活字が持つ力 『クライマーズ・ハイ』
note秋の推薦図書を読む。(2冊目)
1985年8月12日に発生した日本航空123便墜落事故を題材にした横山秀夫の長編小説。
この事故については、運輸安全委員会のホームページに詳細な調査報告書が上がっており、誰でも読めるようになっている。
考えられる事故原因、生々しい事故発生時のコックピットでの会話記録等が残っている。
歌手の坂本九ら著名人も数名乗っており、亡くなったことでも知られる事故である。
他にも、序盤に同じく群馬県で過去に発生した谷川岳宙吊り遺体収容について語る場面もあり、実際の事件・事故を作中に入れることで物語のリアリティが増している。
著者の横山秀夫自身が、小説家になる前は群馬県上毛新聞社に勤めており、まだ新人記者だった頃にリアルタイムでこの事故が発生した。
本作は当時の体験を基にした物語なので、未曾有の大事故が自分たちの県で発生した際の記者たちの動き、新聞作りの情熱と葛藤が紛れもないものとして描かれている。
現地で取材をする記者たち、それをまとめるデスク、どの記事をどのように扱うのか割り振りに奮闘する編集部から、印刷・配送を担当する部門まで、ひとつの新聞が世に出るまでの流れも知ることができる。
いわゆる新聞記者の「お仕事小説」として楽しむことができるが、その「お仕事」は過酷なものである。
記者という仕事も、やはり会社という組織に属するサラリーマンなのだ。
主人公である悠木和雅は、過去に事故で後輩を失っている。
そんな自分に後輩に指導をしたり、引っ張っていく資格は無いだろうと出世を拒み記者一筋でさまざまな記事を書き続けている。
そんな彼が、大事故を扱う全権デスクを任されることになる。
彼は主人公であるが、決して目立った敏腕記者でも、名探偵でもない。
記者として少しでも早く、ひとつでも多くの真実を伝えたいという思いと、そのためには事故の被害者や遺族の思いと向き合わなくてはならないといった自分が抱える思いや葛藤に常に苦悩している。
例え大きなスクープを手にしたとしても、その影響のあまりの大きさを考慮し記事を世に出すことを泣く泣く断念することもある。
日本を揺るがす大事故で亡くなった人間と、新聞の小さな記事にもならない誰も知らないような事故で亡くなった人間。
その「被害者」の命の重さに差はあるのか。
その答えを、悠木は探し続けるのだろう。
当時の現場を知っている本人しか書くことのできない、渾身の一冊である。
事実を基にした重く厳しい題材であるが、読後感はどこか爽やかで希望の光が射しているように見えた。
原田眞人が実写化した2008年の映画。
佐藤浩市が主役を演じたドラマ版もあるらしい。
同じく123便事故をモデルにしたとされている山崎豊子の小説。
内田裕也演じる実在の人物をモデルにしたとされる記者が、ロス疑惑、豊田商事事件、123便事故など80年代に実際に起きた事件・事故を追う映画。
豊田商事事件の犯人役、ビートたけしの演技が凄い。