料理に使える裏声

 秘訣といえば、料理にだってあったわ。少なくとも、私のつくる料理にはそれがかかせなくなったの。

 なぜならそのおかげで、私も誰がいつどんなふうに食べても、うなるほど美味しくって、食べることに夢中になって、おかわりをしきりにねだられるんだから。

 昨夜は、リスさん達をお招きしたの。先週正装して来たキツネさんや、先々週ハンカチを置き忘れて行ったこだまさんとやっぱりおんなじ反応で、私は何度もキッチンとダイニングを行き来して、温かいうちに、こころゆくまで召し上がってもらった。

 みんなの食べっぷりをみると面白くて、たくさん作るのも楽しい。メニューはまぁ、私がぜーんぶ食べたいものだらけなんだけどね。

 リスさんと一緒に食べたのは、どんぐりのフォカッチャ、玉ねぎと人参とセロリの野菜スープ、ジャガイモのローズマリー焼き、サーモンとトマトとアボカドのキッシュ。

 デザートには、いちじくのジャムを白いクリームの層と交互に入れたミルクレープ。それから、カラフルなドライフルーツをたくさん入れた、あたたかいフルーツティー。レシピはほとんど手に覚えてもらって助かってる、私はその秘訣に集中できるから。

 そう秘訣、それはね。ずっと料理中は私、裏声ではなしかけるの。きっと、その姿を窓からみたらおかしな人なんでしょうけど、そんなの全く気にしない。だって、私しかいないんだもん。

 もとから歌うのが、音が出なくても好き。うるさく思う人もいて一時は封じこめてたけど、簡単に体でやめられるものじゃないわって決めたら、笑い飛ばせた。とくに高い音が響く場所が好きだし、盛り上がる気分は制御できないもの。

 最初は、知ってる歌を何曲か、歌える部分だけ気まぐれに、台所で歌ってたの。これでも十分、出来上がりはかなりいい感じだったのよ。

 でもある日、なんとなく歌うような裏声で、何度もつぶやきながらつくってたの、まとめて3日分。それがあまりにも美味しくできて、いつまでも食べられるような懐かしい味で、一晩のうちにひとりで食べちゃった。あれ?もしかして、あの裏声が、ものすごく効果があったんじゃないかなって。

 よくね、あいじょうを込めるって聞くわ、でも私にはそんなにピンとこなくてね、裏声を使っちゃうのがわかりやすくて好き。だって私がいれば、どんな気分でも何も持っていなくても、今すぐできる。

 リスさんにキツネさんにこだまさん。来週はサメさん。みんな絶対にわからない隠し味・・・まぁ私もだわ、昨日のも再現できないわね。裏声って放ったそばからすぐとけて流れちゃって。

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