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買い物弱者を救え! 奮闘するセイノーホールディングス子会社社長・河合さん

クリーム色と青色の車体に、跳ねるカンガルーのマークの付いたトラックを高速道路や街中で見かけたことはありませんか。西濃運輸を中核企業とするセイノーホールディングスの傘下企業の配送車両です。企業間物流で国内トップレベルを誇る同社が今、一般消費者に注目して新しい成長の芽を育てています。音声メディアのVoicyを通じて毎週月曜日から金曜日に配信しているヤング日経の月曜担当パーソナリティーtelさんと、セイノーホールディングスの河合秀治ラストワンマイル推進室室長に共同で取材しました。

インタビューのもようはこちらからお聴きいただけます。

「今90社余りあるグループの企業のうち、10社を管理しています」と話す河合さんは、「ココネット 取締役社長」と書かれた名刺を渡してくれました。2011年10月にセイノーホールディングスの全額出資で生まれた、東京に本社を置く企業です。従業員は約500人。ココネットが提供するのは、消費者がスーパーやコンビニなどで購入した商品を自宅まで届けるサービスです。一人暮らしの高齢者や子育て中の母親などに商品を届けています。

主なサービスは4種類で、買い物客が店に行き買った商品を自宅に届ける「来店型」や、消費者の自宅に出向いて品物を届ける「ご用聞き型」、顧客の注文書をもとに品を届ける「注文書型」、顧客がネットスーパーで購入した商品を届ける「ネットスーパー型」があります。複数のサービスを組み合わせて利用することもできます。

取り組みは広がりを見せています。セブン―イレブン・ジャパンは20年度からコンビニエンスストアから消費者に商品を直接届けるスピード宅配を東京都内の100店舗で始めます。

宅配を担うのがジーニー(東京・中央)で、16年に設立されたセブン専用の配送子会社です。ココネットで蓄積された配達のノウハウがジーニーにも受け継がれているのです。ジーニーでも河合さんは代表取締役を務め、事業を推進しています。

河合さんは46歳で東京出身。バスケットボールのサークルとマージャンに明け暮れる普通の学生だったといいます。就職氷河期の1997年に専修大学を卒業後、当時の西濃運輸に入社しました。本社は岐阜県大垣市にあり、最初に配属されたのは愛知県内の支店でした。入社当時は異郷の地に来た、という思いが強かったようです。

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そんな河合さんは30代のある日、本社で役員が居並ぶ前で、プレゼンテーションに臨んでいました。「小売店から買い物客の自宅までをつなぐ事業がやりたい。買い物弱者対策につなげたい」。手を震わせながら説明したといいます。

河合さんが「買い物弱者を救いたい」と思ったのは、自身の身近で起きたある出来事がきっかけでした。東京に暮らしていたころ、近所に住んでいた祖父が骨折しました。100歳過ぎまで生きて、自転車で自らスーパーに買い物に行く人でしたが、その自転車で転倒したのです。高齢社会が一段と進み、買い物に出かけてケガをしたり、そもそも買い物出られなくなったりする人が増えるかもしれないという危機感がココネットの事業の原点となりました。

河合さんは単純に買い物弱者救済だけを訴えてきたわけではありません。セイノーホールディングスは企業間物流の国内トップ企業ではあるものの、大口取引先の企業から物流コストの引き下げ要求にさらされやすい側面もあります。最終消費者との取り引きが増えれば、単価の上昇につながると考えたのです。

また、新たな取り組みはこれにとどまりません。20年中に東京や大阪など主要都市で玄関などに荷物を置く「置き配」に特化した宅配事業を始めます。ネットを通じて仕事を請け負うギグワーカーを活用し、21年以降は福岡などでサービスを拡大します。この宅配を担う事業会社はLOCCO。グループ中核企業の西濃運輸が東京―大阪など主要都市を結んでいる物流網を活用し、LOCCOはネットで空いたトラックを募り、西濃運輸の荷さばき所から個人への輸送を委託します。ポスティングでギグワーカー約1万人とのネットワークを持つ企業が最終的に配達を手掛けます。

河合さんの視線は社会全体にも向いています。東京都文京区など6団体が17年7月、困窮する子育て世帯に食品を届けるために始めた「こども宅食」事業にも参加し、保護者1人で子育てして「児童扶養手当」の対象となる家庭や、経済的理由で就学が困難な「義務教育就学援助」の対象となる家庭から希望者を募り、コメや加工食品を提供しています。昨年10月と今年2月、4月と数カ月おきに実施しています。ココネットはNPOと組み、文京区の困窮世帯に食品を配っています。

今後、セイノーホールディングスは調剤の宅配事業にも乗り出す構えで、これまでココネットで蓄積してきた事業のノウハウを幅広く生かしていく考えです。

河合さんはかつて新規事業を進めるにあたり、社内の先輩から言われたことがあります。「いきなり大きな湖を作らなくていい。100個の水たまりを作ろう」。新規事業がすべて順調に育っていくかどうかは分かりません。大当たりしない場合もあります。ですが、河合さんは「まずは小さく生んで大きく育てればいいのです」と言います。小さな新規事業が増えてつながっていけば、それは湖のように広がる可能性を秘めています。

次の一手を模索する大手企業が多い中、セイノーホールディングスの取り組みは企業が既存事業から新しい価値を生み出す一つのモデルになりそうです。