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企業のAI実績がわかるノート~建設業界/竹中工務店編

はじめに

本シリーズでは各業界の代表企業におけるDX/AIの現状を公開情報を集め分析したものになります。特にAI領域について深掘りをしています。
また、本シリーズでは以下の読者を想定しています。

  • 社内のDX/AI推進を担当しているおり他業界や他社の活動を知りたい方

  • 建設業界にいて業界内のDX/AIの取り組みに興味がある方

  • AIベンダーまたはAIベンダーに興味がある方

どんな会社か

最後にスーパーゼネコンの中で唯一非上場を継承している竹中工務店について取り上げたいと思います。
非上場企業なので他ゼネコンよりも公開されている情報が少ないのですが、 AIに関する取り組みも積極的にされていたので取り上げます。
スーパーゼネコンの中での特徴としては以下の通りです。

1909年に設立された、建築専門でスーパーゼネコンの中では唯一の非上場企業です。竹中工務店は職人気質が強く、土木は子会社に任せて建築専業のゼネコンとして経営しています。設計部門は大手の設計事務所と肩を並べるほどの実力があり、菊竹清訓や出江寛などの建築家も輩出しています。
独特の雰囲気を持った質の高い設計が特徴的です。東京タワーや日本武道館、日本一の高層ビルである大阪のあべのハルカスなどを手掛けていますが、そちらにも竹中工務店ならではの設計力が溢れています。

建設転職ナビ スーパーゼネコン5社の特徴を解説

特徴としては、非上場・建築事業がメイン・設計力の高さといったところでしょうか。特に設計に関して DX/AIがどのように生かされているのかについて注目していきたいと思います。

事業数字について

https://www.takenaka.co.jp/news/2022/02/02/index.html

2021年度(第84期)決算概要 及び 次期業績見通し

我が国の建設投資額にも下げ止まりから回復への期待感が出てきたものの、足もとの競争環境は大型工事を中心に厳しい状況が続いています。また、原油高やサプライチェーンの停滞等、供給面においても今後の動向を引き続き注視する必要があります。開発事業においては、長引く宿泊需要の減少やオフィスの空室率上昇及び賃料下落の影響により、今後も長期的に影響を受ける可能性があります。

2021年度(第84期)決算概要 及び 次期業績見通し

決算月が12月で他ゼネコンが3月なので比較時には注意が必要です。建設事業の中に建築と土木が含まれています。

業界での立ち位置

各社の経営数字(各社の有価証券報告書から抜粋)

スーパーゼネコンの中では売上は5番手となりますが、建築事業においては鹿島建設を超える売上高となっています。

中長期戦略とDX/AIの位置付け

つづいて中期経営計画と DX/AIの位置付けについてみていきたいと思います。

成長戦略|竹中工務店

連結16,200億円と従業員数を14000人というのが主要目標のようです。
他ゼネコンでは営業利益を目標に掲げているケースが多かったのですが、従業員数や平均労働時間・満足度など労務的な面に特に力を入れていくようです。
建設系の会社は「〇〇建設 ブラック」と検索するとかなりヒットするので分かるように業界全体的にブラックになりやすい傾向があるように思えます。
今はネットの口コミで新卒が就職先を決めるというのがスタンダードなので他ゼネコンよりも労務周りに積極的に注力するというのは長期的に影響しそうです。

成長戦略|竹中工務店

DXに関する構想の記載がありました。

  • 竹中新生産システム

  • BIM

  • 建設デジタルプラットフォーム

などがキーワードのようです。
ビルコミなど具体的なサービス名が出てきたのでここは後ほど詳細を確認していきたいと思います。
竹中の建設DXソリューション について具体的に記載されていたのでその内容を掲載します。

