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所蔵作品展など@岐阜県美術館

友人と岐阜県美術館に行ってきました。
どこかに行ってのんびりしようということで計画して決めたのが岐阜県。
なぜ岐阜に決まったかというと、この岐阜県美術館に興味があったからでした。
『ミュージアムの女』という漫画で岐阜県美術館の名前を知り、その後にルドンのコレクションを有するということで、ルドン好きとしては是非行ってみたい美術館となっていたのでした。

そんなこんなわけで、天気の良いなかいざ岐阜県美術館へ。
残念ながら、面白そうだなとポスター見て思っていた「ビロンギング」展は3月末からでまだ。
でも、ゆっくり見るのに丁度いい少しこじんまりとした美術館は、とても居心地よく、作品を堪能することができました。

4つの展覧会が開催されていたので1つずつのメモです。
(作品名のリンクは岐阜県美術館のホームページの作品ページへのリンクです)


フランスに渡った日本人画家

藤田嗣治をはじめとした日本人画家だけではなく、マリー・ローランサンやヴラマンクの作品なども。

日本人洋画家はあまり知らずに、山本芳翠とか藤島武二も聞いたことある…というくらいだったけれども、作家名を見なければ日本人の作品とは分からないくらい西洋の伝統的な絵画、という感じでした。
”フランスに渡った”というだけあり、描かれている人物も日本人ではないのもあると思いますが…
何が言いたいかというと、明治期の画家たちって西洋の文化の蓄積があまりなく、まさに未知の世界だっただろうに、こんなにも吸収し、技法などなんの破綻もなく使いこなせているって本当にすごいな…と感動しました。

その中で印象的だったのは、山中芳翠の《若い娘の肖像》でした。
黒いバックに横顔の女性像なのですが、特徴的なのが首筋にスポットライトが当たって、顔は闇に沈んでいるところ。
首筋の美しさと、レースの白いブラウスに肌が透けた感じが浮かび上がってきて、でもそれがなまめかしいというよりも、どこか崇高な雰囲気を感じる絵でした。

ルドンコレクションから:聖アントワーヌの誘惑

なんとなく岐阜県美術館に行けばルドンの作品が浴びるように見れると思ってしまっていたのですが、もちろんそんなことはなく。
それはちょっと残念ではあったものの、1室であってもルドンの作品を見れたのは嬉しかったです。

ルドンの色が好きなので、どちらかというと色彩のある絵が好きなのですが、今回は『聖アントワーヌの誘惑』の版画群からのコレクションがメイン。
なので白黒が多かったです。

ルドンの版画というとどこかしら無気味なところがあって、それはそれで大好きなので問題ないのですが、今回は白黒の使い方がかっこいいなと改めて感じました。
その中でお気に入りとなったのが次の3点です。

まずは《「聖アントワーヌの誘惑」第三集 Ⅸ. …私は孤独のうちに沈んだ。私はうしろの木に住んでいたのだ》。
画面上部の葉っぱは軽やかなタッチなのに、太い幹の中の木のうろは真っ暗。
真っ暗な中にも濃淡があり、地面は少し明るく奥が暗くなっているのが、太い幹に暗闇をはらんでいる感じがして、上部の軽やかさとの対比もあり、いっそう重々しく感じました。
もしかしたら白黒だからこそ表現できる、異世界に通じているような雰囲気が印象的でした。

次が《「聖アントワーヌの誘惑」第三集 ⅩⅥ. 私はいつまでも偉大なイシス!まだ誰も私のヴェールをかかげたものはいない!私の果実が太陽なのだ!》。
女性(おそらくイシス)が子どもを抱いて立っているのですが、顔はタイトルにもなっているようにベールで覆われています。そのベールは画面右上から垂れ下がり、子どもを抱える腕にもつなっています。
ベールが手前の方から垂れ下がっているようにも見えて、ベールで奥行きを出しつつ、更にうねりのような動きも出しています。
そしてベールでできる暗闇に浮かび上がる白い身体。こちらも曲線でベールの線と呼応しているようにも感じます。
ベールの黒、身体の白と、白黒のバランスもかっこいいなと思って一枚でした。

