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企業のAI実績がわかるノート~建設業界/スーパーゼネコン清水建設編

はじめに

本シリーズでは各業界の代表企業におけるDX/AIの現状を公開情報を集め分析したものになります。特にAI領域について深掘りをしています。
また、本シリーズでは以下の読者を想定しています。

  • 社内のDX/AI推進を担当しているおり他業界や他社の活動を知りたい方

  • 建設業界にいて業界内のDX/AIの取り組みに興味がある方

  • AIベンダーまたはAIベンダーに興味がある方

どんな会社か

今回は建設業界から清水建設について紹介をします。
DX銘柄に2年連続で選ばれておりDX/AIへかなり投資していると思われる会社ですので期待が高まります。

シミズのDX

1937年に設立したスーパーゼネコンです。宮大工を起源に持つことから、伝統と実績のある企業ですが、時代に沿い女性の起用や働き方改革を意識するなど、柔軟な対応をしています。
横浜マリンタワーや長崎オランダ村ハウステンボス、サンシャイン60、歌舞伎座タワー、モード学園コクーンタワー等の施工物件が有名です。清水建設は建築部門が強く、小規模な物件から大規模な物件まで幅広い建築物を請け負うのが特徴です。

建設業界ナビ スーパーゼネコン5社の特徴を解説

事業数字について

2022年3月期 決算説明会補足資料
2022年3月期 決算説明会補足資料

Q1:厳しい受注環境が続いているとのことだが、受注時採算は改善していくのか。
A1:受注時採算の改善は最大のテーマだ。大型工事を中心に厳しい受注環境が続くが、 基本的な姿勢として、これまで以上に採算重視に軸足を置いて取り組んでいく。 VE・CD などの実現可能性については、より慎重に、受注時に具体的な内容を発注 者と交渉で詰めていきたい。 また、今後の物価変動、資材不足による工期延長などのリスクに備え、受注時に契 約条件を明確にし、必要以上のリスクを負わないよう交渉していくことで、受注時 採算を改善していく方針。

2022年3月期 決算説明会(電話会議)における主な質疑応答(2022.05.24)

Q2:発注者の設備投資意欲は、資材価格高騰の影響により低下しているか。
A2:発注者側のコロナに対する意識が変わってきており、設備投資を再開する意欲は 根強いと感じているが、今後、発注者の想定を超える規模で建設費が上昇した場合 は、少し様子を見る動きにつながる可能性がある。コロナの影響をさほど受けてい ない業種については2~3年後、あるいは5年後を見据えて今、積極的に投資しよ うという意欲があるように感じる。

2022年3月期 決算説明会(電話会議)における主な質疑応答(2022.05.24)

大成建設でもありましたが、厳しい競争環境と資材価格高騰が続いており利益率がだいぶ低下してきており、DX/AIや新しい投資によって利益率を改善したいと感じられます。
また売上の割合としては他ゼネコンと比較しても建築が多めです。

業界での立ち位置

各社の経営数字(各社の有価証券報告書から抜粋)

いわゆるスーパーゼネコンの大手5社の中売上高としては4番手となっており、営業利益は3番手となっています。

中長期戦略とDX/AIの位置付け

SHMIZ VISION 2030
SHMIZ VISION 2030

経常利益の目標が2030年に2000億円となっており、2021年度で504億ですのでそれの4倍となるとかなり抜本的な対策が必要そうです。また、非建設事業と海外の比率が増えているため、そちらでの投資が多く見込めそうです。

清水建設グループ 中期経営計画〈2019-2023〉

5ヵ年での投資計画ですが、DX/AIについては生産性向上・研究開発投資の1000億円に含まれるようです。内訳がわからないので、実際にDX/AIにどれだけ割かれるかについては不明です。
事業ごとの重点戦略を見てみます。

清水建設グループ 中期経営計画〈2019-2023〉

主力事業である建築事業では以下のDX/AI文脈では以下のキーワードが出てきました。

  • AI等の最新技術を活用した機械・構工法等の開発推進・展開

  • BIM,省人化施工,デジタル化技術等の積極的な活用

  • 建築生産システム改革による生産性向上と生産体制の強化

清水建設グループ 中期経営計画〈2019-2023〉

また、技術開発・デジタル戦略について紹介されていましたが、これだけだと具体的にどうAIが絡んでくるのかが見えてこないため別サイトから情報を得たいと思います。
清水建設も同様にDX専門のサイトを作っているのでそこで深ぼってみたいと思います。

3つのコンセプトを柱としており、それぞれに注力しているようです。それぞれ深ぼってみたいと思います。

シミズのDX
ものづくりのデジタル化 〜建築〜

一つ目の柱の「ものづくりをデジタルで」というのは企画から施工運用までBIMで一元管理するという構想のことのようです。国土交通省のi-Construction構想もあるようにスーパーゼネコンは全てBIMに対して取り組みを具体化している印象はあります。
このBIMの質や精度が競争優位に大きく差が出るように思えます。