竹中の建設DXソリューション

企画・設計、生産、運用とそれぞれに渡りDXの取り組みをしていたので詳細を見ていきます。

企画・設計|お客様の事業構想から支援する

企画・設計|お客様の事業構想から支援する

これはただ単純に依頼された建物の設計をするだけではなく、顧客の事業構想段階から支援するということのようです。
それを実現するためにBIMだけでなく、3D都市モデルを用いて顧客の都市開発事業が成功するような企画・提案を行っていくというものです。
単純な設計を簡略化するというのではなく、今までと違うフィールドで戦うというある種戦略的な一面が感じられます。

屋内外のパーソナルモビリティ自律走行の実現に向けデジタルツインの構築と実証を本格的に開始

生産|新しい建築生産のかたち

生産DX|竹中工務店の建設DX

こちらは生産性向上という面でわかりやすいロボットの活用です。
BIMのデータを使って建設ロボットプラットフォーム上から各ロボットを一括で遠隔操作しているようです。

BIMデータを活用し、ロボットの操作・監視・管理を 効率化するプラットフォーム


またそれ以外の生産面での取り組みとして以下もありました。

  • 建設現場の通信環境の整備

  • BIM活用のためのデジタルスレッドの構築

一つ目は大成建設でもあった建設現場の通信環境整備となり、これもロボットを確実に動かすために必要なものとなってきます。
二つ目に関しては工程間のデータ連携で発生してしまう情報の途切れを埋めるための繋がり=デジタルスレッドの構築とのことです。

運用|人と建物の良い関係をつくる

運用DX|竹中工務店の建設DX
次に運用面ではビルの運営や管理をIoTやAIなどで賢く行うスマートビルに関してです。
竹中工務店が開発した「ビルコミ」という建物データプラットフォームについて取り上げられています。

竹中工務店の建物OS「ビルコミ®」

ビルコミ®|竹中工務店
ビルコミ®|竹中工務店

人の混み具合やエネルギー状況のモニタリング、エネルギー需要の予測・最適化、AIによる空調制御など人が目視で確認していたものを一括でモニタリング、人によって操作していたものをAIが最適制御を行うなど運用・管理業務を丸っと一つのプラットフォームで実現するといったもののようです。
2012年からビルコミという名前で始まっており、現在は横浜市新市庁舎への適用が行われているようです。鹿島建設でもあった AIによる空調制御の実例もありました。

AI導入事例について

竹中工務店とHEROZ、 AIを搭載した空間制御システム『Archiphilia™ Engine』を共同開発

将棋AIでお馴染みにHEROZとの共同開発のようです。

竹中工務店とHEROZ、 AIを搭載した空間制御システム『Archiphilia™ Engine』を共同開発

先ほども取り上げましたが、空調や照明の自動制御を行うAIになります。
特徴としては入居者の好みや快適性といった曖昧な情報もフィードバックとして学習し続けることで入居そにカスタマイズされた室内環境を自動的に行うようです。
利用されている技術としては強化学習とのことで、強化学習の将棋AIで有名なHEROZとしても強みが生かされた取り組みだなと感じました。

竹中工務店とHEROZ 建設業におけるAI活用に向けて共同開発着手 第一段階として構造設計AIシステムの開発に着手

またもやHEROZとの共同開発です。構造設計における AIシステムを開発しているようです。

竹中工務店とHEROZ 建設業におけるAI活用に向けて共同開発着手

どうやらHEROZとしては今後建設業界を特化していきたいようですね。
2017に発表があった構造設計 AIシステムですが、2019年に取材記事があったのでこちらで確認をしていきます。

「リサーチAI」「構造計画AI」「部材設計AI」と呼ぶ3つのAIを設計の段階に応じて使い分け、構造設計にまつわる単純作業の7割を削減することを目的としたAIのようです。

あの超高層を手掛けた構造設計のエースが開発中、竹中工務店の「使えるAI」

リサーチAIは過去に実施したプロジェクトの中から今回の要件と近い部材やプロジェクトをリサーチしてくれるもので10次元から2次元に圧縮するクラスタリングを用いているようです。

