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2022年10月に観た映画

10月に観た映画の記録。

ネタバレにあたるのか分からないけれど、多少具体的な内容についても記載あり。


ヘルドッグス

監督:原田眞人
2022年
138分
愛する人が殺される事件を止められなかったことから闇に落ち、復讐のみに生きてきた元警官・兼高昭吾。その獰猛さから警察組織に目をつけられた兼高は、関東最大のヤクザ「東鞘会(とうしょうかい)」への潜入という危険なミッションを強要される。兼高の任務は、組織の若きトップ・十朱が持つ秘密ファイルを奪取すること。警察はデータ分析により、兼高との相性が98%という東鞘会のサイコパスなヤクザ・室岡秀喜に白羽の矢を立て、兼高と室岡が組織内でバディとなるよう仕向ける。かくしてコンビを組むことになった2人は、猛スピードで組織を上り詰めていく。
映画.com(https://eiga.com/movie/96234/)

この頃蜜月関係になりつつある原田眞人と岡田准一。
タッグ最新作は深町秋生『ヘルドッグス 地獄の犬たち』を原作とした潜入捜査刑事もの。


組織の人間関係、登場人物の多さに最初は混乱するが、全て理解できなくても十分楽しむことができる。
今作は、ひとつひとつを丁寧に説明することよりも勢いやテンポを優先させているように思える。

迫力満点のアクションシーンは、配信が始まったら一時停止したりスロー再生しながらまた楽しみたい。
アクションだけでなく複雑な人間ドラマとしても味わい深い作品となっており、彼等の関係性が熱くも切ない。「ヘルドッグス沼」という言葉が生まれるのも納得。
リアルな生活では自分が関わらない(できれば関わりたくない)ような人達の生き様を覗くことができたり、自分はこんな目に遭いたくないということを目撃することができるのは、まさにフィクションの面白さだ。

こういった作品では女は蚊帳の外になることも少なくないが、今作に出てくる女性キャラクターは皆存在感を放つ。結局、この物語で一番「強い」人間は誰なのかを考えると面白い。

『ヘルドッグス』はPG12(12歳未満の鑑賞は保護者の助言・指導が必要)指定となっている。
あくまでPGなので別に何歳の人が観てもいいのだが、自分が観た回は明らかに5歳くらいの少年が親と来ていて驚いた。
大音量で銃声が響き、暴力とセックスが渦を巻く作品で大丈夫かと他人ながら心配したが、終わって劇場が明るくなった時に「おもしろかったー」と言っていたのでまぁ良いか。


マイ・ブロークン・マリコ

監督:タナダユキ
2022年
85分
鬱屈した日々を送っていた会社員・シイノトモヨは、親友のイカガワマリコが亡くなったことをテレビのニュースで知る。マリコは幼い頃から、実の父親にひどい虐待を受けていた。そんなマリコの魂を救うため、シイノはマリコの父親のもとから遺骨を奪うことを決意。マリコの父親と再婚相手が暮らす家を訪れ、遺骨を強奪し逃亡する。マリコの遺骨を抱き、マリコとの思い出を胸に旅に出るシイノだったが……。
映画.com(https://eiga.com/movie/96450/)

原作が話題になった時に買って読んだが、その圧倒的な勢い、熱量、今まであまり見たことがなかったハードボイルドな女性主人公像が印象的だったことを憶えている。

実写映画化決定、そしてそのキャストが発表された時は最初こそ「永野芽郁と奈緒、逆じゃないか?」と思ったが、実際に観てみると、思った以上に忠実な原作の映像化となっている。
映画を観てから原作を読み返したが、話の流れはもちろん台詞もほとんどそのままで、話自体が短いので映画用に少し追加シーンを入れているくらいの変化である。

何より、永野芽郁と奈緒がシイノとマリコになっている。
細かいところだと、マリコのLINEアイコンはやけにリアリティーがあったし、煙草を吸う練習を重ねたというやさぐれ永野芽郁=シイノをスクリーンで観ることができて嬉しい。

親友の自殺から始まるハードな作品ではあるが、ところどころで笑えるのも魅力。
窪田正孝演じるマキオ絡みのシーンは、悲劇の中でもどこか和み、救いがある。
マキオとの電車のやりとり、バスで出会う女の子など、少しずつ追加された映画オリジナルのシーンがよりエモーションを高めていく。
堅実に原作を映像化し85分というコンパクトな時間におさめているので、一気に駆け抜けるような物語となっている。

1人の肉体はもうそこに存在しないが、『テルマ&ルイーズ』のような、2人の女性の魂のロードムービーである。

※「映画化」と書いてある帯付きの原作本を購入すると、売上の一部が自殺防止団体に寄付されるそう。


8 1/2

監督:フェデリコ・フェリーニ
1965年
140分
一流映画監督のグイドは、新作の構想に行き詰まってしまいクランクインを2週間も先延ばしにしていた。療養のため温泉地を訪れるグイドだったが、女性たちとの関係や仕事上の知人たちとの現実に悩まされ続けるうちに、様々な夢や幻が彼の前に現われるようになり……。
映画.com(https://eiga.com/movie/48642/)

