ハイキングのあとは青い鳥

はじめての山にまた登ってみた。330mほどの山である。駐車場に誰もいない。朝から晴天に恵まれたが、気温は昨日と打って変わって肌寒い。

登りはじめてすぐ、強風とともに狐の嫁入りのような雪が降ってきた。乾いた薄茶色の落ち葉に、カリカリと音を微かに鳴らして。

山頂まで30分ほど、誰もいない登山道を行く。冷たい冷気や、生暖かい空気が風の向きによって入り混じる。山の上で感じるそれは、地上よりも厳しいものを感じる。山の匂いがあまりせず、鳥の声も足を止めて遠くにやっと聞こえるほどだった。ただ明るい陽射しが枝葉の間から道を照らして、すこし休むたびに田畑や集落を振り返って見下ろす。アカマツが多く、層になったカラフルな岩が目立つ岩山に見受けられる。

やっと山頂に着く。山頂の中央には三階建てのしっかりとした櫓があった。山頂でも十分見晴らしはいいのだが、櫓からの景色はより圧巻だった。あまりにも360度見渡せ過ぎると強風がよけいに気になり、置いてあったゴツい望遠鏡もさっと覗いて、見渡したらすぐ櫓を降りた。東西南北の山々を見渡せる所がこんなに身近にあったことを発見できた。山頂を早々に後にし、来た道を下りず、東西に伸びる尾根づたいを歩いた。その道も北側が絶壁の岩で、南側に向かって勢いよく吹き付ける風は岩肌に当たって雪を上昇させ、一気に南に抜けていく。そんな風を浴びて感心しつつ歩いた。

尾根の端からは下山して行った。チラチラした雪も完全に止んで暖かくなってきたのか、岩の隙間から出ていたトカゲを見かけた。なぜかうれしい気分だった。一旦は無事に下山して、すぐ隣にある別の山の登山口があった。看板には片道40分とある。結構距離があるが、せっかくだったので登ってみた。流石に膝がガクガクしてきたので休みながらきつい勾配を登った。息を切らしながら、頑張るって何なんだろうと精算したがっている記憶が否応なしに出てくる。道中、色の鮮やかな切り株が沢山見られ、最近間伐か整備されたものだと思うが、切り口に顔を近づけ木の香りを楽しんだ。フィトンチッドを体に取り込めていると勝手に思い込むのが肝心である。

山頂の看板と神社が見えてきて、どうやら展望台はなかったのでなんとなく引き返した。登って来た道と別ルートで、勾配の緩く道が長い方で下りて行った。風が木の葉を揺らす音がメインで、本当にシーンとしている。太陽は相変わらず照りつけて、ぽかぽかしつつも木々と岩と風の雰囲気に埋もれはじめると、穏やかなのに心許なくもなり、鳥の鳴き声を耳が求める。遠くに囀りが聞こえると、ああ、仲間がいると確認してどこか安堵する自分がいた。動物と鉢合わせは怖いが、何かの気配が全くないのも落ち着かないというような気持ちだった。もし出くわすならリスだとうれしい。

途中高い木の間で鳥が三羽、いきなりギャーギャーと鳴いて飛び立った。逆光で種類がよく分からないがひどく驚く様を見て、よっぽど普段人が通らない山を自分が歩いている気がした。ここの山も外から見て予想するよりも光は道までよく差し込み、滲み出る岩清水の音、常緑の木々や落ち葉に大小のどんぐりを見ると、豊かさを感じた。

ようやく下山してほっとしながら駐車場に戻る道で、背が青くお腹が黄色い小鳥が目の前に現れ、疲れも少しだけ飛んだ。

休憩しながら、3時間ほど登り下りしていた。

帰りに、近場にある山々が見渡せる見晴らしのいいカフェに寄り、両開きのテラスドアのすぐ向こうで満開に咲く梅が強風で揺れるのを見ていた。コーヒーと薪ストーブと膝掛けでぬくぬくしている席から。地上に吹く強い風ほど早く流れないエクレアのような雲の群れを不思議がりながら。




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