あの超高層を手掛けた構造設計のエースが開発中、竹中工務店の「使えるAI」

構造計画AIはボリュームモデルから仮定断面とコストを自動で生成するといったもののようです。ジェネレーティブデザインの一種だと思われます。
部材設計AIは仮定断面からどの部材が施工性とコストのバランスが取れているのかというのを抽出してくるというもののようで最適化の技術を使っていると思われます。

あの超高層を手掛けた構造設計のエースが開発中、竹中工務店の「使えるAI」

設計業務の短縮は複数案を提示しやすくなったり、修正案適用の時間が短くなるなどコンペの受注率にも影響するのでここが7割削減できるとなるとかなり効果は大きそうです。
ただ、2022年現在、この AIを用いた実績がまだ公開されていないようなので、絶賛試験中かと思われます。
また、竹中の建設DXソリューションではこちらの内容が一切なかったので直近でリリースというのはなさそうな気がしています。

ドローン撮影の赤外線画像から、AIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するシステム「スマートタイルセイバー」を開発し実用化

ドローンを用いて建物の外壁を撮影し、AIがタイルの浮状況を判定することで全面足場架けや全面検査がなくなるので検査におけるコストが大幅に削減できるというもののようです。

ドローン撮影の赤外線画像から、AIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するシステム「スマートタイルセイバー」を開発し実用化
ドローン撮影の赤外線画像から、AIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するシステム「スマートタイルセイバー」を開発し実用化
ドローン撮影の赤外線画像から、AIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するシステム「スマートタイルセイバー」を開発し実用化

まず画像検知技術によってタイル割りを検出し、その後分類または異常検知技術によって浮いているのか浮いていないのかを判断しているようです。
こちらは効果としてはわかりやすいですし、サービスとして切り取って管理会社などの販売といった展開も考えられますね。

SNSなどのつぶやきから、まちに対するひとの感情をAIが 「数値化」「タグ付け」し、まちの魅力を分析

ソーシャルヒートマップ®|竹中工務店

ソーシャルヒートマップ®|竹中工務店
ソーシャルヒートマップ®|竹中工務店
ソーシャルヒートマップ®|竹中工務店
ソーシャルヒートマップ®|竹中工務店

こちらはまちづくりに関する魅力分析においてのAI活用の事例です。
街の住みやすさなどの定性的な情報をSNS上のテキストデータを解析し、その評価を数値化・タグ付けする技術のようです。
確かに大型の商業施設や人口増加による保育園施設の空き状況など住みやすさは時代と共に流動的に変わっていくものなので、古い調査実績よりは信頼できる結果になると感じました。
こちらは企画・設計|お客様の事業構想から支援するにあったより上流工程への提案を行う際に用いることができそうです。
個人的には今度引っ越す際にこの情報を見たいなと感じました。
また、不動産業界とビジネス提携をすることも今後考えられます。(竹中工務店の顧客であるデベロッパーの代わりになぜ開発をしているのかが気になりました。)

今後のAI導入について

今後としてはやはりHEROZと共同開発をしている構造設計AIシステムが実現場でも生かされ、実績として出てくることが期待されます。
また、推しであるビルコミの実績と技術をアピールしながら営業活動を続けることでビルコミの導入実績も増えていきそうです。
また、他ゼネコンではあまりない取り組みとして都市開発における分析へのAI適用も増えていくかと思います。

まとめ・考察

スーパーゼネコンの一角である竹中工務店について取り上げました。
非上場企業のため公開されている情報は比較的少ないかと思っていましたが、AIなど目立ちやすい実績はアピールとなるのでそこまで調査には苦労しませんでした。
建築事業がメインのためAI実績も建築事業がほぼとなっています。
他ゼネコンよりも土木への分散が少ないため建築事業に関するAI適用は今後差が大きくなっていく気もしています。
ただ、構造設計AIシステムについては5年前から初めているもののまだ成果としては見えていないため苦戦しているようにも感じました。これが実現できたら業界としてはリードにつながるため今後も注目していきたいと思います。

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