ものづくりを支えるデジタル

二つの目の柱の「ものづくりを支えるデジタル」というのは建設に直接関わらない間接業務の効率化やデータ・インフラ基盤の構築のことをさすようです。

デジタルな空間・サービスを提供

三つ目の柱である「デジタルな空間・サービスを提供」とは自社の建設へのDXではなく、顧客へ提供しているサービスをデジタル化するといったものになります。建築物の管理・運営業務をデジタルによって付加価値を増すといったことのようです。

また、DX銘柄に2年連続で選ばれた背景としては以下の4つが観点としてあるようです。

  • 中期デジタル戦略2020「Shimz デジタルゼネコン」において、事業、業務のデジタル化のコンセプトが明示され、先進的な取り組みを実践している

  • デジタルと環境の両分野でのフロントランナーを目指し、ウィズコロナ、アフターコロナを強く意識したビジョン、戦略を構築している

  • 業務改革、チャレンジ精神を称賛する企業文化の醸成に注力しており、社内外の関係者に対して、積極的にデジタル戦略を発信している

  • 人財、技術、事業構造の各分野のDX化のみならず、それらを融合させてイノベーションを融合させており、着実にDXを推進している

清水建設全体のDXに対する考え方がわかってきたので実際に AIの投資事例を見ていきましょう

AI導入事例について

AI によるシールドトンネル施工管理の合理化

「清水建設 AI」で検索すると多くヒットするAIによる「シミズ・シールドAI」です。
論文も公開されており詳細を確認することも可能です。

AI によるシールドトンネル施工管理の合理化

シールド工事(トンネルなどを作るときに穴を開ける工事)における施工計画と屈伸操作をAIが支援してくれるものです。
計画支援システムについては、シミュレータを通じて、セグメント種別や在庫数、シールド機やセグメント等の位置に制約条件を加えた中で計画線から最もずれない計画を遺伝的アルゴリズムを用いて導出するような仕組みです。

AI によるシールドトンネル施工管理の合理化
AI によるシールドトンネル施工管理の合理化


検証結果によると操作支援AIモデルについては東京国際空港際内トンネル他築造等工事の例で15分ほどで完了できたようです。
操作支援システムではいわゆる運転アシスト的な立ち位置であり、一定の閾値を超えると操作をするように指示をする仕組みのようです。
予測には勾配ブースティングを用いてるようなので、XGBoostかLight GBMあたりを使っているのだと思われます。

AIを活用したクリーン空調最適制御システムを開発

AIを活用したクリーン空調最適制御システムを開発 | 清水建設

こちらは建設で直接使うものではなく、サービスとして提供している管理システムへの適用のようです。
写真の通り人と塵を検知し、必要最小限のエネルギーで清浄な環境を維持するというもので、従来よりも30%の削減効果があるようです。
深層強化学習を使っているようでシミュレータで2ヶ月ほど学習を行ったのち適用しているそうです。

AIカメラで重機周辺の人の存在を検知し、接触災害を回避

AIカメラで重機周辺の人の存在を検知し、接触災害を回避

大成建設でも出てきました接触事故防止のための人検知です。
骨格推定もしているようでs、倒れていたり重機を見ていない姿勢でも問題なく検知できるようです。
精度としては9割の検知精度が確認できているようです。

早期火災検知システムが伝統木造建築の火災リスクを低減

早期火災検知システムが伝統木造建築の火災リスクを低減
【独自取材】清水建設、AI活用の早期火災検知システムを物流施設に積極展開目指す

早期火災検知システムが伝統木造建築の火災リスクを低減 | 清水建設
これも自社での建設で使うというよりはサービスとして提供するものの一つです。
お寺や神社などの歴史的な木造建築を対象としており、近くに設置されたガスセンサからAIが総合的に判断し、火災と判断するというものです。
伝統的な木造建築は天井が高いため従来式の火災報知器だと発報が遅れてしまうため、より早く気づくための対策とのことです。
浅草寺など歴史的建造物を数多く手掛ける清水建設ならではの取り組みですね。

今後のAI導入について

シールドマシンへの AI適用など工事の自動化といったところにも投資が進んでいるため、建設や土木の現場でもロボットや自動工事といったところが増えてくるという印象があります。
サービスとしてのAI適用も積極的に取り組んでいるため空調制御だけに止まらず、ビル全体の管理に対してもAI適用がこれから進んでいくように思われます。
また、BIMについては一通り浸透が済んだらジェネレーティブデザインの適用が進んでくると思いますのでそちらにも注目していきたいと思います。

まとめ・考察

公開しているAIの事例としては少ないものの、運転アシストや深層強化学習など新しい取り組みをしている印象がありました。また、顧客向けのサービスへのAIを早期に取り入れているため消費者としてこれらが身近に触れ合う機会があるかもしれないので、その点も注目したいと思います。

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