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けんじづいている

家族がChromecastで「本格科学冒険映画 20世紀少年」を観ている。第1部が実写化されたのは子どもたちが生まれる前だったが、今でも第一線で活躍している俳優がこれでもかとばかりに配役されている。この記事を書いている今、唐沢寿明演じるケンヂに対する熱狂的なコールが上がっている。

けんじと言えば、宮沢賢治を題材にした映像作品をここ数年で2つ観た。

結婚して岩手が新たに帰省先になったのだが、観光スポットには宮沢賢治ゆかりの地と看板やオブジェがあるし、土産物を買いに行っても賢治グッズに事欠かない。思えば「風の又三郎」「雪渡り」のリズミカルなチャントに惹かれ、吹奏楽をやっていたときは「セロ弾きのゴーシュ」に感情移入し、「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」では燃えたり読めなくなったりした原稿に何が書いてあったのか想像したりした子ども時代だった。きっと、引き寄せの法則が働いたのだろう。

映像2作品

菅田将暉バージョン(2023)

私の両親と共に、一家で観たのはこちら。

長男の誕生を知らせる電報に出張先から飛んで帰り、入院すればつきっきりで甲斐甲斐しく看病する父の溺愛にほっこりしたのも束の間。成長した子・菅田将暉が完全に食ってしまった。そのときの宮沢家には、認知症になる祖父、勝ち気だが病弱な妹、そして事業後継を突っぱねて我が道を行くエキセントリックな賢治が暮らしていた。賢治が法衣を纏って腹の底から「なむ!みょーほーれんげーきょっ(ドン、ドン)」とお題目を唱えるシーンなど、異様すぎて目が点になってしまった。父・役所広司の深い愛情、才能への理解、モラトリアムを許容できる経済力、そして家族を守るために他人をどやしつける威厳があって、家族の統率が取れていたのだ。

鈴木亮平バージョン(2017)

一人Amazon Primeで観たのはこちら。

160cm前後だったという賢治に対して、菅田将暉(176cm)を優に上回る186cmの体躯。冴羽獠なら完全一致なのに、これはどう見せるのかと思った。でも、自然なカメラワークと、人の良さそうな笑顔と家族や生徒たちへの優しい語りかけが、圧を感じさせない。作品に応じて肉体改造をする人であるとは知っていたが。

この作品については好きな台詞がある。

楽しいからやる。面白えから頑張れる。
だから辛くても勉強だって仕事だって続けられるんです。
面白がることは人間にとって生きてく原動力なんすよ。

「賢治の食卓」

賢治の興味が次々に移ったのは、常に新たな楽しみを求めていたから。でもやりっぱなしでなく続けるには、それが面白くなくてはいけないんだな。職業で言えば文筆家が一番長く続いたからそう後世に伝わっているのだ。私も日々の仕事に立ち返り、辛くても面白くて頑張れた仕事で人々の印象に残りたいものだ、と感じた。

宮沢賢治の人となり

37年の短い人生を駆け抜けた賢治の肉体は旅立っても、独創的な作品が後世の人たちの創作意欲を掻き立てる。「やまなし」など学校の教科書にだって載るから、新たな読者も獲得し続けている。日本人で知らないという人はいないだろう。

残した作品を多角的に見たり、当時を知る人の話なども集めて、賢治そのものに迫ろうとする試みも多数ある。精神科医が賢治の生い立ちから躁(マニー)と鬱(メランコリー)の規則的なサイクルを見出し、丁寧に解説した本も読んだ。

私は、冒頭の「銀河鉄道の父」での菅田将暉の怪演を観て初めて、賢治の心は健康だったのだろうか?と疑問を抱き、この本に当たった。

思い通りにならない心と体を駆り立てて、当時の社会問題であった東北の地場産業を助けようとしたのだ。思い切って能動的に休めたら良かったのだが、力尽きて病床に臥した様子がわかる資料もあった。晩年の賢治は菜食主義者で栄養失調気味、Wikipediaによれば「医者にもかからず、薬はビール酵母と竹の皮を煎じたものを飲むだけだった」とあるから、医療拒否まであったようだ。ここに心の病があったら、いくら若くたって大変だ。

賢治が命を燃やし尽くした様子を子に先立たれる父が見続けたのが、「銀河鉄道の父」。トシの死を「永訣の朝」に書き、天上のアイスクリームを「おあげんせ」して一家で悲しみから癒える様子を弟がナレーションしたのが「宮沢賢治の食卓」。みなさんはどちらがお好みだろうか。その間に私は年代を遡って他の映像作品も観てみたいと思う。

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