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[研究室運営] Scrapboxを使った研究室の情報共有のススメ

研究室でしっかりと情報共有がなされているところは思った以上に少なく、先生だけが重要な情報を知っている、秘書さんだけが全容を把握している、あの先輩だけがあの高価な機器の使い方を知っている、しっかりもののあいつだけが頼りみたいなことになりがちです。

で、先生が忙しくなりすぎると情報が降りてこなくて困る、秘書さんが辞めると情報が消失して破たんする、先輩が卒業すると誰もあの高価な機器を使えず廃棄まっしぐら、しっかりものの学生さんに負荷が集中して不満がたまるみたいなことになりがちです。あと、半年前、1年前の自分は他人と同じですので、その過去の自分との情報共有も重要です。まぁ、とにもかくにも、3~5年で教職員以外総入れ替えみたいな組織である研究室において情報共有は超重要です(うちだと教員1名を除き、20~30人のそれ以外の構成員(学生)が総入れ替えになります)。

情報共有や探索などの研究をしていること、またよりよい研究室運営のために色々な研究室の状況を調査させていただいているのですが、結構な学生さんが「まともに情報共有をされていないこと」を不満としてあげます(もちろんハラスメントとかは論外ですが)。

そうした研究室では、「情報共有は先生がHTMLをべた書きしている」「研究室Wikiだけ」「メーリングリストだけなんだけど流量がかなり少ない」「テキストファイルをネットワークドライブで共有」「2GBのDropboxを削除しながら使っている」などはまだいい方で、そもそも情報は個々にしかもっておらず共有されていないということも珍しくありません。また、色々なサービスを導入しているのに全く活用されていないという事例も多く聞きます。そしてなんでうちの研究室だけとか、無駄が多いとか、かなりの不満がたまっていっています。こうした不満について、教員は全ての情報を持っていることが多いため気づきにくいのかなと思います。

さて、私はとても怠惰な人間なうえに、息子のケアが必要なのでお仕事できる時間に限りがあります。できるだけ研究室としての研究は学生とともに推進したいので、研究室運営はできるだけ手を抜きたいと思っています。ここで手を抜くには、学生同士が助け合ってくれる必要があり、重要なのはやはり情報共有で、そこをしっかりしておくと楽になると信じています。

ただ、この情報共有ですが思った以上に簡単ではなく、下記の記事にもありますが失敗しがちです。

この失敗もやっぱりあるあるだなぁと思います。こちらの記事では「資料を使う前にシェア」「新メンバーを管理者にする」「先生が使う」がコツとしてあげられてて、ここにもある通り「先生が使う」というのはとにかく重要です。ただ、必ずしも先生が使ってくれるわけでもないので、学生だけでもお金をかけずに、できるだけ手間をかけずに助け合える仕組みを作れるというのも重要かもしれません。

また、「資料を使う前にシェア」もとても重要なのですが、これまでの経験上、研究室の人数がある一定数を超えると、忙しくなってきたころにだんだん事前シェアがなされなくなり、グダグダになっていきます。また、事前資料共有は、やってない人が可視化されるので、よほど教員がうまくコントロールしない限り、ちょっと歯車が狂うと悪循環に陥るように思います。なかなか難しいところです。

で、自分の所属した研究室や今の研究室で試したこと、また色々な研究室の学生さんから教えてもらったところからすると、研究室としてうまく情報共有を行うには「みんなが書くこと」「毎日アクセスすること」「質より量を重視すること」「整理しようと思わないこと」「メンテナンスフリーであること」そしてそのために「とにかく手軽であること」とが重要だなと感じています。

みんなが書くこと

上の記事にあるように「先生が使う」というのも重要ですが、それにもましてみんなが書くということが重要です。というのも、「先生が使う」の模範として教員が頑張って書いているのに、そのせいでなんだか学生にとっては書きづらい雰囲気が醸成されてしまい、結果的に学生さんが全然情報を書いてくれないという悲しい事例を結構ききます。

また、一部の人が頑張って情報を書いて蓄積していっても、それ以外の人がやらない場合、不公平感がうまれどんどん書く人が減っていきます。なのでどんなことでもいいのでみんなが書くということが重要です。一度下がり始めた書く割合は、なかなか上げることは難しいものです。

毎日アクセスすること

何か困ったときに、「そういえばこの情報が研究室のWikiにあるかな?」と考えて、ページにアクセスし、パスワードを要求されてパスワードを探し、わからないので先輩にパスワードを聞いて、アクセスした後でどこにあるか試行錯誤して探し出すということはかなりのハードルですし、それやるくらいなら誰かに聞こうということになりがちです。

