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企業のAI実績がわかるノート~建設業界/スーパーゼネコン大成建設編

はじめに

本シリーズでは各業界の代表企業におけるDX/AIの現状を公開情報を集め分析したものになります。特にAI領域について深掘りをしています。
また、本シリーズでは以下の読者を想定しています。

  • 社内のDX/AI推進を担当しているおり他業界や他社の活動を知りたい方

  • 建設業界にいて業界内のDX/AIの取り組みに興味がある方

  • AIベンダーまたはAIベンダーに興味がある方

どんな会社か

今回は建設業界から大成建設について紹介をします。いわゆるスーパーゼネコン5社のうちの1社です。
「地図に残る仕事。」でお馴染みの大成建設です。

1917年に設立し、スーパーゼネコンのうち唯一、非同族経営をしていて風通しの良い会社と言われています。大成建設ハウジングを傘下に置き、住宅事業にも携わっているのが特徴です。また、市街地再開発事業に強みを持ち、この分野では20%のシェアを占めています。
主な実績として羽田空港国際線ターミナル、新江ノ島水族館、東京芸術劇場や新宿センタービルなどを手掛ける他、新国立競技場などの国家的プロジェクトにも関与しています。新事業に乗り出すというよりも、本業に力を入れて売上を伸ばしている印象です。

建設転職ナビ スーパーゼネコン5社の特徴を解説

事業数字について

事業の状態を示す各事業数字についてみていきます。

2022年3月期決算説明資料
2022年3月期決算説明資料
2022年3月期決算説明資料
2022年3月期決算説明資料

最終年度の業績目標については、昨今の資材高やウクライナ情勢を受け、計画 策定当時の前提が変わってきており、利益目標の達成には、なお一層の努力が 必要です。

2022年3月期決算説明会資料(解説付)(PDF:2,779KB)

当期業績について、受注高は、土木・建築共に大型工事の案件数が少なかったため、減少しました。
✓ 売上高は手持工事の順調な進捗により増収となりましたが、各利益項目は、厳しい 受注環境下で入手した大型工事の進捗が利益の押し下げ要因となり、減益となり ました。
✓ 次期業績について、受注高は、豊富な案件量が見込まれるため、増加する見通しです。
✓ 売上高は、土木・建築共に、手持の大型工事の施工が本格化することから増収となりますが、各利益項目は、追加工事の獲得や、コスト低減などの好転要因を全て は織り込んでいないことに加え、特に国内建築において、厳しい競争環境下で受注した利益率の低い大型工事の割合が増すことから、概ね当期並みの水準を見 込んでいます。

2022年3月期決算説明会資料(解説付)(PDF:2,779KB)

現段階では追加工事獲得などの未確定の好転要素を全ては織り込んでい ないことに加え、国内建築において、厳しい競争環境下で受注した利益率の 低い大型工事の割合も増すことから、利益率の低下を見込んでいます。

2022年3月期決算説明会資料(解説付)(PDF:2,779KB)

キーワードとしてはウクライナ情勢における資材高による利益増加の困難性、案件量が豊富による受注高増加。競争環境の激化による利益率の低い案件が多く発生といったところでしょうか。
経営の狙いとしては如何に価格以外の競争優位を身につけ、高利益を実現するかが鍵に感じられます。特に受注高割合が高く、利益率の低い建築事業については高利益化について積極投資をしていきたいと思われます。

業界での立ち位置

各社の経営数字(各社の有価証券報告書から抜粋)

いわゆるスーパーゼネコンという大手5社の中売上高は鹿島建設・大林組に次ぐ3番手ですが、営業利益については鹿島建設に次ぐ2位、時価総額においては1位となっています。土木事業の売上高は大林組と僅差で2位となっており他ゼネコンと比較すると土木事業の売上比率が高いです。

