しゃべるピアノ【ショートショートnote杯】
少女は車椅子に乗っていた。
足は治っていたけれど、こわくて1歩踏み出すことができずにいた。
いいの。歩けなくても。友だちなんていなくても。こうしてお部屋でピアノを弾いているのが好きだもの。
大人たちにはそう言っても、もうずっとピアノなんて弾いていない。本当は歩きたい。広い世界に出てみたい。
ピアノは、少女の強がりや、一人ぼっちの悲しみを知っていた。
少女が2階の部屋に閉じこもるようになったある日。
ふと、ピアノは、空に虹を見つけた。
少女は気づいていない。
この虹を見せてあげたら、きっと笑顔を取り戻してくれる!
ソ、ラ、
ほこりまみれのピアノは、少女に語りかける。
ソ、ラ、ソ、ラ、
少女がゆっくりピアノを振り返る。
私の声に気づいてくれた!ピアノはうれしくなって、さらに音を響かせる。
ソ、ラ、ソ、ラ、ソ、ラ、ソ
「おばけぇ!」
言うが早いか、少女は車椅子から飛び跳ね、階段を駆け下りていった。
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