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企業のAI実績がわかるノート~建設業界/スーパーゼネコン鹿島建設編

はじめに

本シリーズでは各業界の代表企業におけるDX/AIの現状を公開情報を集め分析したものになります。特にAI領域について深掘りをしています。
また、本シリーズでは以下の読者を想定しています。

  • 社内のDX/AI推進を担当しているおり他業界や他社の活動を知りたい方

  • 建設業界にいて業界内のDX/AIの取り組みに興味がある方

  • AIベンダーまたはAIベンダーに興味がある方

どんな会社か

次にスーパーゼネコンで売上高・営業利益が1位の鹿島建設についてDX/AIの文脈で深掘りをしていきたいと思います。
鹿島建設は2020年にDX銘柄に選ばれた実績があります。
特に「鹿島スマート生産」「建設機械の自動化を核とした次世代の建設生産システム」といったところが評価されているようなので深ぼってみたいと思います。

スーパーゼネコンの中での特徴としては以下の通りです。

1840年に設立したゼネコンで、現社長である押味社長の掲げる「現場第一主義」が社風や仕事の仕方に反映されています。特徴的なのが現場への権限委譲で、利益管理を現場に任せるといった点から、現場出身である社長の熱い想いがうかがえます。
また、他のスーパーゼネコンと比べてグループ会社数が多く、グループ234社で事業領域を拡大している動きが目立ちます。
実績としてはお台場のフジテレビ本社ビル(FCGビル)、東京ミッドタウン日比谷、東京駅丸の内駅舎(再建および復元)など様々ありますが、特にダムや上下水道、トンネルなどの土木に強みを持ちます。
高さ100mを超える高層ビル(霞が関ビル)を日本で初めて建設したのは鹿島建設であり、海外展開にも積極的な姿勢を見せています。海外での不動産開発やM&Aにも積極的です。

建設転職ナビ スーパーゼネコン5社の特徴を解説

現場主義・グループ会社が多い・土木に強み・海外展開に積極的といったところが絡んできそうです。

事業数字について

2021年度 決算説明会資料
2021年度 決算説明会資料
2021年度 決算説明会資料
2021年度 決算説明会資料

建築事業で大型案件の受注や海外事業が好調なため、事業数字としては他企業よりも伸びている印象です。しかし売上総利益率に関しては、土木については15%と高い数字を維持していますが、建築事業については他ゼネコンと同様に資機材価格高騰の影響もあり右肩下がりの傾向のようです。

業界での立ち位置

各社の経営数字(各社の有価証券報告書から抜粋)

いわゆるスーパーゼネコンの中では売上高・営業利益では頭ひとつ飛び抜けています。特に利益率に関しても若干大成建設に劣るものの他3社よりは高い水準となっています。土木に強いとありましたが、大林組・大成建設に次ぐ3番手のようです。

中長期戦略とDX/AIの位置付け

鹿島グループ 中期経営計画(2021~2023) -未来につなぐ投資-
鹿島グループ 中期経営計画(2021~2023) -未来につなぐ投資-
鹿島グループ 中期経営計画(2021~2023) -未来につなぐ投資-

減段階では純利益が1000億行ったり行かなかったりなので、安定して1000億以上という目標が非常に現実的のように思われます。
DXやデジタルといった言葉が出てきたので深ぼって確認したいと思います。

鹿島グループ 中期経営計画(2021~2023) -未来につなぐ投資-

R&D・デジタル投資については550億円となっています。前回の中期経営計画よりも少しだけ増えていますが、国内・海外開発事業や戦略的投資枠と比べたら増加率は少ないです。鹿島建設はグループ企業数No.1ということからも国内・海外開発事業における投資金額が多いです。

鹿島グループ 中期経営計画(2021~2023) -未来につなぐ投資-

具体的なデジタル投資に関しての明言がありました。

  • ロボット化・遠隔管理

  • AI開発・導入

  • デジタルツイン・スマートシティ

これらがキーワードのようです。逆に他ゼネコンでよく記載があったBIM/CIMについてはデジタルツインの一部として表現されています。大まかには変わりませんが、他ゼネコンよりもロボット化・遠隔管理に力を入れている印象です。

