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2023年11月に観た映画

11月に観た映画の感想。ネタバレ有。


ゴジラ -1.0

監督:山崎貴
2023年
125分

舞台は戦後の日本。戦争によって焦土と化し、なにもかもを失い文字通り「無(ゼロ)」になったこの国に、追い打ちをかけるように突如ゴジラが出現する。ゴジラはその圧倒的な力で日本を「負(マイナス)」へと叩き落とす。戦争を生き延びた名もなき人々は、ゴジラに対して生きて抗う術を探っていく。

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山崎貴監督が、ゴジラという巨大なフォーマットを使いながらも自らの集大成的作品に仕上げた力作。
自分は『ALWAYS 三丁目の夕日』とか『永遠の0』とか映画としてそんな好きじゃないけど、決してネタにされていい作家ではないと思うので(ネタにされていい人なんていないが)、この完成度でゴジラ作品を作り上げたことで、また評価が変わってくると思う。
半笑いにされてるのはおもにドラクエのせいだと思うけど…(未見だからなんとも言えない)。

官を描き、人間ドラマは最低限にドライに描いた『シン・ゴジラ』
民を描き、山崎監督らしいエモーショナルな作風に仕上げた今作。
近年の日本ゴジラ2作は、どちらが上も下もなく背中合わせのような存在。
そして、今作においてVFX技術は圧倒的な進化を感じさせる。
海での真昼間での戦闘描写なんて、素人目で見ても物凄く難易度高そうなのに本当にゴジラが船に迫っているようにしか見えず大迫力。

人間ドラマ部分も決して不要と思えないバランスで、朝ドラでも夫婦を演じた神木隆之介と浜辺美波のコンビネーションはさすがだし、「これから毎日こうやってネチネチ責められるくらいならいっそゴジラに踏んづけられたい」と思える安藤サクラの迫力とか、吉岡秀隆・佐々木蔵之介・山田裕貴の頼もしい3人とか、名前を知らない俳優も隅々まで良かったと思う。

序盤の"呉爾羅"の『ジュラシック・パーク』感、船に乗ってからの『ジョーズ』感で、監督は本当にスピルバーグ好きなんだななんて思っていたら、終盤にはノーランの『ダンケルク』感もあり。

日本が「国」というひとつの共同体から「個人」へと変わりつつある時の物語。
今作公開記念で上映されていたので観に行ったモノクロ版のシン・ゴジラ『シン・ゴジラ:オルソ』も面白かった。
モノクロになったことで、牧博士の写真として劇中でオマージュをささげる岡本喜八の『日本のいちばん長い日』感が増し増しに。
夜に街を破壊するシーンは本当に怖くて悲しくて、神秘的にすら見えた。


マーベルズ

監督:ニア・ダコスタ
2023年
105分

キャプテン・マーベルとの“ある過去”の因縁から復讐を誓う謎の敵が現れる。 その狙いは、地球をはじめ彼女が守ってきたすべてを滅ぼすことだった。 最凶最悪の敵サノスを圧倒する力でも救えない危機が迫るなか、彼女を家族のように慕う敏腕エージェント〈モニカ・ランボー〉、彼女に憧れるアベンジャーズオタクの高校生ヒーロー〈ミズ・マーベル〉と、3人が入れ替わる謎の現象が発生。 これまで一人で戦ってきたキャプテン・マーベルは仲間との運命的な繋がりからチームを結成し、新たな“強さ”に目覚めていく。

公式HP

軽く楽しく観られるスーパーヒーローアクション。
MCUは近年作品数の増加や映画の長時間化が進んでいたこともあり、短い上映時間で気軽に観られる作品の存在はどこかありがたく感じる。

今作の大きな魅力のひとつは、推しを目の前にして大興奮のカマラ。
なによりキュートだし、彼女がさらにヒーローとして成長する物語でもある。
カマラの家族も物語のいいアクセントになっていて、彼らが出てくるシーンはほっこり。