なので、その情報共有の場は、研究活動をしている限り毎日アクセスし(研究室に来るとまずはアクセスするようにし)、そしてそれ以外の用途にも使うところにしておき、必要な情報へのアクセスにハードルを感じさせないというのがとても重要になります。

質より量を重視すること

「質の高い情報を共有しなければ!」と思ってしまうと、どんどんハードルが上がってしまい、いつまでも書き終わらず、共有されぬまま消えていってしまいます。

どれだけくだらなくても、またどれだけ不完全でも気にせず共有していくということが重要です。その情報が使われ、必要ならあとで質を上げればよい話ですし、量により質を補うことも可能です。というか、周りが質の高い情報ばかりだったらハードルが高くなる一方で、抵抗感がうまれていきます。とにかく質が低くてもいい、書きかけでもいい、量を重視していくというのが重要になります。

整理しようと思わないこと

情報を共有するうえでハードルになるのが,その情報をどこに保存するべきなのかということです。「これって何に分類されるかな?」「これってあれにもこれにも分類されそうだけどどっちがいいだろうか?」とか悩み始めるととてもやってられなくなります。また、保存するときに悩むくらい曖昧性のあるものであれば、当然ですが探すこともできません。

パソコンを一人で使っているだけでも、このファイルどこに保存したらよいっけ?と悩み始め、忙しくなってくると分類が面倒になってデスクトップに全部が置かれ荒れていきます(そしてdesktop20210107とかいうバックアップフォルダが作られていきます)。個人でさえそれなのに、20~30人の構成員からなる研究室で保存場所で一貫性が取れるわけはありませんし、まぁ破たんするのは見えているわけです。

保存する場所なんてくだらないことで悩まない、これが多くのメンバーで使う際にとても重要になってきます。

メンテナンスフリーであること

以前ですと研究室Wikiを運用するところも多かったですが(前職と学生時代に所属した研究室はWikiとべた書きのHTMLで情報共有がなされていました)、サーバを独自に立てる必要がありますし、そこに導入して運用しなきゃいけないとか、管理者がアカウント管理やパスワード管理をしなきゃいけないとか、パスワード忘れたら教えてあげなけりゃいけないとか、定期的にパスワードを変えないといけないとかはあまりに面倒ですのでやってられません。

また、ApacheとかPHPのバージョンが古すぎてセキュリティホールになってしまっているのだけれど、アップデートが面倒だとか、停電対応だとか、サーバが死んだときのために定期的にバックアップを取っておかなければとかも手間です。さらに、管理してくれている学生さんが卒業してしまうと、一気に大変なことになってしまいます。

管理運用において誰かに負荷が集中するようなものは不満のもとですし、また長続きしませんので、できるだけ管理コストがないものが望ましいです。

とにかく手軽であること

文章を書くことが手軽でないものは使われません。例えばWikiは記法に慣れる必要がありますし、メンテナンスコストも高いものでした。また、Markdownもよいのですが、20~30人が使い、かつ毎年10人近い新メンバーが加わるような状況では無理です。手間を増やすだけです。誰が教えるのって感じですから。

Notionにたいなサービスを使うとかなりきれいに整形できるので良いのですが、整形できるというのは学習コストがあがってしまうということで、いろんな人に使わせるのには向いていません。あと、きれいなだけに不完全な文書を入れておくことに抵抗があるので「質より量」に向いていません。

こうした、そもそもの情報を書くための学習コストが大きいとか、わかりやすくするためデータを整形しなければならないとかは想像しているよりも厄介なものなので気を付ける必要があります。また、文章をしっかり書かなければならないとか、ミスなく書かなければならないとかなるとハードルが高くなります。とにもかくにも手軽さが超重要なわけです。

何故Scrapboxが最適か

ここまで述べた通り「みんなが書くこと」「毎日アクセスすること」「質より量を重視すること」「整理しようと思わないこと」「メンテナンスフリーであること」そしてそのために「とにかく手軽であること」が研究室みたいな組織で情報共有するには重要です。逆にたどって何故Scrapboxが最適なのかという話をしていきます(Scrapboxと利害関係はありません)。

まず手軽さについてですが、Scrapboxは整形する気がなければ、スペースを入力してアイテマイズの階層を深くするだけでよいので、ただ文章を書いて共有するのに超絶向いています。過去にGoogle Docsを使っており、こちらも書きやすさはあったのですが、多人数での共同編集に弱くて他人の書いているものを消してしまったり、コピペするとそのコピペ元のフォーマットを引き継いでぐちゃぐちゃになるのが難点でした。その点Scrapboxは学習コストも低く、コピペ元からフォーマットを引き継ぐこともありません。なお、Scrapboxでさえ時間がかかる人はかかります。そのため、それ以外のツールを使うのであれば、それ以上の学習コストがあるものは言わずもがなです。

次にメンテナンスフリーであることについて、Scrapboxは本当に簡単に研究室のプロジェクトを開設できますし、研究室のメンバーに招待URLを送ってGoogleのアカウントでログインしてもらうだけでアカウント管理することなく気軽に使ってもらえますし、教育機関での利用であれば無料なので支払いの手間もありません。管理者の権限も設定から気軽に付与できます(気軽すぎるレベルで)。バックアップも勝手にとってくれますし、サーバが落ちるとかの心配も不要です。メンテナンスから解放されます。素晴らしい!

