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特許法162条~164条 前置審査

1.概要

 拒絶査定不服審判と同時に、その請求に係る明細書等の補正がなされた場合、いわゆる前置審査がなされます。
 前置審査というのは、拒絶査定不服審判という審判に入る前の事前審査にあたります。元々、拒絶査定不服審判において拒絶査定が覆るものの大部分が拒絶査定後に明細書等について補正がされたものでした。このため、拒絶査定をした審査官に再審査させれば、特許査定できる(拒絶査定が覆る)可能性が高いと考えられます。このような経緯で、審判官が処理すべき事件の件数を減らし、審判の促進を図る目的で、前置審査は設けられています。

・前置審査を担当する者
 拒絶査定をした審査官です。その審査官が退官、転職などによりその職務を執行することができないときは、当該技術分野の出願の審査を担当する他の審査官が担当します。

・前置審査で特許査定する場合
 審査官が原査定を取り消し、これにより当該審判請求は終了します。

・前置審査で拒絶査定をしない理由
 更なる審判請求を回避するためです。

・前置審査において、拒絶査定不服審判の請求と同時に行われた補正がその要件(17条の2第3項~6項)を満たさないことが判明した場合、審査官は補正前の内容について審査を行い、補正前の内容で特許査定ができる場合には、補正却下、拒絶査定取消、そして、特許査定を行う(163条2項、3項、164条2項)

・特許査定ができず、現査定を維持できると判断した場合、審査官は査定をすることなく、審査結果を特許庁長官に報告し、補正を却下することはできない(164条2項、3項)。その後、特許庁長官は合議体を構成すべき審判官を指定して(137条1項)、拒絶査定不服審判の審理が行われる。


●流れの概要
・審判請求時の補正が適法な場合
 (1)拒絶理由解消、かつ、他に拒絶理由がない場合 → 現査定取消、特許査定
 (2)拒絶理由解消、しかし、異なる新たな拒絶理由を発見 → 拒絶理由通知
 (3)拒絶理由解消せず → 審査結果を特許庁長官に報告

・審判請求時の補正が不適法な場合
 特許査定をする場合を除いて、補正却下決定ができない(164条)。補正前出願の拒絶理由が妥当かを再検討する。
 (1)補正前出願の拒絶理由が妥当 → 審査結果を特許庁長官へ報告
 (2)補正前出願の拒絶理由が不当、かつ、他に他に拒絶理由がない場合 → 補正却下決定、拒絶査定取消、特許査定
 (3)補正前出願の拒絶理由が不当、しかし、他に拒絶理由がある場合 → 審査結果を特許庁長官へ報告

2.審査前置移管通知

 拒絶査定不服審判請求と同時に、その請求に係る特許出願の願書に添付した特許請求の範囲について補正すると、いわゆる前置審査が行われます(特許法162条)。

 この前置審査を行う場合には、特許庁から「審査前置移管通知」というものが来るようです。

 前置審査において、審査官は、原査定を取り消し特許査定をするか(いわゆる前置登録)、原査定を維持すると判断して前置審査の結果を特許庁長官に報告する(いわゆる前置報告)、ことになります(特許法164条)。

 審査官が前置報告(特許法164条3項)をしたときは、審査前置解除通知が請求人に送付されます。前置報告がなされると、特許庁長官は、この審判事件を審判官に審理させることになります(特許法137条1項)。

 出願人としては、審査前置移管通知の後に前置登録という流れを希望すると思います。

前置報告をして審判官の仕事を増やすのは、本意ではありません。

●参考情報
拒絶査定不服審判Q&A 


・特許法162条

第百六十二条 特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があつた場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があつたときは、審査官にその請求を審査させなければならない。

・特許法163条

第百六十三条 第四十八条、第五十三条及び第五十四条の規定は、前条の規定による審査に準用する。この場合において、第五十三条第一項中「第十七条の二第一項第一号又は第三号」とあるのは「第十七条の二第一項第一号、第三号又は第四号」と、「補正が」とあるのは「補正(同項第一号又は第三号に掲げる場合にあつては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が」と読み替えるものとする。
2 第五十条及び第五十条の二の規定は、前条の規定による審査において審判の請求に係る査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。この場合において、第五十条ただし書中「第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)」とあるのは、「第十七条の二第一項第一号(拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限るものとし、拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)、第三号(拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)又は第四号に掲げる場合」と読み替えるものとする。
3 第五十一条及び第五十二条の規定は、前条の規定による審査において審判の請求を理由があるとする場合に準用する。

・特許法164条

第百六十四条 審査官は、第百六十二条の規定による審査において特許をすべき旨の査定をするときは、審判の請求に係る拒絶をすべき旨の査定を取り消さなければならない。
2 審査官は、前項に規定する場合を除き、前条第一項において準用する第五十三条第一項の規定による却下の決定をしてはならない。
3 審査官は、第一項に規定する場合を除き、当該審判の請求について査定をすることなくその審査の結果を特許庁長官に報告しなければならない。

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