8 1/2。
映画について勉強していくと、「フェデリコ・フェリーニ」という名前、そしてこのタイトルにいつかは接触することになる。
もう自分が学校で帯分数を習う時は「はちとにぶんのいち」という言い方だったので、何故これで「はっかにぶんのいち」というタイトルになるのかということも最初は分からなかった。
どうしても松本隆が作詞したKinKi Kidsの曲かサクマドロップスの最後に残るやつが思い浮かんでしまうのだが。

どうせ今の自分が観ても理解できないだろうと思って避けていた作品だが、午前十時の映画祭で上映されるということで、このまま一生観ないのも勿体ないしせっかく劇場でやるのでようやく鑑賞。
あまりにクラシックな作品なので、「あぁ、あの作品のあれは8 1/2が元ネタだったのか」というモチーフも多々ある。
エヴァTVシリーズへの影響も大きいだろう。

古今東西、数多の映画監督が自分の好きな映画、オールタイムベスト映画に挙げるこの作品。
それは、まぎれもなくこれが映画監督を描いた映画だからであろう。
映画を作るということは、常にアイデアに追われ、時間に追われ、「自分が作りたいもの」と「世間から求められるもの」の板挟みになり、何かの選択を迫られることの連続である。
大衆は勝手に期待をし、良くも悪くもすぐに掌を返す。
他の映画監督にしてみれば、いつもの自分の苦悩を、ついにフェリーニが映画にしてくれた!という思いがあるのかもしれない。
言うまでもなく、今作の主役グイドは映画監督フェリーニそのものなのだ。

記憶、現実、幻想が曼荼羅のように入り混じるこの作品。
目を見張るような美しいシーンがあれば、なんともシュールな部分もあるのが可笑しい。
この何がなんだか分からない、夢幻的で哲学的で迷宮のような雰囲気を楽しむ作品なのだろう。
もはや希望なのか絶望なのかすらも分からない、しかしどこか祝祭感の漂うあのラストはやはり忘れ難いものがある。


EXIT

監督:イ・サングン
2019年
104分
韓国のある都心部に、突如として原因不明の有毒ガスが蔓延し、道行く人たちが次々に倒れて街はパニックに陥る。外が緊急事態になっていることは知らず、高層ビルの中で母親の古希を祝う会に出席していた青年ヨンナムは、そこで大学時代に思いを寄せていた山岳部の後輩ウィジュと再会する。しかし、そんな彼らのもとにも有毒ガスの危険が迫り、2人は地上数百メートルの高層ビル群を命綱なしで登り、飛び移り、危険な街からの脱出を図る。
映画.com(https://eiga.com/movie/91946/)

韓国でスマッシュヒットしたサバイバル・パニック映画。
パニック映画の序盤はゆるければゆるいほどその後の悲惨な事態が際立つのだが、今作の冒頭もかなりゆるいファミリーコメディで、母親の古希祝いのパーティーという、おそらく日本ではあまり馴染みのない行事も新鮮で観ていて楽しい。

就職も上手くいっていない、どちらかというと冴えなかった主人公が、元山岳部の経験を活かし様々な困難を乗り越えていく。
やはりいつだって人間を救うのは、知識とユーモアとほんの少しの勇気なのだ。
自分は弱い、自分だって本当は一番に助かりたい、それでも目の前にいる困っている人を助けるために一歩を踏み出す姿は、思わず胸が熱くなる。

重要なシーンでドローンが出てくることも新鮮で、「現代のパニック映画」という印象がある。
パニック映画の魅力のひとつに、全く知らない者同士が支え合って危機に立ち向かうというものがあるが、ドローンという顔も名前も知らない人々の象徴とも言えるものがピンチの時に駆けつけるところは、本作の白眉と言えるだろう。
ハラハラして笑って泣けて後味は爽やか。こんな作品を沢山観たいと思える、最高のエンターテイメントである。

主演2人が踊る主題歌のダンス動画が可愛い。

2014年のセウォル号沈没事故のこともあり、韓国の人にとって「危機的状況に直面した時、人としてどうあるべきか」という思いは大きなものがあるのだろう。
そして、今年2022年10月29日、ソウル市の繁華街・梨泰院地区にて痛ましい群衆事故が発生した。
まだ詳細が分からない状態で何かを言うことはできないが、時に映画のような創作物を現実の悲劇が追い越してしまうことがある。映画のように「いろいろあったけど最後には上手くいった」というようにはならない。
このような危機の際には、様々な情報が錯綜することがある。
真実のように語られる憶測がある。悪意あるデマもある。ヘイトが飛び交うこともある。
この事故を、違う地で起きたことだからと他人事で考えてはいけないだろう。
いざという時に人としてどうあるべきか、それは決して事故の当事者だけではないはずだ。

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