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2022年11月に観た映画

ループせず日々は続いているので、気付けば今年もあと1ヶ月。


窓辺にて

監督:今泉力哉
2022年
143分
フリーライターの市川茂巳は、編集者である妻・紗衣が担当している人気若手作家と浮気していることに気づいていたが、それを妻に言い出すことができずにいた。その一方で、茂巳は浮気を知った時に自身の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。そんなある日、文学賞の授賞式で高校生作家・久保留亜に出会った市川は、彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、その小説にモデルがいるのなら会わせてほしいと話す。
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今泉力哉の新作は完全オリジナル脚本とのことで、監督の世界観を存分に味わうことができる、純文学を1ページずつ丁寧に読んでいるような気持ちにさせる極上の作品となっている。
「結局、人を愛するって、好きになるって何?」ということを描き続けている作家である。

この物語に出てくる人はみな「正しさ」で生きているわけではない。
そんな人たちが悩んで、もがいている様は現実の私達そのものだろう。
どこかズレた人と人の出会いと交流こそが、ガラスで出来たコップに差す反射光のような、長い人生での一瞬の煌めきを作るのかもしれない。
決して楽しいことが続く物語ではないが、全体にオフビートな笑いがちりばめられているのが魅力で、何箇所か思わず笑ってしまうシーンも。
特に主人公がパチンコをするシーンは絶品で、稲垣吾郎ちゃんがパチンコを打っているという絵面だけでも楽しい。

人と人が分かり合えること、分かり合えないことの面白さ。
そして、人が何かを手放すことについての物語である。
そう聞くとどこか寂しい気もするが、確かに愛を感じる、後味も爽やかな作品。
手放すということは、きっと失うことでも、消してしまうことでもないはず。


MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない

監督:竹林亮
2022年
82分
小さな広告代理店に勤める吉川朱海は、憧れの人がいる大手広告代理店への転職を目指しながらも、仕事に追われる多忙な日々を過ごしていた。ある月曜日の朝。彼女は後輩2人組から、自分たちが同じ1週間を何度も繰り返していることを知らされる。他の社員たちも次々とタイムループに気づいていくが、脱出の鍵を握る永久部長だけが、いつまで経っても気づいてくれない。どうにか部長に気づかせてタイムループから抜け出すべく悪戦苦闘する社員たちだったが……。
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映画、ドラマ、アニメ、小説、漫画、さまざまな物語作品で描かれるタイムループもの。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『恋はデジャ・ヴ』『All You Need Is Kill』『時をかける少女』『ジョジョの奇妙な冒険(バイツァ・ダスト)』など作品名を挙げていけばキリがない。

今回のタイムループの舞台は、日本の小さなオフィス。
ほぼワンシチュエーションで進む物語なので舞台でやっても面白そうだが、映像ならではの魅力がある作品である。

小さな劇場から公開が始まり、じわじわ口コミで評価を伸ばしているところ。
登場人物たちが団結し目の前の困難(世間を揺るがす危機とかではなく、当人たちにとってだけの出来事)を乗り越えようと奮闘する姿に観客も心動かされ、気付けば応援してしまうというところはやはり2017年に社会現象にもなった『カメラを止めるな!』を思い出す。

タイムループを経て人生が一変したり、何か偉大な成功を掴んだわけではない。
それでも、確かに何かが変わった彼女達の姿を見て、私達もどこか晴れ晴れとした気持ちになる。
送られてきたCM動画を見た時のマキタスポーツの一言コメントが毎回ツボ(「(リングの)呪いのビデオ?」とか)。
主題歌・劇中歌がlirycal schoolの過去曲なので、大音量で聴けたことも嬉しかった。

劇中でも流れる曲。
数々の映画オマージュに溢れたMVが可愛い。
思えばサンプリングや繰り返し(とそこからの変化)の音楽であるヒップホップは、タイムループものの主題歌に適しているのか。


ブラックパンサー

監督:ライアン・クーグラー
2018年
134分
絶大なパワーを秘めた鉱石「ヴィブラニウム」が産出するアフリカの国ワカンダは、その恩恵にあずかり目覚しい発展を遂げてきたが、ヴィブラニウムが悪用されることを防ぐため、代々の国王の下で世界各国にスパイを放ち、秘密を守り通してきた。父の死去に伴い、新たな王として即位したティ・チャラは、ワカンダの秘密を狙う元秘密工作員の男エリック・キルモンガーが、武器商人のユリシーズ・クロウと組んで暗躍していることを知り、国を守るために動き始めるが……。
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黒人主人公のスーパーヒーロー映画、『アベンジャーズ インフィニティー・ウォー』が公開されるまではMCUの中でもトップレベルの大ヒット作ということで、改めて今作の新しさと強さを思い知らされる。

アカデミー賞で衣装デザイン賞・美術賞を受賞したように、ワカンダ王国の世界観の作り込み、、そして戦闘コスチュームだけでなく、人々が身に着けるもの全てが色とりどりで美しくかっこいい。
ブラック・カルチャーへのリスペクトに溢れた作品である。

