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【400字小説】愛

極道の世界にも愛はあるって、ハコは信じてる。
一般のそれより激しく、深くて、純真で、そしてやさしい。
ハコはあとからシシドが
暴力団組員だと知ったのだけれど、
誰にでも笑顔で挨拶すると認識していたから、
悪い冗談だと信じなかった。
それを知るまで、実に1年の月日を要したのだが、
それだけシシドは愛に溢れた極悪人。

シシドの所属する組は、仕事が汚いと
評判が最悪だったが、組の中にも外にも、
シシド本人を憎み恨む者は存在しなかった。

ヤクはやらない。
むしろ、健康志向でプロテインを過剰摂取。
ハコは唐揚げが得意料理で、
シシドは「うまい」って何十個も食べてくれるけれど、
本当は不健康だから食べたくないってことを知ってる。
愛を確かめるために唐揚げを作る、自己満足で。

今日もまた唐揚げを作って待っていた、夕食。
でもいくら待っても帰ってこないから
NHKニュースを見ていた。
すると、銃殺された暴力団組員の名前が、
見間違えるわけはなくシシド。

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