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【400字小説】石

面接で頭が真っ白になったココミは、その沈黙部屋で、
面接官までの距離がずっと遠くになった気がした。
まるで中世ヨーロッパの貴族と来客者の食事の席のよう。

真っ白だったからココミは何も考えなかったわけではない。
「何か喋らなきゃ(×16)」と碇シンジみたいに自分に言い聞かせた。
面接官は柔和な笑みをこぼして待ってくれていたが、
履歴書をクリアファイルに仕舞ったので、
実質もう終わったんだと諦めた。

その途端、用意していた自己アピールの記憶が蘇って、
3分も長々と喋った。
面接官はやはり微笑んでその話を聞いた。
退室後、夢が化石になってしまった悔しさを味わう。

だが後日、採用の通知が来て、
間違いだと面接の窓口になってくれた担当者に電話。
「あなたの一生懸命な人間味が
採用の決め手だったんですよ」との返答。
「こんなどこの石かもわからない女を
拾ってくれてありがとうございます」と電話を切った後、
思わずココミはガッツポーズ。
全部、彼女らしくなかった。

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