失敗しようとも再び立ち上がるマリオは、このゲームを愛し続けたプレイヤーそのものの姿なんだな。
TAR/ター
スポ根音楽映画かと思いきや、だんだん心霊映画のような何かに。ケイト・ブランシェットのスタイリングや演技に目が釘付けになった。ラストの「私は何を観ているんだ!?」という驚きは今年一番かも。
食人族 4Kリマスター無修正完全版
ポスターにもなってる棒のビジュアルだけでなく、あらゆる場面が強烈。でも音楽は美しい。ゲテモノ映画かと思いきや、有名なラストの台詞など思った何倍も真摯な作品だった。一番怖いのは食人のシーンじゃないかも。
最後まで行く
普通なら逆になりそうな岡田准一と綾野剛のキャスティングが面白い。多分これ観たらみんな言うけど結婚式のシーンが最高。終わらせ方も好き。この後にオリジナルの韓国版も鑑賞したけど、個人的には日本版の方が好み。
怪物
これも全然ベスト級。人間の説明のつかなさ、納得のいかなさ。自分は誰かのことをイメージで勝手に決めつけていないだろうか。簡単に言葉にできないものについてこそ、私たちは考え続けるべきなのだと再認識した作品。教授の音楽でも涙。
aftersun/アフターサン
記憶と思い出を巡る物語。年齢を重ねるほど、きっとこの作品が深く心に染み込んできそう。あの人はあの時、どう思っていたんだろう。あの表情の意味はなんだったんだろう。アンダー・プレッシャーからの物語の閉じ方は鳥肌もの。
スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
前後編だということを知らずに観てびっくり。早く続きが観たい!もう完全にスパイダーバース以前と以後でアニメーションの世界は変わってしまったと思うくらい、画期的かつ圧倒的な映像体験。
岸辺露伴 ルーヴルへ行く
本物のルーヴル美術館をスクリーンで観られる喜び。映像も「これスペシャルドラマで十分だったじゃん」と思わせないレベルのリッチさがあって良かった。黒がテーマだからこそ、ゴシックホラー的な要素もジョジョっぽくて好き。
オープニング・ナイト
バックステージもの映画はだいたい面白い。何かが欠けている登場人物たち。そんな彼女らが苦しみもがいた先に見せる何かにはどうしても心動かされてしまう。終盤、リアル夫婦が舞台であれこれやる姿は可笑しくて愛おしくて。
水俣 患者さんたちとその世界
水俣病の患者とその家族を追った当時のドキュメンタリー。昔の録音技術で訛りもあり聞き取れない部分もあったものの、彼らの怒り、悔恨、諦めのようなさまざまな感情が伝わって痛かった。
ザ・フラッシュ
何も予備知識なしで観ることができる楽しいアメコミ映画。でもアメコミ映画の小ネタを知ってるとより楽しめる。主演のエズラ・ミラーはもちろん、マイケル・キートン良かった。やっぱり老ヒーローがカムバックする展開には弱い。
ミッション・インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
スパイ映画の醍醐味である騙し合いの面白さ、とんでもないレベルのアクションで長尺があっという間に感じた。PART ONEと言いつつ、ちゃんと物語をひと段落させたのも素晴らしい。トム・クルーズ、身体には気をつけて!
君たちはどう生きるか
ここまで事前情報なしで映画を観るのは現代を生きるうえでほぼ不可能に等しいと思うので、これは本当に貴重な映画体験だった。かつての引退会見での監督の「この世は生きるに値する」という言葉がよみがえるような物語。歳を重ねて観た回数も重ねる度より好きになっていくと思う。英語版も観たい。
Pearl パール
もう彼女の行く末は知っている。なのに目が離せないこの切実さ!そして痛々しさ。あんなに怖く悲しいエンドクレジットはないでしょう。ダメ押しのアイリスアウトも悲惨すぎて笑ってしまう。2023年必見のホラー映画。
バービー
ピンク!可愛い!だけではない哲学的な映画。超有名おもちゃをテーマにここまで踏み込んだ内容に作り上げたのは凄い。映画館のお客さんがみんなピンク色の服を着ていて多国籍だったのが良かった。
マイ・エレメント
これまではあくまで恋愛関係に囚われない「バディ」の姿を描いてきたピクサーが、満を持して発表したラブストーリー。本当にロマンチックで、人を好きになるとはどういうことかを再認識させてくれるような作品だった。
オオカミの家(&骨)
ワンシーンワンカットの情報量が凄まじい。そして、この作品の設定が怖すぎる。「マリア〜」の男の声がしばらく頭にこびりついた。永遠に出られそうのない迷路を彷徨うような、悪夢を見ているような作品だった。
クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
クローネンバーグリスペクトの作品数あれど、やっぱり本人は王者の貫禄すらある。誰も敵わない唯一無二の監督だと思うし、これからもそうあって欲しい。映画いっぱい観てきたけど、あんな椅子見たことないし映画観終わった後も謎すぎる。
MEG ザ・モンスターズ2
この物語で一番強いのは?という問いに対する観客の答えが観る前と後で全く変わらない、安心安全のステイサム映画。犬はまた無事。エンドロールで流れるラップの勢いある馬鹿感(褒めてる)。
ポエトリー アグネスの詩 4K
タイトルシーンの静かな絶望。いっそ知らなければ幸せだったかもしれない世界のいろんなこと。人間の在り方について思いを巡らせる物語。イ・チャンドンの新作が観たい!