気高い国王ティ・チャラと、「死の商人」として王位を狙うキルモンガー。
黒人の社会的地位を向上させたいという気持ちと、父を殺害したうえ幼かった自分を見捨てた伯父一家に復讐を企むキルモンガーは、武器を持ってやろうとしていることは間違っているものの、演じるマイケル・B・ジョーダンの圧倒的な魅力もありどうしても観客が肩入れしてしまうキャラクターである。
MCU作品には様々なヴィランが存在するが、その中でも屈指の名悪役に思える。
殺した人数分だけを刻んだ身体の傷は、その数を見せつけるためか、それともその分自らも痛みを感じているという証なのか。

主演のチャドウィック・ボウズマンは、彼本人から滲み出る優しさと真人間っぷりがまさにスーパーヒーロー役にぴったりである。
彼が演じた『42 世界を変えた男』の黒人初のメジャーリーガー、『21ブリッジ』の正義とは何か苦悶する刑事などの役柄にも通じるものがある。

主題歌の"All The Stars"、劇中で流れる"Pray For Me"の他にも名曲揃いで、サントラとは別にケンドリック・ラマーが制作したインスパイア・アルバムも必聴である。


ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー

監督:ライアン・クーグラー
2022年
161分
国王ティ・チャラが病により命を落とし、悲しみに包まれるワカンダ。先代の王ティ・チャカの妻であり、ティ・チャラの母でもあるラモンダが玉座に着き、悲しみを乗り越えて新たな一歩を踏み出そうとしていた。そんな大きな岐路に立たされたワカンダに、新たな敵となる海の帝国タロカンの脅威が迫っていた。
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前作で主人公ブラックパンサー=ティ・チャラを演じたチャドウィック・ボウズマンが2020年8月に大腸癌で亡くなったことにより、彼に捧げる作品となった。

冒頭、ティ・チャラが病に倒れワカンダの圧倒的な科学力をもってしてもどうにもならなかったという絶望感、喪失感から開幕する物語。
いつもは気分が高揚するマーベルのロゴも、今回ばかりは哀しい。

ティ・チャラに想いを馳せながら穏やかに暮らすことも叶わず、海底王国タロカンもヴィヴラニウムも保持していたことが明らかになり、この2つの王国間には緊張感が高まる。
観る前はタイトル通り「ワカンダ・フォーエバー!」と感極まり燃える作品になると思っていたが、そう安易に感動には持っていかずシビアな戦争が繰り広げられる展開は、MCUが現実世界の鏡だからなのかもしれない。

何度も回想でティ・チャラを出したり、ましてやCGで彼の姿を作って出すことはなく、本当に大切なところで彼の存在を思い起こさせる作りは、改めて制作陣のチャドウィックへの愛とリスペクトを感じる。

ヒーローたちが己と向き合い、自らの過去や傷に触れたフェーズ4。
果たしてフェーズ5はどうなるのか。


トータル・リコール

監督:ポール・バーホーベン
1990年
113分
西暦2084年、地球の植民地となっていた火星では、エネルギー鉱山の採掘を仕切るコーヘイゲンとそれに対抗する反乱分子の小競り合いが続いていた。一方、地球に暮らす肉体労働者のダニエル・クエイドは、毎晩行ったこともない火星の夢を見てうなされていた。夢が気になるクエイドは「火星旅行の記憶を売る」というリコール社のサービスを受けることに。しかし、それをきっかけに今の自分の記憶が植えつけられた偽物であり、本当の自分はコーヘイゲンの片腕の諜報員ハウザーだったと知る。クエイドは真相を知るため火星に旅立つが、真実を隠匿するコーヘイゲンに命を狙われ……。
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フィリップ・K・ディックが1966年に発表した短編小説『追憶売ります』をアーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化した作品。
夢か現実なのかというテーマ、そして赤いカプセルというモチーフはおそらく『マトリックス』が影響を受けているだろう。

CG技術が今ほど当たり前ではない時代。
この映画を有名にしたのはその内容の面白さはもちろんのこと、ロブ・ボッティンが手掛けた特殊メイクアップもあるだろう。
人間の顔が膨れ上がって目玉が飛び出たらきっとこんな風になるのだろうと思わせる、強烈で一度観たら忘れられないシーンの数々は今も色褪せない。

有名なシーン。
割れて中から出てくるシュワの顔も作り物なのだということはしっかり見たら分かるが、それでも一体これはどうなっているんだと驚かされる。

この物語で描かれることはどこからが夢でどこからが現実なのか。
ダニエルはあの後どうなったのか。
汗を垂らしたリコール社の男の言っていたことは本当に嘘だったのか、ひょっとして本当だったのではないか。
監督のポール・バーホーベンははっきりと自分の意図をコメンタリーで明言しているが、観た人それぞれの考察を話し合うことも面白いだろう。
そもそも映画というもの自体が作り物であり、さらに今作に出てくるさまざまな特殊メイク=作り物も相まって、観客を迷宮に誘うような、観ていてクラクラしてくるような映画体験を与えてくれる唯一無二の作品である。
乳房が3つある謎の女性を見て、「何でも多ければ良いってものじゃないな」と思った人も少なくないのだろう。多分。

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