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おばあちゃんのカリカリ梅おにぎり

時々、また食べたいなぁと思い出す味がある。
おばあちゃんのカリカリ梅おにぎりもその一つ。

祖父母は牧場を営んでいて
おばあちゃんは朝から晩まで牛の世話、畑仕事、家事、猫や犬の世話と
ほとんど休みなく働く人で、いつも忙しそうだった。
そして、なんでも自分で作ってしまう。

年越しそばも自分でうつし、お正月のお餅もつくし、
春には牧場の周辺でよもぎを摘んで草餅を作ってくれたり、
お彼岸にはいろんな味のおはぎも作っていた。
子牛が生まれたら母牛からでる初乳で牛乳豆腐を作ってくれて
淡白なチーズのような味のする牛乳豆腐は
しょうゆをかけて食べると本当に美味しかった。

もちろん毎年梅干しも作っていて、
おばあちゃんの少し塩辛い、かための梅が大好きだった。

当時私は車で20分ほどのピアノ教室に通っていて、
両親が仕事で送り迎えができないときは
おばあちゃんが代わりにピアノ教室へ送ってくれた。

おばあちゃんは畑仕事から抜けてきたというような出で立ちで
軽トラで小学校まで迎えにきてくれた。
正直、友達がいる前でいかにも農家の恰好で
少し土がついた軽トラで迎えにきてもらうのはちょっと恥ずかしかった。
おばあちゃんもそんな私の気持ちを見透かしたように
少し困ったように笑いながら、
「こんな格好でごめんね」
と言ってくれた。
そして、迎えにきてくれた時に
決まって助手席のダッシュボードの上においてあるのが、
アルミホイルに包まれたおにぎりだった。

おばあちゃんのつけた梅を刻んで
紫蘇と一緒にご飯に混ぜ込んである、おにぎり。
小柄なおばあちゃんの作るちいさなおにぎり。
「お腹空いたでしょう。これでも食べて」と。

少し塩辛い梅の味と
カリカリとした触感が
絶妙に美味しかった。
そのおにぎりが大好きだった。
だから、おばあちゃんがお迎えに来てくれるときは嬉しかった。

でも、素直に気持ちを表せない私は
「これ大好き!もっと作って!」
などとかわいいことは言えず、
ありがとうと静かに言いながら黙々と食べていたような気がする。
おばあちゃんのことだから、私が好きだといえば、
お迎えの時に限らずもっと作ってくれただろうに。
だからおばあちゃんは
「こんなものでごめんね」
と言っていた。
そんなことはないよ!これがいい!と心の中で思っていたのに
「ううん、いいよ」
とつれない返事をしていたと思う。

私の成人式をみれるかなぁなんて言っていたおばあちゃんは
もう94歳。
私は成人式をとっくに過ぎて35歳になった。

先日、去年の秋に生まれた娘を
ようやくおばあちゃんに会わせることができた。
ずーっと楽しみにしてくれていた曾孫。
おばあちゃんは本当に喜んでくれて、
腕がもう上がらなくなってしまった、と言いながら、娘を抱いてくれた。

おばあちゃんが私に注いでくれた愛情。
忙しい合間に作ってくれたカリカリ梅のおにぎり。
娘ができた今、少しだけその気持ちがわかる。

思うように体が動かなくなり、
おばあちゃんが梅をつけたり、おにぎりを作ってくれることはもうない。
だけど、私はきっとその味を忘れることはない。
ふと思い出しては食べたくなる、大切な思い出の味だ。

#元気をもらったあの食事

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