中長期戦略とDX/AIの位置付け

続いて中期経営計画を見ながら中長期的な戦略と DX/AIの位置付けを確認していきます。
https://www.taisei.co.jp/assets/about_us/ir/data/pdf/2021050601.pdf

TAISEI VISION 2030 中期経営計画(2021-2023)

2030年には売上高2兆5000億、純利益1500億といった目標を掲げており、特に純利益は1.5倍といった高い目標を掲げています。
その目標の実現に向けて「3つのX(Industry Transformation, Sustainability Transformation, Digital Transformation )」を掲げています。ここでDXについてキーワードが出てきたので深掘りをします。

TAISEI VISION 2030 中期経営計画(2021-2023)

IXについて少しだけ触れますが、マーケット的には減少傾向が見込まれるため今後も競争が激化していくとのことです。
DXについてですが、デジタル化はまだ発展途上らしくこれから大きく改善できる余地はあるように感じられます。
BIM /CIMとは計画、調査、設計段階から3 次元モデルを導入することにより、その後の施工、維持管理の各段階においても3 次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図る取り組みです。

TAISEI VISION 2030 中期経営計画(2021-2023)

次に投資額についてですが、DXについての投資を3年で300億と見込んでおり、非IT業界としては10%以上との水準は高く感じます。
より具体的なIT/DXに関する投資先を見ていきます。

TAISEI VISION 2030 中期経営計画(2021-2023)

受注高が高く利益率が低い建設事業に関しては、競争優位を増すことで利益率の向上を実現したいところです。
デジタル技術による施策については以下の通りです。

  • 競争力向上:受注競争力向上のための、デジタル技術やデータ活用によるVE提案及び施工提案体制の整備

  • 生産性向上:デジタル技術の活用や業務の集約化等による生産性の向上

まだぼんやりとしており、具体的にどんな施策をしていくのかについては見えてきません。

TAISEI VISION 2030 中期経営計画(2021-2023)

これはグループ基盤整備計画というグループ全体に対する投資のようです。
統合プラットフォームとデジタル投資の人材をベースに上記のようなデジタル投資をしていくようです。
また、現段階で AIについての具体的な発言は見当たりませんでした。
またDXについては以下のような「大成建設のDX」という特設サイトがあったのでそこで深掘りしてみます。

大成建設のDX
大成建設のDX

ここではAIに関連する部分を中心に深掘りしてみます。先ほどのグループ基盤整備計画に出てきた各施策の中で具体的な事例が出てきたので紹介します。

AI導入事例について

Wi-Fi環境とAI/IoTを一体化したDX標準基盤「T ~BasisX」

AIというワードがある「T-BasisX」について深掘りしてみます。

建築現場DX標準基盤 T-BasisX

詳細はサイトを見てもらうと良いですが、一言でまとめると「現場に設置したメッシュWifiや見える化システムから集めた建築現場情報のデータ基盤」です。これにより現場の情報を遠隔でもリアルタイムで正確に収集・分析がしやすくなったということです。
これ自体がAIというわけではないですが、この基盤によって AI適用がかなりしやすくなります。
確かに建設業などリアルな場で作業を行うには「リアルタイムな現場情報」を集めるのがどうしてもボトルネックとなってしまうので、まずこういった基盤から整えにいくのが重要なのだと改めて学びになりました。

協調運転制御システム「T-iCraft®」を南摩ダム本体建設工事に導入

協調運転制御システム「T-iCraft®」

複数の自動運転建設機械の協調運転する制御システムが実際の現場で導入が実現できたようです。
建設現場でいろんな建設機械を用いて工事を進めるのですが、それぞれの建設機械が別々の役割をこなしながらきちんと連携する必要があります。今までは人手でやっていたものを全て機械が自動的に強調を取りながらやるといったもののようです。
確かにこれを使えば熟練の操作者や休憩もなく稼働し続けられるので、工期短縮や人件費削減といった効果が見込め競争優位にもつなげられそうです。

