閃き💡劇場⑦

私は子供の頃から要領が悪く、母親に『お前は努力しないと人並みになれない』『お前は褒めるとすぐ調子に乗るからダメなんだ』と言われ続け、大人になってもずっと自分に自信が持てずにいた。
そんな自分だから、職場でもいつも自信がなく、仕事を押し付けられたりいつも損な役回りをしていた。

ある日のこと。
私がいつものように残業していると、先輩が声をかけてきた。
『あれ？まだ残ってたの？いつも大変ね』
『はぁ…。』
『まぁ、あまり無理しないようにね。』
先輩はそう言うとその場を立ち去った…のだが。
『そうだ、ちょっと聞きたい事があるのよ。』
とUターンして戻ってきた。
『はい？』
私はおどおどしながら返事をすると
『何その反応、大丈夫。怒るとかじゃないから』と先輩は呆れたように言う。
『ご、ごめんなさい』
私は謝ると
『まぁ、いいわ。あのね、今プレゼンの資料作ってるんだけど、ある部分をスッキリと見せたくて、でも上手くいかないのよ、あなた資料作るの得意でしょ？ちょっと見てもらえない？』
『は、はい』
私は先輩に言われるがままその資料を見た。
『この部分をもっとインパクトを持たせたいの』
『なるほど、それならこれはどうでしょうか？』
私は思い付く方法で指示された部分を修正した。
すると
『あら、いいじゃない。ありがとうこれで資料もスッキリ見せられるわ』
嬉しそうに先輩はそう言った。
『い、いえ…』
私はドギマギしながらそう答えるのに精一杯だった。

それから数日後
『あ！いたいた！』
１人で食事をしようとしていると先輩が声をかけてきた。
『え？』
私がビックリしていると
『お昼、一緒に行かない？奢るから』
『え？どうしてですか？』
私はビックリして聞き返すと
『お礼がしたいからよ、さ、行くわよ』と先輩は私を引きずるように外へと連れ出した。

『あの時の資料ね、すごく評判が良くて、私のチームが次回の商品開発プロジェクトに選ばれたのよ』
先輩は美味しそうに食べながら言った
『そ、そうなんですね、おめでとうございます！』
『あの時修正したとこね、うちのチームの企画の肝だったのよ、だからすごく感謝してる、ありがとうね』
『いえ、お役に立てたなら嬉しいです…』
と私はもじもじしながら言うと
『もー、もっと嬉しそうにしなさいよ！あなたの実力実は凄いのよ！』
と先輩は信じられない事を言った。
『そ、そうなんですか？』
『周りの人に聞かれたの、あのポイントは誰が作ったんだって、あなたの名前を出したら、課長がやっぱりなって言ってたのよ』
『え？！』
私は驚くとさらに先輩は続けた
『あなたは要領は悪いけど、人が喜ぶような仕事をするって、資料の見やすさ、仕事しやすい環境整備、来客のお茶の出し方まで、皆流石だなって認めているのよ』
『そ、そうなんですか？！信じられません！そんなの当たり前のことだし、皆やってることだと思ってました』
『当たり前の事ができない人が多いのが世の中なの。確かに要領良い方が出世のスピードも早いけど、基本ができないと結局続かない。あなたのような人がいないとチームは成り立たないのよ』
『でも…私、子供の頃から要領悪くて、母にもお前は人並み以上に頑張らなきゃ何もできないって言われ続けて…。』
『なら、私あなたのお母様に感謝しないと』
『え？』
『確かに今のあなたはどんくさいとこあるけど、完璧な資料を作れる、見えない仕事をしっかりできる人に育てた人だから、あなたはこの会社に必要な人よ。もっと自信持ちなさい。』
『…あ、ありがとうございます。』
先輩のその言葉で私の中の何かが溢れだし、気付くと泣きながら先輩にお礼を言っていた。
『まだ内緒だけど、今度立ち上がるプロジェクトチーム、あなたもいるからね、よろしく頼むわ』
『え？！！』
『ここから変わりなさい。あなたにはその力があるんだから』
『…は、はい。』

私はそこからあれよという間に様々なプロジェクトを掛け持ちするようになり、商品開発に関わるようになっていた。
皆に感謝され、以前のようにばかにされることもなくなった。

何が幸いするかわからない。正直母には恨み事を言いたい人生だったけど、そのおかげで、人生充実している。今度実家に帰ったら親孝行しよう。そう思った。