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閃き💡劇場⑥

私の名前は片瀬奈々子。
子供の頃、私は天使に憧れていて、空を飛びたかった。だから何故人は飛べないの?何故天使になれないの?と両親を質問責めして困らせていた。

やがて大人になり、そんなことを忘れた私は客室乗務員。通称CAになった。
お客様の快適な空の旅を守るために表ではにこやかに振る舞っていても、裏側では戦場のような忙しさだった。

そんなただ仕事に忙殺された日々を送っていたある日のこと。
3人の家族連れが搭乗された。
だか何かがおかしい。子供の様子が何となくおかしいと思った私はさりげなく荷物をしまうお手伝いが必要かどうか聞くためお母さんの方に声をかけた。
『お手伝いいたしましょうか?』
『ありがとうございます。』
と母親は私の申し出を快諾してくれた。
『お子さん、かわいいですね。おいくつになるんですか?』
『5才になります。初めての飛行機で今日の旅を楽しみにしていたんです。空の上を飛べるって。』
『そうなんですか、それは今から楽しみですね』
私は笑顔で答えると
『ただ、窓際の席が取れなくて…。実は娘は難病で、体が弱く、医師からも長くは生きられないと言われていまして…。いつも写真で自然の綺麗な景色を見て寂しさを紛らわしていたり、毎日空を見ては絵を描いていたりしていたので、元気なうちに飛行機からの風景を見せてあげたかったかなと』と母親は複雑な表情を浮かべた。
『そうだったんですね…』
私がそう答えると
『あ、ごめんなさい。つい。大丈夫ですから、ありがとうございました』と母親は席についてしまった。

やがて飛行機は離陸し、シートベルトを外しても大丈夫な状態になり、お客様にドリンクを提供したりなど業務をこなし、ひと段落していると、私は先程の家族連れを思い出していた。
なんとかできないものか…。でも席は満席だし…。
などと考えていると、同僚が心配して声をかけてくれた。
『どうしたの?』
『いや実は…』
私は同僚にあの家族連れの話をした。
『なるほどね、なんとかしてあげたいけど…』
『難しいわよね…あ』
私はあることを思い付いた。
『どうしたの?』
と同僚が言うと
その話を後ろで聞いていた先輩がいきなり声をかけてきた。
『どうしたの?』
『あ、実は…。』
私は先輩にも話をし、私が思い付いたアイディアも伝えてみた。
『そうねぇ…、なんとかしてあげたいけど…、一度機長にかけあってみたら?』
『え?でも…。』
『大丈夫、私が責任取るわよ。』
『…、ありがとうございます!』
私は意を決して機長に話をすることにした。
機内通話で機長と話をする。緊張しているとコクピットとつながった。
『はい、こちらコクピット』
『客室乗務員の片瀬です。実はお願いがあるのですが…。』私はあの家族連れの事情や、難病のお子さんのために、ほんの数分ある場所から空を見せてあげたいといった話をした。
『しかし…、そういったことにいちいち対応していてはキリがないよ』
と副機長。
『そこをなんとかお願いできませんか?』と食い下がると
『…よし、わかった。今回だけ。5分だけだぞ、責任は私が取るから』と機長は言った
『いいんですか?機長。』と副機長
『かまわん。』
『ありがとうございます!』私はお礼を言うとすぐさま先輩に報告。
ある場所から空が見えるように準備をした。
『お客様。』
私はあの家族連れに声をかけた。
『はい?』
怪訝そうに反応する両親。
『ご覧頂きたいものがあります。私にお付き合いいただけないでしょうか?』
『…?一体何ですか?』
『どうしても、お見せしたいものがあるのです。』
『…わかりました。』
私はご家族をある場所へご案内した。
『ここは?』
『私の座席です。』
『え?』
『私の席は窓際なので、空が見えます。機長より許可はもらっていますので、5分ですが、この席で是非空を楽しんでください』
『いいんですか?!』
『今回だけの特別です。お嬢さんに楽しい思い出を残してあげてください』
『ありがとうございます!』
『ほら、かな、こっちにいらっしゃい』
両親は深々と頭を下げ、急いでかなちゃんを席に座らせた。
『わー!空だぁ、雲もいっぱい!すごーい』
とかなちゃんはとても喜んでくれた。
『絵を描きたい!』
『じゃあお父さんが写真を取るから。それを見ながら絵を描きなさい。大丈夫ですよね。』
と父親。
『はい。』
父親は私の座席から何枚か写真を撮った。

こうして無事にフライトを終え、あのご家族連れは私達に何度もお礼を言いながら飛行機を降りた。

それから半年後、私の元に一通の手紙が届いた。
『なにかしら?』
封をあけると、例のご家族からお礼の手紙だった。
あれからかなちゃんは大喜びで空の絵を写真を見ながら毎日描いていたが、急に容態が悪くなり、入院。そのまま亡くなってしまったようだ。かなちゃんが入院する前に私達にお礼を言いたいと空の絵と共にあるお礼の言葉を書いていたのでそれを同封しますとあった。
『これは…!』
『空飛ぶ天使のおねーさん、ありがとう』
空の絵と共に書かれてあったその言葉を見て私は子供の頃の自分の夢を思い出していた。
『空飛ぶ天使になる』
図らずもCAとして毎日空を飛んでいるだが、日々の激務に追われそんな事を忘れていた。
しかし、自分の行動で誰かを幸せにすることができる。天使になれる。この手紙は私にそう思わせてくれた。

それ以来私はフライトの度に自分に私は空飛ぶ天使だと言い聞かせ、仕事に励むようになった。
お客様に快適な空の旅を過ごしてもらうために。

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