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「障がい者」や「就労困難者」をどう訳すか

〜社内Slackに投稿したのを一部改変・加筆して転載〜

表記へのこだわり

私には、NVDAというスクリーンリーダーを使っていた時期がある。「障がい」と表記されると「さわりがい」と間違って読み上げられるので、「障害」と表記することを好んでいた。「ひらがなにすべきだ」「いや、障碍だろう」との主張を蔑ろにするつもりはなく、実用性のためだった。
今は会社の表記に従って「障がい」を使うようにしている。もっとも、「障害者手帳」「障害者総合支援法」「鎌倉市障害者二千人雇用センター」などの成句は崩さないが。

私は何をする人ぞ

英語話者と関わることが多いので今の自分の仕事について説明したいのだが、「就労困難者」って英語で何て言うんだ?と。現在の勤め先に入社して1年3か月経った頃も悩んでいた。

公式な訳を探して

法務省が運営するJapanese Law Translationで、障害者総合支援法の対訳を見ると

  • 就労移行支援 employment transition support

  • 就労継続支援 continuous support for employment services

となっている。

でもemploymentは「雇用」と1:1で対応する語。前職で使っていた人事管理システムのWorkdayでは、

  • Employee (Full-time, Part-time。給与を支払う社員)

  • Contingent Worker (Intern, Individual Contractor。職場に必要だが、お金の出どころが「給与」でない人員)

とは明確に分かれていた。

雇用されることを目指す就労移行支援にはemploymentを当てても良さそうだが、A型は雇用(例外あり)・B型は雇用ではないため、就労継続支援の方は微妙だ。

「状態」の翻訳

就労という言葉にemploymentを当てないとしたら、「就労困難」という状態を訳すことになる。
Google翻訳は"Persons who have difficulty working"、DeepL翻訳は"Person who has difficulty finding work"としてきた。働けない人と、仕事が見つからない人。元は同じ日本語だったのに、英語になると意味が違う。やっぱり一語で表せないのか。と、振り出しに戻るのだ。

言い換えがほしい

英語は結構シビアで、handicap、challenged、special [education]などには言い換え語が存在する(Respectful Disability Languageがわかりやすくまとまっている)。
日本ではカタカナで定着しているものも多く、直訳して痛い目を見たことがある。公共交通機関で使われているから問題ないと思っていた。今では、そこにこの記事のような問題意識を持つ人がいなければ変わらないと知っている。

尊厳を侵害しない語への潮流を感じている。
「障がい者」「引きこもり状態にある人」といった就労困難っぷりを直訳するのでなく、「一緒に働ける可能性がある潜在的な労働力」「多様な背景を持つ人たち」という言い換えができればと考えている。日本語ありきで考えるのではなく、英語を元にするのだ。

  • potential workforce ←employmentに限定されない「働き手」にできる

  • individuals with diverse backgrounds ←障がい、難病などを包含できる

  • new opportunities ←発注側・受注側にとってwin-winであることを引き出せる

といったポジティブな語を使いながら、根拠となる説明の中で日本ならではの課題を丁寧に記載できるとよいのではないか。
将来的には、既存の日本語を塗り替えるくらい当たり前にしていきたい。当事者が「就労困難者」と名乗ったのでなく、第三者がつけた呼称なら、変えていきたい。「痴呆症」が「認知症」、「精神分裂病」が「統合失調症」になったように、言葉は時代と共に変わっていくものなのだ。

雇用に捉われず

さて、employability(エンプロイアビリティ)という言葉がある。
日本語訳ではまんま「雇用される能力」と訳されてしまうが、厚労省の出しているチェックシートを見ていると、ワーカーが一般就労を目指そうと業務委託のままやっていこうとどちらでも必要なスキルだ。

私は現職に就く前3か月ほど、在宅でフリーランス翻訳・編集者をしていた。とある企業に週4日の労働力を提供するうえでは、過去10数年間の正社員勤務期間でエンプロイアビリティを醸成されていたのが功を奏したのだと思う。一度業務委託の働き方を経験したおかげで、今こうして40数名もの通所・在宅ワーカーたちの貴重な時間を自社から依頼する業務に充てさせてもらう立場として成功を収めている。

共に働く相手が企業であれば、そこで働く人たちと価値観や習慣が近いほうがお互いにやりやすい。これは一般就労に向けたスキルアップとか雇用されるための能力を保つというよりかは、自分が他人から必要とされて働き続けるために努力して行う体力作りだと思う。
ただし、日数・時間数に時給で働くワーカーにフルタイムで働く会社員並みのスキルやマインドを求めるなら、報酬と折り合いがついていないと搾取になる。一般企業から来ているスタッフの教育に当たって、最も気をつけている点でもある。

取り止めもなく

障がい者とか就労困難者とか、ラベリングするのは至極わかりやすく、そして失礼なことだと思っている。「言葉狩りではないんだけど」と前置きして、社内でいつも話している。身の回りから少しずつ意識を変えていきたい。

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