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閃き💡劇場⑭

小学生の頃、側溝にハマって身動きがとれない猫を助けたことがある。
野良猫だったため、この子を飼いたいと親に言ったが、母に飼うことはおろか猫を助けるために服が汚れたことまで叱られ、そんな無駄なことをするなと言われて俺はその日一日中大泣きした。

そんなことも忘れ、俺は20代後半になり、仕事の忙しさで実家に帰れず家族とも疎遠になっていた。
ある夏の日、久しぶりに休日が貰えたので家でごろごろしていると、家から電話がかかってきた。
驚いた俺は誰かが亡くなったのかとビクビクしたがそうではなく、元気かどうか心配になったらしい。

安心した俺はとりとめのない会話をしていたのだが、急に母が昔話をしだした。猫の話である。初めは忘れていたのでなんのことだかわからなかったが、だんだん思い出した、気持ちが暗くなってきた
そして、『あんたあの時あんなことくらいで大泣きして大変だったのよ』と言われた時俺の怒りは頂点に達し『悪いけど切るわ』と言って電話を切った

(あー、胸くそ悪い。俺はあの時の事をまだ許せないんだな)
と子供の頃の自分が今でも胸の中で傷つき泣いているのを感じた。

「コンビニ行くか」
俺は気分転換にそう言うと家を出た。
コンビニで適当にお酒やつまみを買い、気分良く歩いていると、小さな女の子が側溝の近くで泣いていた。

気になった俺は怪しくならないように明るく
「どうしたの?」と問いかけた。
すると女の子は
「そこの溝に私の犬がハマって助けられないの、おじちゃん助けてくれない?」
「どれ」
と俺は側溝を覗き込む
確かに子犬がいる。怖いのか震えている。怪我はなさそうだ。
「よし、おいで」
俺は優しく子犬に声をかけた。
昔から動物に好かれやすいのか声をかけると皆すぐ寄ってくる。俺も動物は好きだから一向に構わないが。
子犬が反応した。こちらに向かう素振りを見せる。
「ゆっくりゆっくり、おいでおいでー」
俺は子犬を落ち着かせつつ側溝に手を入れ受け入れる体勢を整える。

そうこうしていると女の子の母親がやってきた
事情を知った母親は「申し訳ないと」頭を下げながら状況を見守っている

「よしきた!」
俺はしっかり子犬を捕まえ女の子に渡した。
「よかったーありがとうございます」母親は再び頭を下げ俺に礼を言う
「いや、困った時はお互い様ですから」俺はそう言うと
「今時珍しいよ、あんたみたいな人。」と一部始終を見ていた人達が近寄ってきた
俺は驚きつつ「そうですか?」と返した。
「きっと子供の頃から優しい子だったんだね、そのままの優しさを忘れずにな」と野次馬のなかにいた爺さんがそう言いながら立ち去っていった
子犬の飼い主も何度も俺にお礼を言い立ち去り、現場には俺1人残された。
俺は爺さんの言葉に感動のような衝撃に包まれていた。
昔から誰かに優しくすると母親に叱られてきた俺は自分は悪いことをしているのだろうか?と子供心に傷ついていた。成長してからはそんな事を言うのは母親だけだと気付けたので適当にやり過ごせたが、あの言葉で俺の中にいる子供の俺が癒されていくのを感じた。
「…。よし大丈夫」
深呼吸して俺は酒とつまみを片手に上機嫌で家に帰った。

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