嗜好品をてなずける

2020年9月1日 00:21

あんなに好きでよく飲んでいた、コーヒー、紅茶、緑茶。

いつからか、あまりすすんで飲まなくなった。以前はそんなことはなかったのだ。好きな時に飲んでも、ぐっすり夜眠れていたし、一日に何杯飲んでも、胃が痛くなることもなかった。

しかしここ数年のうちに、それらを飲むと、一日中神経が高ぶってしまうようになった。昼間一杯だけ飲んでも、夜に眠れなくなってしまうのだ。どうやら、カフェインが原因なのではと私は最初に思った。

日を改めて何度も試してみたが、同じ感じである。どうやら、今までなんともなかったカフェインが、体にとっては、刺激物の部類になってきたのかもしれない。いかんせん一度心配し始めたものをすぐ元通りにするには難しい。今すぐ決めつけず、長期的にみていればまた、もしかしたら、いつのまにか元に戻るかもしれない。けれど、とりあえず今はそうみたいである。

本当は、香りも楽しみたいし、一息つきたい時に飲みたいのだ。湯気をみて、マグを片手にOR両手で抱えて、一息つく格好だけでもしたい。水ではそれは味気ない。それに、あれらの嗜好品は、作るところから既にリラックスタイムなのだ。

けれど、そのことがあって以来、どうも体が受け付けない。でも、たまには飲みたい。だいぶ前に安い時に買っていた20パック入りのドリップコーヒーと、にらめっこしている。個包装のパックで、賞味期限はかなり長いが、その期日までに全部飲み切れるかも怪しいペースである。それではもったいない。これはインスタントじゃなくて、ドリップなんだ、しかもお買い得に手に入れたんだ！と、変なところに意地が出るのである。

なので、すこぶる体調のいい時にだけ、意識的に体に確認してから、ごくたまあに飲むようにしている。

しかし結局、飲みながらも、「眠れないなぁ今夜」と頭の片隅で思ってしまうので、リラックスできているかというと、少し違う気もする。心なしか、過去に香りにリラックスしていた自分と、今感じる香りが少し違うように感じて、あれ？ドリップコーヒーってこんな香りだったっけ？といぶかしがる自分もいる。でも、少しでも飲みたいと思っているうちは、体と相談しながら折り合いをつけて飲んでいこうと思っている。

そんなことを意識していなかった時は、当たり前ではなかったのだなと思う。きっと、いつも体がなんとかしてくれていたのだ。私の場合は体が子供に返っているらしい。

そんなわけで、カフェインとは徐々に距離を置くようになった。そして、ノンカフェインを自然と選ぶようになり、麦茶を多く飲むようになり始めたのである。

この夏、いつもの安い水出しパックのものとは違うものを、選んでみた。少し値段が高くて、粒の大きな、国産大麦の麦茶である。

香り高いとパッケージに書いてあったし、とっても楽しみだった。初めて買うメーカーのものだ。

説明通りに煮だして、そのまま放置してある程度時間を置く。水分を含んでずっしり重くなり、粒が膨らんだテトラパックを取り出す。麦茶イコール粉々のパックという姿を見慣れていたので、ひしめき合う黒々しい粒たちに少しぎょっとする。集合体恐怖症ではないが、そのくらい存在感を感じる。そして、ものすごくいい香りだ。

私は、熱いうちに飲んでみた。すると、いつもの麦茶とは、全く別のジャンルのお茶と感じるくらい、別格だった。パッケージの通りである。香り高く、まるでコーヒーのように芳醇で香ばしい。しかも、ノンカフェインだし、健康面で安心できるならうれしいし、大満足である。

そして、私はある日、牛乳を買ってみた。作ってみたくなったものがあったのだ。麦茶オレである。

麦茶を少し濃いめに煮出し、温かい牛乳で割る。こんなに香ばしい麦茶がベースなら、カフェオレに引けを取らないはずである。予想通りとってもおいしくて、おさとうを少し加えると、どれだけでも飲めそうなくらい、やさしい味になる。安いパックの麦茶でも作れるが、品質の良い麦茶で作ると、やはり香りも味も、全然違うのである。

とっても気に入る麦茶に出会えた。毎日、煮出して作ってはポットに入れた。夏には暑かったけれど、温かいほうが、香りも湯気もあって好きだった。あっという間に国産麦茶はなくなった。

カフェインを気にし始めてから、飲み物の選択肢は狭くなったかもしれない。でも、他のノンカフェインの飲み物があることを知ったり、メーカーを変えたり、飲み方を変えてみることで、新しい体験ができたりもする。

この先も、カフェインレスを選び続けるかというと、そんなにしっかりこだわることは正直したくない。ただ体は第一に考える。けれど、毎回そこまで神経質にならなくてもよくなるまで、カフェインという言葉とうまく付き合っていこうと思う。

もしかしたら、「カフェイン＝眠れない原因」と強く思い込んでいることも、そういう現象を強固にして作っているかもしれないな、と思う自分もいる。

カフェイン云々より、その時いちばんリラックスできそうなものを飲んで、リラックスして眠れるならいいのだ。