病室にて
甘い香りがふうわりとする。
だいじにして。だいじにしてね。
白く輝いてチカチカとする。
だいじょうぶ。だいじょうぶ。
清潔感のある部屋が頭を冷やす。
骨ばったぬるい手が、
私のなまっ白い頬をなぞる。
病人の手というのはいやにやさしい。
なんにも言わない私に
あなたはなんにも言わなかった。
あなたが集めたものが恐ろしい。
たとえばその白い箱の中に、
なにひとつ物がなくなったとして、
たとえば家の中の一部屋の、
物が途端に減ったとして、
それらが私の心身を軽くするのか。
見舞いの花がただ虚しい。
実もならなくなったその花をあげたとして、
あとは枯れるしかない花をあげたとして、
それをもらった病人はなにを思うのか。
果実の香りがいやらしい。
終わりかけの命を食べたとして、
温度のないものを食べたとして、
それで病人の命はどうなるのか。
甘い香りがふうわりとする。
だいじにして。だいじにしてね。
白く輝いてチカチカとする。
だいじょうぶ。だいじょうぶ。
清潔感のある部屋に苛まれる。
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