上映時間を短くした弊害なのか、ヴィランをもう少し丁寧に描いた方がとか、アラドナの人たちはだいぶ水とられてたけどその後大丈夫だったんだろうか(ラストにワンシーンでいいから後日談を入れておいて欲しかった)とか、アラドナで歌って踊るシーンは何を見させられているんだという気持ちになったとか(ディズニープリンセスのミュージカルパロディになっているんだけど)いろいろ気になるところもあるけれど、それをカバーする楽しさがある作品。

猫たち大活躍で動物好きも満足?
一見可愛い猫が実は人を食うクリーチャー。そいつらに人が食べられまくって一見絶望的なパニック状態だが実は人助けをしているところ。というコミカルな描き方のバランスはどこかジェームズ・ガン感あるなと思ったり。

これからヤングアベンジャーズが始まるのかと思うと楽しみ。
ケイト・ビショップ好きなのでスクリーンで観られて嬉しい
X-MENは全く観ていないのでラストがどういうことなのかは分からずじまいだったが、いい加減向き合う時がきたのか…?


正欲

監督:岸善幸
2023年
134分

横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。
同じ地平で描き出される、家庭環境、性的指向、容姿     様々に異なる背景を持つこの5人。だが、少しずつ、彼らの関係は交差していく。

公式HP

「普通」とは何か、なぜ「普通」ではいられないのか。
それぞれが事情を抱える人々の群像劇。
ひとりずつ名前が表示され、その人の物語が描かれながら少しずつ人々の人生が交差していく。
観進めていくと、印象的なあのファーストカットの意味も明らかに。
磯村勇斗は、先月観た『月』に続いてなかなかハードな役が続く。

この物語内だけであれば、寺井が一番理解がない、冷たい人のように見えるものの自分だって子供がYouTubeを始めるとなればそりゃああいう感じの反応になると思うし、彼だって家族のことを考えていないわけじゃない。悪人ではないのだ(風船を膨らませられないシーンに漂う人間味)。

いろんな「好き」の在り方があっていいと思う。という、一見いい感じにおさまった大学生2人のシーンのあとで少年への性的暴行容疑で教師の男が逮捕されるという構成は、「いろんな好きの在り方があっていいと思う、ただし、一方的に他者を傷つけるもの、少なくとも子供や弱者に危害を加えるものはNG」という注釈的メッセージを感じる。
多様性の話になると、「差別する気持ちも多様性」「小児性愛もひとつの愛の形であり多様性」と言う人はいるので。
「衣服が水に濡れたところが好き」ってよくよく考えればお前だけ水じゃなくねとか、後から思い返すと気付く部分もいろいろある。

「いなくならないから」と語る桐生。
一方、家族が自分の前からいなくなった寺井。
ふたりを対比するようなラストショットが印象的。
原作も読んでみたくなったし、「桐島~も大好きだけど、"朝井リョウ作品の映画化"で成功しているのはこっち」と言っている人がいて、確かに桐島は原作者というより吉田大八節がかなり強いのかもしれないな、なんて思った。


監督:北野武
2023年
131分

天下統一を掲げる織田信長は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重が反乱を起こし姿を消す。信長は羽柴秀吉、明智光秀ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長、軍司・黒田官兵衛の策で捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀はなぜか村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向け始める。だが、それはすべて仕組まれた罠だった。

公式HP

「男のロマン」「気高き武士の精神」「侍魂」と言い戦国時代に夢を見る者たちの頭をたけしさんがバカヤローと叩くような作品。

『アウトレイジ』シリーズで描いたのは、ヤクザのかっこよくない部分。
ヤクザっていきって威張ってるけど、あの世界ってきっとあんなもんだからね、と。
そんな世界の北野が次に描いたのは侍の世界。
現代劇のアウトレイジがあるからこそ、今作『首』は決して「昔の人って馬鹿でしょ」と言いたいのではなく「いつの時代でも人間ってこんなもんでしょ」というメッセージを受け取る。
所詮しょうもない世界なのだから、やたらとクールにキレキレの画で撮らない、というのも過去のバイオレンス作品と比べて感じるところがある。

