マイナーな恋愛の物語

タイトル、むずかしい。お気に入りの引用をしながら、書評、というより感想文、手紙みたいなものにできれば一番いいんだけれど。今のわたしが知る限りのところを共有!

女性同士のありふれた恋 「生のみ生のままで」綿矢りさ

綿矢りさ「生のみ生のままで」


 まずは女性同士の恋愛、綿矢りささんの「生のみ生のままで」。上下巻。ハードカバーで買ってよかったなあ、と思う。並べて見るときの満足感高め。それにしても良いタイトル、裸足で踏み締める白浜の感触がして、好き。
 百合とか薔薇とか同性愛ものを読み慣れてる人には物足りないかもしれないけど、裏を返せば、それくらい普遍的に自然に女性同士の恋愛を描いた作品だと思います。こうやって有名な作家さんが当たり前に同性の恋愛小説を書けること、そうしてゆるやかに理解が広がっていくこと、とてもすてきだと思うし、社会の変容ってそうあるべき。綿矢りささんは本当に尊敬する。彼女が高校生の時に書いた小説(!)も面白かったので才能にぶん殴られたい方はそっちも是非。 

私は飾り立てられた自分の恋人がどれだけ美しいかより、百花繚乱の香水の匂いに鼻をやられながらも、その過剰なラッピングを解き素肌へ辿り着くまでの過程が、やはりもっとも楽しかった。

綿矢りさ「生のみ生のままで〈上〉」p.172

余韻。いまの私の生活は、すべてあなたの余韻。

綿矢りさ「生のみ生のままで〈下〉」p.60


②少年たちの青春を描く 「トーマの心臓」森博嗣(原著:萩尾望都)

「トーマの心臓」森博嗣(原著:萩尾望都)

 次は少年同士の恋愛(未満)みたいな。萩尾望都さん原作、森博嗣さんが著した「トーマの心臓」。小説だけ読みました、原作の漫画も読みたい。いわゆるギムナジウム文学(ドイツおよび周辺諸国の全寮制男子校を舞台にした文学作品)の日本版です。日本版なのかしら。おそらく舞台は日本なんだけど、登場人物の名前(正確にはあだ名)がもうヨーロッパ風なので、どこが舞台と言い切れないフィクショナルで優美な世界観です。視野が狭くて不安定な、思春期真っ只中の少年たちのすごくきれいで美しい話、愛する人を救うために、夢を叶えるために、全力で生きる少年たちを描いてます。

「束縛するような身内は鬱陶しいけれど、信頼していて、自由にさせてくれる人だっていると思うな。そういう人は、ずっと一緒にいなくても良くて、でもどこかにいてくれる。生きている、というだけで、嬉しい。そういうものじゃない?」

森博嗣「トーマの心臓」p.188

これが愛
これが僕の心臓の音
きみにはわかっているはず

同上 p.296

③恋愛下手たちのまっすぐな年の差の恋 「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子


 次。川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」。年の差恋愛をしてる人、憧れと好意との判別がつかなくなってきた人なんかに贈りたい。冒頭の文章から惹き込まれます。見開き1ページ読んで、胸騒ぎがした。買わないとって思った。眠れない夜を大切なひとと歩きたくなる、でたらめに指差した星で星座を作りたい、そんな物語。それでいて、それだけじゃ終わらなくて、かけがえのない人はきっとあなたの周りにたくさんいるよってひっそり耳打ちで教えてくれるような。「みつつかさん」とは主人公の好きな人の名前なんですが、くちのなかで転がしていてとても心地の良い名前で好き。

真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。

川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」p.1

昼間のおおきな光が去って、残された半分がありったけのちからで光ってみせるから、真夜中の光はとくべつなんですよ。

同上


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