見出し画像

ちょっとだけいいこと言ってるだけの大前理論

大前研一といえば、個別にはいいことを言うこともあるが、大半はとんでも経済理論を振り回すと言う印象しかなかったのだけど、数年ぶりに読んだ本書でも変わらずだった。本書にツッコミところは多いのだけど、あえて2つほど突っ込ませていただく。

シンギュラリティで仕事はなくなりません

第四の波=サイバー化、でAIの活用により、近いうちに、シンギュラリティ=AIが人間の知能を超え、大半の仕事はなくなると高々宣言しています。もっとも、この主張自体は大前氏のオリジナルではなくて、誰が言い始めたかも分からないくらい、数年前に流行ったものですが。
本人がその例として挙げた、エストニアは政府と個人口座が連携しているので税務申告が自動化しているので、会計士(税理士)は仕事がなくなる、と言う話をしています。が、エストニアには相変わらず、会計事務所があり、会計士も依然としています。

エストニアは、税理士や会計士が消滅したと言われることがありますが、実際にはそうではありません。エストニアには約1,800の会計事務所と約3,800人の会計士が存在しています1。エストニアの人口は約130万人で、法人数は約12万社。税理士は3800人も存在しています。この国は、ITの発展と税制の簡素化により、税務申告が電子化されています。税制が非常にシンプルであり、相続税に至っては存在しないと言われています。しかし、現在のエストニアにも会計事務所が約4,000(法人数は約120,000)あり、税理士や会計士は必要とされています2345

Bingに聞いてみた

シンギュラリティ=仕事がなくなるというのは大嘘で、パターン化できる作業が減るものの、将来のこと、不確実なこと、イレギュラーなことは相変わらず人間が必要です。正しくは就業人口が減るというのが事実なのです。
人口比でいえば、3800人÷130万人=0.003で日本と比較すると、税理士8万人、公認会計士3万人の合計11万人÷1億2千万人=0.09なので、絶対数は減るのは間違いありません。もっとも、エストニアという小さな国とミドルサイズの日本を比較すること自体にも、税制が複雑化どうかも加味しないと意味がないのでこの比較自体若干無理があるのですが。

金利を上げれば景気が良くなるというとんでも経済理論

著者はアベノミクスのうち、特に日銀による金融緩和が嫌いで、日銀の金融緩和をほぼ全否定しています。特に面白いのが、金利を上げれば景気が良くなるというもの。金利を上げると、日々の資金繰りに苦しむ中小企業が潰れ、賃金が全く上がらないのに長期ローンを組んでいる人たちも返済ができなくなるというだけなのですが、大前理論だと、これらの人は存在せず、貯蓄で資産を持っている人たちの金利収入が増えて財布の紐が緩み消費が拡大するという理屈になっています。
この理屈の背景には日本は低欲望社会になっていて、日本人は消費をせずに貯蓄に回しているというのだけど、だったら金利が上がっても貯蓄が増えるだけで消費は増えないとなるのだけど、本人の中ではなぜか上記の理屈が成立している。

たまにはいいことを言う

と言うわけでいつもの大前研一理論が一冊になっているわけですが、ちょっといいことも言っているのでそこも紹介します。
岸田政権の経済政策への批判。これはいいですね。賃上げだの新しい資本主義だのはいらないので、政府の規制を減らせと。あとは、税制の見直しかな。個人の経費をなるべく認めるようにしろ、と言うのもありかなと思いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?