【書評】脳科学は人格を変えられるか?

エレーヌ・フォックス
文藝春秋
2017/08/04

 リベラルアーツシリーズ。次は科学、それも脳科学です。認知系とか行動経済学に通ずる分野ですが、本著は楽観主義者と悲観主義者を比較しながら、性格は遺伝するのかや、成功者の行動原理などについて考察をしていきます。著者はインテリ大学の教授さんですね。

 コップに半分の水が入っているとします。この事実は誰が見ようと変わりませんが、解釈は楽観主義者と悲観主義者で変わります。表現にすると「半分も水が入っている」と「半分しか水が入っていない」という具合です。当然要求される量や母数により評価が変わるという側面はありますが、言いたいのは尺度が同じでも人により解釈が異なるということ。実際に社会的に成功しているか否かはさておき、自身の環境に満足している人は楽観主義者であり、自分の成功を確信している人がほとんどだというのです。脳科学という側面から、後天的にも脳の変異は起こり、遺伝的な性質を凌駕して行動変容に繋がるという事例が脈々と綴られています。

 外国の本特有の、同じことを切り口を変えた事例で何度も繰り返して400ページ行くような例のパターンです。物理的なボリューム程伝えたいことが多いとは思いませんが、中々読ませる内容でした。個人的に刺さったのは、楽観主義を貫くには能力が必要だという一文でした。楽観主義者というのは、なにか世の中が勝手に良くなると思っているのではありません。何が起きても自分が対応できる、コントロールできると思っているから、環境が悪くなっても大丈夫だという自信があるということです。人によるのでしょうが、人生の中で実際に一定の確率でうまくやってきた実績があるからこそ楽観主義者で居続けられるという解釈でした。また、かの英元首相チャーチルは「成功とは、失敗につぐ失敗を重ねても決して熱意を失わない能力のことだ」と語ったそうです。他にもエジソン、ベゾスやらの逸話がたくさん挙げられています。まぁそりゃ能力あるでしょうよ。。。

 上記のような歴史に残るような人物の事例は極端ですが、直観的にも賛同できる内容だと思います。楽観的であれば成功するわけではないですが、必要条件として楽観的であり続けられることというのは腹落ちが良いです。成功が何かは人によっても異なるので、社会的な成功者が定量的に測りやすいということもありますし。楽観的なリアリストが真の楽観主義者だという考えは、いちサラリーマンの企業内のレベルでも実感することが出来ると思います。楽観的というと何も考えが及んでいない残念な人の響きがありますが、さすが行動と結果を重視するアメリカの好ましい捉え方だなあと感じました。私自身能力が高いとは言い難いですが、楽観主義者でありたいと思わせる本でした。長い!

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