【一人読書会】道徳の系譜学 第11回 第一論文終了

ニーチェ著・中山元訳「道徳の系譜学」(光文社古典新訳文庫)の読書記録。
以下本編開始。


第一論文 「善と悪」と「良いと悪い」

十六 ローマとユダヤの戦い

 ここでニーチェが結論を語ろうと話を始める。貴族的価値(良い/悪い)と奴隷的価値(善/悪)という二つの価値基準の闘争があり、ほぼほぼ奴隷的価値が勝利を収める結果となっている。しかし、完全というわけでなく、貴族的価値が勃興する瞬間もあるという。

 この二つの価値の象徴的なものについて、ニーチェはローマvsユダヤの対立をあげている。ローマが貴族的価値で、ユダヤが奴隷的価値だ。ローマにおいて優位であった貴族的価値が、奴隷的価値に屈服してしまった。
 ルネサンスにおいて、古代の貴族的価値の復権運動も起こったりしたが、宗教改革という極めてルサンチマン的な運動がすぐに起こり、また奴隷的価値の優位が戻ってきた。
 さらにフランス革命においても、フランスの政治的高貴さが、民衆のルサンチマンによって崩れたことを指摘している。
 しかしここで、古代の高貴さの理想が、受肉した人物が登場した。ナポレオンだ。ニーチェはナポレオンの征服活動のうちに、あの古代の溌剌とした力が漲る貴族的価値を見たのだろう。

十七 これからの問題

 これにて第一論文は終了だ。ニーチェはこの二つの対立は、大まかにいえば、奴隷的道徳の勝ちということになりそうだと認めながらも、これでいいのかと自問している。この対立は先延ばしにされているだけであり、いつの日か貴族的価値の燃えるような復権があるのではないかと指摘してる。
 ニーチェは、自身が望んでいることは前著「善悪の彼岸」という本のタイトルに表れているとしている。善悪という価値基準を超えたそのところに、新たな価値を打ち立てること。


 これにて第一論文は終了。第三論文まであるのだが、ずっと続けるのも飽きて来るので、ひとまずこれでしばらく区切りを入れる。

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