アステロイド・シティ
ポップでカラフルな見た目とは裏腹に、複雑な構成になっている作品。全て理解することが無理でも、映画館の椅子に座って目の前の画面で起きていることにただ身を委ねるのも楽しい。スカーレット・ヨハンソンの真顔が好き。
ほつれる
今年も邦画の良作がいっぱいあったけど、その中でも特に印象に残っている作品。役者の演技が上手いからこそ、あまりにヒリヒリした空気感に耳を塞ぎ目を閉じたくなる。もとの戯曲も観たり読んだりしたいと思った。
ジョン・ウィック:コンセクエンス
長尺でじっくり重いアクションを見せる作品で、座って観てるだけの観客すら疲弊してくる。主演のキアヌはもちろん、真田広之にドニー・イェンにリナ・サワヤマなど役者陣もみんな良い。アクションの見せ方が面白く、あの階段落ちは衝撃。
名探偵ポワロ ベネチアの亡霊
ミステリーでありながら怪奇映画のような一面も。そこまでどメジャーな人が出演していないので、ある意味フェアに犯人探しをすることができるのも魅力。ケネス・ブラナー版ポワロでは一番好きだった。
ホーンテッドマンション
ラキース・スタンフィールドの魅力が溢れる作品。歴史学者、霊媒師、超常現象専門家など個性豊かなメンバーが揃うチームものという展開はベタで楽しい!そして結構泣かせる。またアトラクションにも乗りたくなった。
不安は魂を食い尽くす
確かに愛し合ったあの時間。二人の気持ちがふたたび、今度こそ、通じ合ったのかもしれない、という時すでに遅し。それが人生なのかも。ファスビンダーの作品は印象的な画角が多い。

近年の事件を題材にした作品からこそ、今でも新鮮に思い出すことができるあの息苦しさ。「答えを出さない」という誠実もあるのだ。観た者を決して無傷では帰さない作品。
キングダムシリーズ
ラース・フォン・トリアーの方のキングダム。最高のホラーブラックコメディ。面白過ぎて「朝の空気運動」ステッカーを自作して今もiPhoneに貼ってある。登場人物も観客も全く<脱出>できてない。
キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン
原作からの翻案が見事。全体的に乾いた印象で描かれる多くの殺人が、より恐ろしさを増す。そして自己批評すらしてみせる物語の閉じ方。俳優陣の演技も音楽も撮影も編集も全てが一級品。マーティン・スコセッシ渾身の206分。
ゴジラ-1.0
大迫力の映像体験やエンターテイメントの面白さで、これもほぼベスト10入り。自らの作家性を生かしつつ圧倒的な娯楽映画を作り上げた山崎貴監督天晴。邦画大作で自己犠牲の否定、特攻や戦後日本を美しく描かないのも良かった。今度公開されるマイナスカラー版も観たい。
ザ・キラー
デヴィッド・フィンチャーのクールな画作りで生まれるのは殺し屋ブラックコメディ。思ったより笑える映画で楽しかった。細かいディテールの繰り返しが癖になる。でかいピットブル。ティルダ・スウィントンのオーラ。
マーベルズ
3人の入れ替わりアクションが楽しい。カマラが楽しそうにしていれば観客も楽しいし、家族のキャラクターも良い。ヤングアベンジャーズが楽しみだし、猫好きも歓喜な映画。
正欲
「普通」とは何か、なぜこの世界では「普通」でいることが求められるのか。他者との関わりを持つこと、それは大なり小なり加害性を持つことなのかもしれない。ラストシーンが印象的。原作も読んでおきたい。
暗殺の森
ただ人が歩いているだけのシーンが、目に焼き付く。有名なダンスシーンも、一言では説明できない感情の交差が。ファシズムと反ファシズムが行き着く先に起こる、森でのある恐ろしい出来事。車の外で叫ぶ人、車の中にいる人。怖かった。
理想郷
田舎村八分スリラーサスペンス。意外にも二部構成の物語。映画に出てくる犬としては珍しく、全く人間の役に立たないのが印象的。まるでこの世の不条理の象徴のような存在だった。
鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
横溝正史作品のような、田舎で起こる一族内での連続殺人がどれも衝撃のビジュアル。水木とゲゲ郎のバディものとしても面白く、今作があることで鬼太郎がより尊い存在に。エンドロールも必見。
ツィゴイネルワイゼン 4K
鈴木清順の美学が炸裂する圧巻の画作りと、まるで夢を見ているような、迷路のような物語。デジタル修復版なのでより極彩色が際立つ。ここは生者の場所なのか、死者の場所なのか。愛し合っているのは誰と誰なのか…。
陽炎座 4K
松田優作はアクションの人というイメージだったので、今作があることで印象が大きく変わった。佇まいだけで伝わる色気。残酷浮世絵、崩壊する舞台、水中に沈む女と鬼灯が忘れられない。
夢二 4K
ロマン三部作では一貫して境界線が曖昧になった生死が描かれている。そして三部作皆勤の原田芳雄の存在感。竹久夢二の伝記映画だからといって、決して一筋縄ではいかないのが鈴木清順。

ここからは、2023年12月に観た作品。
12月の記事を書いていないので、少し文章量多めで。

悪魔の追跡
ピクニックをする際は、うっかりカルトの敷地内に入ってしまわないように。彼らに出会ってしまった時点で他に道はなく、もう「詰み」なのでしょう。誰も信用できない系ホラーとかスリラー作品ってもどかしいし歯痒いし、共感性高いと椅子に座って見てるのがしんどくなってくる。オカルト×ニューシネマという映画のつくりも面白いし、絶望投げやりエンドの潔さも好きだった。
ナポレオン
初っ端いきなり馬のシーンで声出そうになった。ナポレオンとジョゼフィーヌの共存関係が面白いし、二人が愛し合ったことも事実。それと同時に、とりわけ当時の女は子供(というより息子)を産めなければ存在価値なしという部分はつらかった。でもジョゼフィーヌはきっと「自分」であり続け、気高く生きたと信じたい。二人のセックスシーンは子供ができないというプレッシャーの場面であるにも関わらずちょっとコメディっぽく撮ってる(ああいう体位好きじゃないわ〜)。笑えるシーンと大迫力でシリアスな合戦シーンをバランスよく堪能できた。彼の功罪はいろいろあるものの、映画の最後に表示されるとある数字。結局、これほどの数字を出してしまう時点で、たとえ何か立派なことを成し遂げたところでそれは"偉人"なのか。偉人とは何なのか、という今にも通じるメッセージを感じた。
VORTEX
これまで多くの実験的映像手法で観客を驚かせてきたギャスパー・ノエ。今作におけるスプリットスクリーンは最もそれが効果的に表れていたように思えた。あの分割画面は、「どれだけ長い時間を共に過ごそうと、夫婦であっても、結局のところ人間は本質的に"ひとり"なのだ。特に死ぬ時は」という意味を持たせているように思う。映画館の椅子に座り早送りもスキップもできない状態になった観客は、誰もが148分かけて同じだけ年をとり、死に近づいていく。ノエといいミヒャエル・ハネケといい、「これまで人の神経を逆撫でするようなどぎつい映画を作った人が急に老夫婦の最期をテーマに厳しくも優しい映画を作る」現象なに。
市子
彼女のことがまだ頭から離れない。市子が行ったことのいくつかは、決して許されることではないと思う。しかしどれもこれもあの過酷な状況の中で生きていくための彼女なりの術。作り手も彼女が「正しい」とは思っていない。もしかしたら、いやきっとこの日本のどこかにいる誰かの切実な叫びが聞こえるような作品だった。今年の日本映画の主演女優賞は決まりだろうと思える、杉咲花の圧巻の演技。彼女の涙の本当の意味が分かる二回目のプロポーズのシーンは心が痛くなった。受け取るものがとても大きい作品。


2024年もぼちぼち書いていきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?