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【仕事依頼】「歴史ゲームの登場人物査定」のサンプル

 ゲーム活用アドバイザーとして受け付けているサービスのひとつ、「歴史ゲームの登場人物査定」のサンプルです。

 「査定対象例」のような情報を頂いた場合に、「査定結果例」のようなレポートを提供します。
 依頼を検討する場合の参考にして頂きたいと思います。

 (注)この記事で査定対象として試作ゲームに見立てたゲームは、TACTICS誌No.39の付録となっていたHJ社オリジナルゲーム「旌旗蔽空せいきへいくう」(今野千尋氏デザイン)です。この記事にある情報は、この査定例の内容を理解する目的以外には使用しないで下さい


査定対象例

登場人物リスト

 本記事の末尾に掲載します。
(この記事はサンプルなので画像として貼り付けていますが、実際にはメールにてエクセルファイルかテキスト添付で送付になります)

登場人物リストの補足

  • 戦闘修正:小部隊を率いたときの戦闘の強さ。修正値がダイスの目にプラスされる。0~+3まで。

  • 作戦修正:大軍を率いたときの作戦の上手さ。効果はタイプによって違う。0~5まで。

    • タイプA(BとDの両方の効果がある)

    • タイプB(相手より大きいと、振れるダイス数が多くなる)

    • タイプC(相手のA/Bの有利を打ち消す)

    • タイプD(戦闘では使わない。内政/外交が有利になる)。

  • 人徳:人材登用の際、この数値以下のダイス目で成功となる。外交(同盟化工作・和平工作)で交渉権を得るのが有利になる。0~4まで。

  • 親族武将:この設定があると絶対に裏切らない。

  • 所属:各シナリオ開始時の初期状態(×は死亡、空白は在野)

対象シナリオ

 194年開始のシナリオ6(キャンペーンシナリオ)をメインに、全シナリオ(S1:189年開始、S2:194年開始、S3:200年開始、S4:210年開始、S5:220年開始、S6:194年開始)

方向性

 人数を変えずにバランスを改善する(人数を「増やす」or「減らす」or「変えない」)

ポリシー

 リアリティ重視(「リアリティ重視」 or 「エンタメ性重視」)

査定結果例

1. 全体のバランス

1-1. 時代の偏り
 前半のシナリオを重視しているため、後半のシナリオでは人物の大半が死亡していて、絶対数が不足します。
 具体的には、孫呉の所属人材を挙げますと、S1(189年開始)では群雄孫堅を含む6人、S2(194年開始)でも群雄孫策を含む6人、S3(200年開始)では群雄孫権を含む8人、S4(210年開始)では11人となってピークを迎えますが、S5(220年開始)では8人となり、支配エリアや兵力が増えているのに人材数は逆に減ってしまいます。

1-2. 中立群雄
 まず存在意義をはっきりさせましょう。
 辺境にも豪族がいたというリアリティを補強するだけの存在で、プレイヤーの群雄と戦ったら吹き飛ばされてほしいのか。
 史実で強力だった、例えば張繍や劉璋のような豪族に大きな戦力を持たせて、プレイヤーの障害としたいのか。

 前者であれば、交州に勢力を築いていた士燮ししょうと、シナリオ2(194年開始)に限っていえば、袁術-孫策ラインの江東進出に抵抗した劉繇が有力。
 後者であれば、公孫瓚こうそんさんの強化が有力。192年の界橋の戦いまでは袁紹よりも有利に戦いを進め、199年の滅亡まで袁紹を苦しめました。
 また、シナリオ1の陶謙は中立群雄だから弱いが、シナリオ2ではプレイヤーが操作するから強いのは、客観性を欠いています。

2. 設定ミスの指摘

2-1. 劉封が存在するにも関わらず、どのシナリオでも劉備の親族武将として登場しません。

2-2. 厳綱が存在するにも関わらず、どのシナリオでも公孫瓚の配下武将として登場しません。

2-3. シナリオ1から4まで通して劉璋が、同じくシナリオ1から5まで公孫康が中立群雄になっています(つまり、劉焉や公孫度が存在しない)。使用ユニット数節約の効果があることは認められますので、リアリティ重視でなければ、あえてそのままにするのも一理あります。

3. 史実との相違の指摘

3-1. 実在しない人物「鄂煥がくかん」が登場します。
 彼は「三国志演義」で創作された人物です。エンタメ性重視であれば、あえてそのままにするのも一理あります。

3-2. 群雄としての実績に乏しい孔融こうゆうが中立群雄になっています。
 彼は史実では反董卓連合軍に加わっていません。小人物を側近に抱えていたとされ、北海国の相として人徳3に値するような善政を残していません。

3-3. シナリオ1から4まで、魏の功臣鍾繇しょうようが、馬騰ばとうの配下武将になっています。
 史実では鍾繇には「馬騰と韓遂を和解させて後漢朝廷へ帰順させる」という功績があります。このことは、韓遂はともかくとして、少なくとも馬騰は朝廷の権威に従順であったということを意味するだけで、鍾繇が馬騰のために働いたとは読み取れません。