今作が描く皮肉は、ホモソーシャルの中で第一線を生き延びてきた、大御所ならではの思うところもあるのだろう。
しかしホモセクシュアルは決して笑いどころにせず、ネタとして露悪的に描かない、そして中途半端に出して雑に扱うくらいならいっそ女性キャラはほとんど出さない、というのもたけしさんなりの誠実さなのかなと感じる。

自分は尾張の人間だから分かるけど、他の地域の観客は何言ってるか分かったんだろうかと少し心配になった尾張弁全開の織田信長。
今年は木村拓哉・岡田准一・加瀬亮という三者三様の信長を見ることができて楽しい。

観た誰もが語りたくなる清水宗治のシーン(リンク先本編映像)、急に押井守とかの世界観!?となる光源坊の設定、今回はこの解釈できたかと唸る織田信長の最期などなど、面白い要素が盛りだくさん。
タイトルシーンとラストの切れ味だけでも観る価値は十分。
黒澤明の『夢』的な、巨匠がキャリア終盤になるとアート寄りの方向にいく感じにならず、あくまでエンターテイメントに振り切った大作に仕上げているのがどこか嬉しく頼もしい。
お蔵入りにならなくて本当に良かった。


鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

監督:古賀豪
2023年
104分

昭和31年。鬼太郎の父であるかつての目玉おやじは、行方不明の妻を捜して哭倉村へやって来る。その村は、日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族が支配していた。血液銀行に勤める水木は、一族の当主の死の弔いを建前に密命を背負って村を訪れ、鬼太郎の父と出会う。当主の後継をめぐって醜い争いが繰り広げられる中、村の神社で一族の者が惨殺される事件が発生。それは恐ろしい怪奇の連鎖の始まりだった。

映画.com

正直この作品を観るとは思わなかったし、なんなら上映前には存在すら知らなかった作品であるものの、あまりの盛り上がりっぷりにちょっと気になってしまった。
鬼太郎の映画がバズることある?声優人気?と半信半疑で観に行った結果、まず「これPG12どころじゃなくない?」という過激表現への驚き。

これは観た誰もが思うことではあるが、今作は明らかに横溝正史作品、とりわけ金田一耕助シリーズをベースにしている。
田舎の名家、後継と遺産相続、遺言発表の場とそこにいるひとりだけ様子がおかしい人、連続殺人などなど。
自分を含めた横溝作品ファンであれば、もうちょっとやそっとの近親相姦やえげつないことになっている死体には驚かないが、まさかそれに通じるようなものをアニメでやるとは。いや、アニメだからこそできたのか?
妖怪が出てくるアニメなので多少のホラー描写もあるんだろうなとは思ったが、こういう方向で観る者にインパクトを与える作品に仕上がっているのは驚き。
時代設定に合わせているので、主人公だろうが誰だろうが煙草吸いまくり、ポイ捨ては当たり前。

なにより、原作者の水木しげるに従軍経験があること、戦争で過酷な体験を強いられたことが今作の大きなテーマにもなっている。
時折挿入される水木の戦時中の記憶。
今の映画館状況だと、戦後の日本ではあっちでゴジラが出現し、こっちで妖怪が出現しで大変なことになっているのだが、戦争を生き残ってしまった者としての葛藤、自分はこれからどう在るべきかという点でこの2作は共通のテーマがあるように思える。

これはファンが増えるのも納得な、水木とゲゲ郎のバディものとしての面白さ。
鬼太郎が身に着けてるアレってこういう経緯で出来たんだ!という発見。
今作があることで、鬼太郎というヒーローの存在がさらに尊く思えるのではないか。
いろいろ書いたけど、正直この映画以外の鬼太郎作品は全く読んだことも観たこともないので、まずは『総員玉砕せよ!』『墓場鬼太郎』あたりを読んでみようと思う。

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