中長期戦略の中でのDX方針がわかったので、DXに絞って中期施策を見ていきます。
清水建設・大成建設のようにDX専門のサイトはありませんでしたが、特集記事があったのでこちらで深ぼっていきます。

September 2021:特集 鹿島DX
September 2021:特集 鹿島DX

DXビジョンを実現するための施策は上記の通りです。いくつかのワードを切り取ると以下のような形かと思います。

  • デジタルツイン・デジタル生産システム

  • ノウハウの継承

  • スマートビル・スマートシティ

  • データ基盤整備

その中でどのような施策をしているのかさらに深ぼっていきたいと思います。

土木DX

鹿島建設の強みである土木事業でのDXになります。

デジタルツイン

September 2021:特集 鹿島DX > 土木:次世代の建設現場へ

ここでいうデジタルツインというのはBIM/CIMで単純に3Dモデリングで管理するというだけでなく、VR/ARでのリモート監視やIoTデバイスでの見える化も含まれているようです。
土木現場ではシミュレータだけでなくどうしても現場の情報を確認しながら意思決定をする必要があるので、遠隔ながら適切な意思決定や指示ができるようにこのような取り組みを進めているのかと思われます。

機械化・自動化

September 2021:特集 鹿島DX > 土木:次世代の建設現場へ

いわゆる建設機械の自動運転のようです。大成建設でも似た事例がありましたね。土木現場は建築現場と比べて作業範囲が多く、周りに建造物等が少ないので自動運転・工事というのが比較的取り入れやすい領域なのだと改めて認識しました。
23台を72時間自動で動かし続けるとなると、人件費だけでなく工期短縮という意味でも相当の効果がありそうです。

建築DX

続いて建築事業に関するDXです。

September 2021:特集 鹿島DX > 建築:建物資産価値のさらなる向上

建築事業においては基本的にBIMを中心にデジタルツインを進めているようです。
ビューワーを独自開発したり、日本で初めてBIMによるフルデジタルツイン(オービック御堂筋ビル)を実現していたりなど、わかりづらいですが取り組みとしては進んでいるようです。

また,建物管理プラットフォーム「鹿島スマートBM」では空調や照明などの稼働状況,エネルギー消費量など,建物に関するさまざまなデータをクラウド上のプラットフォームに蓄積している。今後,集めたビッグデータをAIで分析し,設備の最適運転の実現のほか,機器の異常や故障発生時期を正確に予測することで,ランニングコストの削減にも繋げていく予定だ。

September 2021:特集 鹿島DX > 建築:建物資産価値のさらなる向上

また、上記のように建設管理の分野ではデータ収集を行いAIを適用していくようです。清水建設の空調最適制御でもありましたが最適管理の自動化とAIは相性が良いようです。

AI導入事例について

次世代建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」

先ほども一部触れましたが、次世代の建設生産システムと謳っているA4CSEL(クワッドアクセル)について深ぼって確認していきたいと思います。
これは複数の技術が組み合わさって土木工事を遠隔かつ自動で実施してくれる近未来的な取り組みです。
このA4CSELについては特設サイトがあるなどかなり力を入れている印象です。

動画を見ていただければイメージが湧くと思います。

A4CSELとは

主に使われている3つの技術として以下の記載があり詳細を確認していきます。

  1. 汎用の建設機械を自動改造

  2. 熟練技術者のデータとAIによる自動運転技術

  3. 最適な施工計画による生産性の高い稼働

① 汎用の建設機械を自動化改造する技術

A4CSELとは

これはAIが自動的に改造するというわけではなく、どのメーカーの建設機械でも汎用的に②の自動運転に対応できますよということです。

自律施工勉強会「建設生産DXとしてのA4CSEL:クワッドアクセル -現場工場化への取組-

別動画で詳細の解説もありましたが、ハンドルの上にロボットを取り付けることで直接ハンドルを回すなどのことをしているようです。確かに自動運転専用の建設機械を作り現場に用意するのはかなり時間もコストもかかってしまうので、既存の機械を自動運転のための改造というのは非常に面白い取り組みだと感じました。