3-4. シナリオ2開始時点で張繍ちょうしゅうが中立群雄になっています。史実では、194年には董卓とうたく残党の張済ちょうさいが健在で弘農郡に駐屯。食糧を求めて南陽郡に移動して、196年に戦死。従子張繍が軍勢を引き継いで、劉表と同盟して南陽郡に駐屯する、という流れになります。ただし現状の設定はルールの簡素化の効果があることは認められますので、あえてそのままにするのも一理あります。(つまり、張済を司隷に配置すると南陽郡に移動させる特別ルールが必要になる。)

4. 客観性に欠ける点の指摘

4-1. 呉に対する評価が低すぎます。
 特に、シナリオ3以降の孫権には後継者がいませんので、孫権が死んだら即滅亡になります。

4-2. 董卓の関係者が多すぎます。
 このことが「1-1. 時代の偏り」にも影響しています。

4-3.
袁紹と曹操の相対的な戦力差が、史実に反します。
 史実では(『演義』でも同じですが)、官渡の戦いまでは袁紹が圧倒的に優位です。

4-4. 袁術と孫堅・孫策の相対的な戦力差が、史実に反します。
 史実では(『演義』では隠されていますが)、袁術の皇帝僭称までは孫一族は袁術の命令を受ける立場にありました。さすがに孫堅・孫策を袁術の配下武将とするのはゲームとして成立しないとしても、孫一族の一部を袁術の配下のようにすることは、リアリティを補強することになります。

5. 変更提案

1から順にお勧めする提案になります。
(注)能力値はあえて変更を提案しません。デザイナーの責任範囲であり、また特権でもあるため。

5-1. 変更:鄂煥がくかん(在野) -> 士燮ししょう(中立群雄)
 1-1、1-2、3-1の対策。士燮は226年まで存命。

5-2. 変更:厳綱(在野) -> 公孫範(公孫瓚所属)
 1-2と2-2の対策。界橋の戦いで麹義に斬られただけの厳綱よりも、有能な親族武将である公孫範のほうがふさわしい。

5-3. 変更:孔融 -> 劉繇りゅうよう(シナリオ2のみ中立群雄。1と3は在野)
 1-2と3-2の対策。

5-4. 変更:太史慈(在野)-> (劉繇所属)
 1-2の対策。

5-5. 変更:李粛 -> 孫登(孫権の後継者)、華雄 -> 周泰(S2以降)、蔡邕 -> 顧雍(S3以降)、樊稠 -> 朱治(S1以降)
 1-1、4-1、4-2の対策。孫登は241年まで、周泰は225年ごろまで、顧雍は243年まで、朱治は224年まで存命。

5-6. 変更(シナリオ1と2):朱霊(在野)-> (袁紹所属)
 4-3の対策。

5-7. 変更:李儒 -> 麋竺びじく(陶謙、劉備)
 1-1、1-2、4-2の対策。麋竺は221年まで存命。

5-8. 変更:祖茂(孫堅所属)-> 孫賁そんふん/ほん(袁術)
 1-1、4-4の対策。孫賁は孫堅の甥だが、孫策との関係は良いとは言えず、事実上袁術の配下武将として行動した。孫賁は219年まで存命。

5-9. 変更(シナリオ2のみ):劉備・関羽・張飛(陶謙の親族武将) -> (在野)
 4-4の対策。劉備に関する特別ルール「任意のターン終了時に、劉備は陶謙を廃し、徐州牧になって良い。」は「誰かが劉備・関羽・張飛のどれかを人材登用で引いたら、陶謙の代わりに劉備が群雄となり、関羽・張飛が親族武将となる。そのときの人材登用ではもう一人別の人物を引く。」と変更する。

5-10. 変更(シナリオ1から4):鍾繇(馬騰所属)-> (在野)
 3-3の対策。

5-11. 変更(シナリオ5のみ):劉封(在野)-> (劉備の親族武将)
 2-1の対策。なお、このサンプルの元ネタとなったゲーム「旌旗蔽空」では、実際に同様の訂正が行われました。

5-12. シナリオ1または5を廃止する
 1-1と4-1の対策。董卓打倒のシナリオでのみ活躍する人物、例えば孫堅や王允らを重視するなら、220年スタートのシナリオ5は生存する人物が不足することになるので、無理がある。
 また、三国鼎立以降に活躍する人物、例えば諸葛亮や陸遜らを重視するなら、189年スタートのシナリオ1は董卓が人物数の枠を無駄に使ってしまって、それも無理がある。
 思い切ってどちらかを捨ててしまうことで、人物数の制限のため後期シナリオのバランスが悪いという傾向は改善します。

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登場人物リスト(例)

(注)この登場人物リストは、TACTICS誌No.39の付録となっていたHJ社オリジナルゲーム「旌旗蔽空せいきへいくう」(今野千尋氏デザイン)のものです。この査定例の内容を理解する目的以外には使用しないで下さい。

試作ゲームの登場人物リスト例(前半)
試作ゲームの登場人物リスト例(後半)


貴重なお時間を使ってお読みいただき、ありがとうございました。有意義な時間と感じて頂けたら嬉しいです。また別の記事を用意してお待ちしたいと思います。