んでもって、整理しないことですが、そもそもScrapboxが思想的に整理・分類せず、タグを文書中に付与したり、リンク記述によってつなげるというものなので、整理するものではありません。必要なら質の高い重要な情報をタグでまとめたりできますし、書く時ではなく後になってタグを埋め込んでいけばよいわけで整理・分類しないですむのはかなり楽です。

質より量ですが、こちらもScrapboxはページを書き始めた段階で勝手に他人んに共有されていきますので、量を稼ぐのにもってこいです。いくらでも書きかけで放置していいんです。誰かがなおしてくれるかもしれないし。ただそうした書きかけをなんとかしようと思わない方が良いです。現時点で7689ページ(この記事投稿時点では6258ページだったので、1年で1000ページ以上は増えています)ありますが、情報がほとんどないページから、1000行近くあるページまで本当に様々です。

毎日使うものにして、みんなが書くようにするためにはさすがに工夫が必要です。ということで、中村研ではゼミの進捗報告や論文紹介、発表練習などでは、その論文について書記2名が議事録を書き、それ以外のメンバーは各自のスペースをコメント領域に作ってどんどん書き込むという方法をとっています。なので、少なくとも週に1~2回のゼミでは必ずScrapboxに書き込んでいくことになります。また、そこから質問を座長が勝手に当てていく形式をとっています。これにより、みんなが気軽に書き込めるようになっています。下図はある発表練習の時のコメントの一部。各自のスペースを事前に作らせると、書いていないことが可視化されるので、書き込むことに対する強制力が働くので良いです。

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また、各自の研究ノートをScrapbox内に作成してもらっています。事前に日付が埋め込まれたページを生成し、そこに日々の記録を書いていくという方法をとっています。

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学生さんによっては、こんな感じで、研究ノートに事前に予定を書いていたりします。研究ノートに事前に予定を書いておくと、まず研究やるかーとなったときにそこを見て今日は何をするのかということを把握できるのでとても良いです。

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中村研では、ページが日々量産されており、サーバの使い方、報告記事の書き方、学会出張の仕方といったHOWTOやTIPS系だけでなく、各自の月ごとの研究ノート、ゼミで紹介された論文、ミーティングの議事録、学会参加の議事録、生々しい予算の話、卒論のアイディア出しの記録、査読結果などどんどん書かれていますので、頻繁にアクセスしていくことになります。

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先輩の研究ノートも見ることができるので、卒論の先輩って10月ごろ、11月ごろ、12月ごろどんな感じで大変だったんだろうとかいうことを覗き見ることができたりするのもよい点です。

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論文紹介の記事や学会の議事録などでは、投稿者や発表者がリンクで表現されており、他の記事にその人が登場したときに自動的にリンクが貼られるので、「あっこの人こんな発表もしていたんだ」とつながるなど、かなり重宝しています。あと、複数回登場しているような研究者の方は写真も載せているので、学会とかでお見かけしたときに、「あっ! この人だ! 」と学生さんたちは思うことができるようです。

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また、そうしたある意味研究に直結したものだけでなく、講義のノートだったり、就活の記録や近隣の飲食店情報、食べられないものリストまで多様な情報が共有されています。繰り返しになりますが、ポイントは不完全でもページにして、不完全でも特に削除せず放置するってところでしょうか。

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今ではScrapboxにファイルもアップロードできるようにもなりましたので、論文紹介のページにその論文のPDFやスライドを貼ったりできるようになったのも嬉しいところです。

あとは、1枚目の画像が一覧化したときに見えるので、その画像を工夫するというのも面白いです。その学生さんの「推し」が提示されていることも多く、なんとも華やかな感じになります。

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ちなみに、Scrapboxは合同研究会などで使うのにも適しています。合同研究会が終わった後は、作ったページを研究室のScrapboxに取り込むことができるというのも嬉しいところです。

ということで、研究室の情報共有をScrapboxでやった方がいいよというお話でした。

教育機関での利用は無料ですので、本当に使わない手はないです。先生が使ってくれないとしても、無料ですので研究室の学生同士で使ってみるのも手だと思います!

ちなみに中村研ではこれにSlackとかGoogle Driveとか色んなサービスも併用していますが、Scrapboxがあるだけでも研究室変わると思います!

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