また、関連サイトで以下のような「大成建設技術センター報」という大成建設の技術開発特集記事を見つけたのでそこに記載されていたAI事例を紹介します。

画像認識AIを活用した現場支援システムの開発

用途:現場内をカメラ撮影で巡回し、工事現場の施工状況確認・資機材数確認を自動化する
研究目的:工事進捗確認の労力削減、数千の資機材の管理漏れ防止
利用技術:画像認識・位置推定
現状:1m程度の誤差が発生してしまうものの,内装の壁・天井工事の進捗状況および資機材位置を自動的に図面上に表示する一連のシステムを実証することができている

画像認識AIを活用した現場支援システムの開発

様々な施工環境における建設機械に搭載されたAI人体検知システム「T-iFinder®」の実証

AI人体検知システム「T-iFinder®」

用途:建設現場において建設機械の前に人が通ったことを検知する
研究目的:事故防止、自動運転のための布石
利用技術:画像認識
現状:あらゆる環境下での実証実験中。

進化計算を用いた床振動制御用TMDの最適設計

進化計算を用いた床振動制御用TMDの最適設計

用途:より少ないTMD(制振装置)で揺れを低減させる
研究目的:コスト削減(TMD設置台数の削減)
利用技術:最適化(進化計算)
現状: 6台分で10台分のTMD制振効果を実現

降雨分布画像を用いた水位予測手法の実河川への適用性について

降雨分布画像を用いた水位予測手法

用途:建設現場の水位、出水の予測
研究目的:水位観測所がないところでも、適切に出水前に建機・資機材を退避させる
利用技術:回帰、深層学習
現状:12時間前の予測精度が平均65%

AI技術を用いた建物周辺の風速・風圧分布予測に関する研究

AI技術を用いた建物周辺の風速・風圧分布予測

用途:高層ビルの耐風設計をするためのシミュレーション
研究目的:風洞実験や数値シミュレーションだとコストと計算時間が大幅にかかってしまうため簡略化・コスト削減
利用技術:回帰(3D-CNN)
現状:数値シミュレーションに近い予測結果が出せた

AIを活用した設計支援システム「AI設計部長」の開発に着手

AI設計部長の構想
AI設計部長に搭載予定の開発機能

用途:設計段階における関連書類や関連情報のレコメンド
研究目的:手戻りの最小化、設計時間削減、属人化の防止
利用技術:自然言語処理、分類

今後のAI導入について

建設業界では人の目視での確認や、指示などまだまだアナログのことは多く、上記のような人の置き換えが容易な部分から AI化による省人化が加速していくかと思われます。
また、以下のような国土交通省のi-construction構想からもあるようにBIMに関するデジタルツイン化についてはかなり積極投資をしています。さらなる発展でジェネレーティブデザインや高度な工事シミュレーション・工事計画の最適化などの発展が予想されます。

また、ロボットによる工事・建築の自動化についても注目したいところです。

まとめ・考察

スーパーゼネコンの一角である大成建設について紹介しました。
建設業界としては、競争が激化する中で利益を最大化する上でには競争優位性を増していく必要があります。
大成建設としてはDXに対して3年で300億円とかなり大きな投資をしており
BIM/CIM周りを中心にDXを進めているようです。
まだAI実績についてもいくつか開発・研究の事例があり、それなりに投資をしているようです。
また、複数の建設機械による無人稼働においてはとても面白く今後もさらなる効果や発展が見込めそうです。
ただ、現状だと監視の自動化や危険予知などといった事例が多く、直接的な競争優位につながるといった AI活用はこれからのような印象を受けました。
T-Basisでも上げられたように現場でのネットワーク環境およびデータ統合環境の整備といったところが済んでからだと思いますのでこれからその基盤を用いてAI化が進むように思われます。

  • 設計や企画段階のAI化

  • 施工現場の作業や監視監督のAI化

これらが加速することで工期の短縮化やコストダウンによって競争優位の確立を目指していくことを予想しています。

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