最後が《「聖アントワーヌの誘惑」第三集 ⅩⅩ. 死神:私のおかげでお前も本気になることができるのだ。さあ抱き合おう》。
こちらもベールが画面の構成に一役買っている作品で、右奥の方にいる女性(女神っぽい)が持つベールが画面に大きな弧を描いています。
そのベールが明暗を分けているようで、暗闇の中には死神がたたずんでいます。
光源が女性の足元というのも面白く、そのため女性の顔があまり明確ではないし、逆に死神は暗闇にいるはずなのに光源の側にいることによって浮かび上がっています。
こちらも明暗の使い方がかっこいいなと思って印象的でした。

ぎふの日本画 おいしかったよ すばらしい鮎だ  書簡にみる画家と岐阜の人々の交流

川合玉堂や前田青邨が岐阜出身と知らなかったので、地元の人とのやり取りが見れるのが興味深かったです。
郷里の人から送られてくる柿やら鮎やらの御礼を絵とともに送るだなんて素敵なの…
送った方も嬉しいし、画家たちも故郷の味を堪能できて嬉しいし、素晴らしい交流の姿だなと思いました。

書簡だけではなく、もちろん作品の展示されていたのですが、その中から好きだった作品をば。

川合玉堂の作品の中で好きだったのは《》。
私が藤の花が好きというのもあるのですが…
きっちり細かく描かれている藤の花と雀が画面上部・下部に配置され、それをつなぐ藤の枝が大胆な筆致で描かれている、その対比が面白いと感じました。
藤の花って垂直の動きが強調されると思うのですが、その調和をうまい具合に崩すように枝が自由自在に動きを出し、そこに可愛らしい雀がちゅんちゅんちゅんといる。
直線・曲線・点の動きがあって面白いなと思いました。

前田青邨の作品の中では《水辺春暖》(こちらの作品ページはないようです)が華やかでひときわ目を惹きました。
紅白の梅が重なり合って一つの大きな塊になっており、画面下部に配される川の方へ枝が垂れています。その枝の先には四羽の水禽が並んでいて、水面には花びらも浮いています。
よくよく見ると、梅の木の中にも鳥が止まっていて、全体を見ても楽しいし、近くで見ても細かいところで発見があるという、ずっと眺めていられる作品でした。
背景が金だし梅も満開で、しかも枝に動きがあるので、うるさくなりそうな絵でありながら、どこか春のうららかな、のどかな感じがするのは、画面の調和がとれているからなのかなと思いました。
そんなわけで今の季節にピッタリの作品だったのです。

アートまるケット 展覧会を準備してます、展。

岐阜県美術館の館長はなんとアーティストの日比野克彦さん。
というか今さらですが、東京藝術大学の学長もされているのを知りました。
その日比野さんがディレクションされている「アートまるケット」の一環となる展覧会のようで、タイトル通り、展覧会の裏側を見せてくれるものでした。
これがとても面白かった!!!

入口付近に置いてある木箱を持って進んでいけば、随所随所にアイテムが置いてあって、この場所で感じたものに近いアイテムを選び、木箱に入れて、次に進む…というインタラクティブに展覧会に係ることができるのです。

内容は、日比野さんがルドン縁の地へ赴き、色んな体験をしながら構想を練っている写真が展示されています。
そしてこれまで岐阜県美術館で開催された展覧会も紹介され、進んでいくと学芸員たちの研究場所のようなスペースに到着。

大きく拡大した山本芳翠の《浦島》があり、そこにたくさんの付箋。
よく見ると、人物の説明やら、浦島が乗っているのはウミガメではなくリクガメ…といったことが書かれていました。

更には琉球の絵にちなんで実際に沖縄で録音してきた海の音が流されていたり、
もっと奥に行くと、実際に学芸員さんたちが装丁・修復をしていたり、
一番奥に行くと作品の燻蒸がされていたり…
本当に展覧会の裏側を見せてくれていて、ちょうど『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』を読んだところだったので妙に楽しくなりました。

最後は集めたアイテムを、集めた時の様子を思い出しながらスケッチ。
そのスケッチを展示して終了でした。
私たちのスケッチはこんな感じ↓

展覧会の裏側が見れるだけでも楽しかったのに、こうやって自分も積極的に関われる内容になっていると、より一層、記憶に刻まれる感じがしました。


今回、どこか観光地でないところに行こうと思わなかったら、なかなか実現しなかったであろう岐阜県美術館への訪問。
期待以上に楽しく、心から行ってよかったと思えたひと時となりました。

因みに隣には大きな岐阜県図書館もあり、そこもお邪魔して「岐阜県いい!」となりました。

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