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36℃

気がつけば、すでに夏だった。かつて過ごしてきた夏には、敵わなかった人がたくさんいる。叶わなかった願いもたくさんある。

夏に出会った人と、冬を過ごせたことがなかった。暑いねと爛れながら言い合っても、寒いねと二人で肩を寄せ合うことはなかった。みんな、秋に差しかかる頃には、私の手を振りほどいてどこかへ消えていった。

夏の歌をスキップしなくなり、コンビニの花火を見て誰かを思い出す。アイスを食べる頻度が多くなって、雲がいつもより大きく見える。陽が長く、月は短い。枯れた紫陽花とその横で咲く向日葵。誘えなかった花火大会。車窓から見えた海水浴場。その欠片ひとつひとつが、夏を憎めなくする。

どうにも、私は夏に囚われているらしい。また今年も誰も居なくなった夏の終わりに泣いてしまうのだろうか。

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