② 熟練技能者の操作データを基にAI手法をとり入れた自動運転技術

A4CSELとは

ブルドーザーやダンブといったあらゆる建設機械を自動運転する技術です。
熟練技術者の操作データと記載があったので教師あり学習なのかと思いましたが、別動画で解説がある通り、シミュレータで最適経路探索をしてトレーニングしたモデルを使っているようです。

③最適な施工計画による生産性の高い稼働

A4CSELとは

大成建設の例でもありましたが、ダムなどの大規模な土木工事となると20台以上の建設機械が同時に連携をとりながら作業を進めるため、無駄のない施工計画を作る必要があります。
これもいわゆるスケジューリング問題の最適化をおこなっているようです。

自律施工勉強会「建設生産DXとしてのA4CSEL:クワッドアクセル -現場工場化への取組-

実績としては、小石原川ダムに2018年に適用しているようです。

大成建設が協調運転制御システム「T-iCraft®」を南摩ダムに導入したのが2022年なので、鹿島建設がこの分野では大分リードしている印象があります。
またクワッドアクセルはダムだけでなくトンネル工事や月面の工事にも応用がされているようです。

建設工事の危険予知活動にAIを導入

先ほどのクワッドアクセルと比較したらインパクトはないですが、他にもAI導入事例があったので紹介します。

建設工事の危険予知活動にAIを導入

建設作業担当者が作業を行う前に安全担当者に対して類似作業の過去災害事例を教えて危険予知をしてくれるというものです。
過去の災害事例を自然言語処理を用いて解析したのちクラスタリングを行い、そこと照合をしているようです。
先ほどのクワッドアクセルと比較したら大分地味ではありますが、大成建設や清水建設でもあった事故防止のための人検知など事故の多い建設現場では危険予知対策が事業を継続する上で重要だと認識しました。

建築現場用ロボット向けにAI技術を搭載した自律移動システムを開発

建築現場用ロボット向けにAI技術を搭載した自律移動システムを開発

建築現場用ロボット向けにAI技術を搭載した自律移動システムを開発
建築現場用ロボット向けにAI技術を搭載した自律移動システムを開発

PFNと共同で開発したもののようで建設現場の清掃ロボットとなります。
利用技術としては以下を使っているようです。特に周辺環境認識の部分でPFNが強く関わっているようです。

  1. マルチセンサによる自己位置推定および3次元空間マッピング(SLAM技術)

  2. 深層学習による高度な周辺環境認識

  3. リアルタイムナビゲーション

現段階では清掃に留まっていますが、この技術を応用して現場確認の巡回ロボットや資材搬送ロボットとしても展開を考えているようです。
また、清掃ロボットとして清掃会社にも売り出していくといった発展も考えられます。
ただ、海外製の他の清掃ロボットとの違いなどについてはあまり分かりませんでした。

AIでコンクリート構造物の表層品質を評価するアプリを開発

AIでコンクリート構造物の表層品質を評価するアプリを開発

AIでコンクリート構造物の表層品質を評価するアプリを開発

鉄筋のビルなどではコンクリートを打設するのですが、その際にひび割れや気泡など品質に問題ないかをチェックする工程があります。
タブレットで撮影した画像をAIが画像解析し、色つややひび割れなどを点数付けするものになります。

AIでコンクリート構造物の表層品質を評価するアプリを開発

確かにこれはAIが得意な領域だと思うので今後も継続して使い続けられると感じました。
将来的には施工技術者に対して、打設方法の改善提案をしてくれるとのことらしいです。

今後のAI導入について

鹿島建設としてはクワッドアクセルを中心とした土木作業の遠隔・自動化を引き続き投資・リードしていくものだと思われるので、ダム以外にもあらゆる場面で使われるようなことになるかと思います。
ただ、売上比率の多い建築事業においてはクワッドアクセルほどのあまり目立ったAI導入が見えてこなかったので、他スーパーゼネコン同様にBIMをベースとしたAI適用が取り組みがここ数年以内には出始めてくると思います。

まとめ・考察

スーパーゼネコンの中でも土木に強く売上・営業利益トップの鹿島建設についてDX/AIの取り組みを紹介しました。
清水建設・大成建設と比較すると土木領域についてはかなり進んでいる印象を受けました。逆にそれ以外の領域についてはあまり目立った動きが見られなかったので、今後は建築事業を中心としたAI適用に注目していきたいと思います。

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