「エッセンシャルワーカー」の移動を支えよ: 新型コロナウイルス緊急事態宣言下、世界は交通をこう変えている(翻訳記事)
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「エッセンシャルワーカー」の移動を支えよ: 新型コロナウイルス緊急事態宣言下、世界は交通をこう変えている(翻訳記事)

伊藤昌毅 (Masaki Ito)

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、日本でも明日緊急事態宣言が出されると言われています。非常事態宣言後は外出自粛要請に加えて電車やバスの本数を減らすなど、より強く人の移動の制限を進めていくことが予想されます。そのような中でも救急車や消防車など緊急車両の通行はもとより、医師や看護師、スーパーマーケットの従業員や配送業者など「エッセンシャルワーカー」の通勤や、生活必需品の買い出しなどの必要な移動は確実に支えていく必要があります。アメリカやヨーロッパなど日本に先んじて都市封鎖(ロックダウン)が行われている地域ではどのような交通対策が取られているのでしょうか。アメリカの交通系記者、Laura Bliss氏が4月3日にCitylabに掲載した記事 “Mapping How Cities Are Reclaiming Street Space” を翻訳しました。(文責: 伊藤昌毅、翻訳・原案: 孕石直子)

各市がどのように道路空間を再編成しているのか、マッピング

4月3日
Laura Bliss

新型コロナウイルスを封じるため世界各地で都市が封鎖されている。封鎖下にある人口は世界人口の約3分の1にあたり、世界でも最大の交通量があった道路や高速道路から車の往来が消えた。世界中の地下鉄では利用者数が1月初旬と比べて80%以上減少している。米国のシアトルでは、市民の1日の平均移動距離が約6.7kmからボウリング場のレーン1本ほどに減少している。

そのような中でも医師や看護師、薬剤師、スーパーマーケットの従業員、運送業者など、「エッセンシャルワーカー」は通勤を続けなければならない。在宅生活を送る人々も生活必需品を買いに出かける必要がある。現在、複数の自治体が、こうした「必要な移動」がより簡単に行えるよう、対応を開始している。新しい自転車専用レーンの敷設、信号機の改修、公共交通の運賃の無料化、一部道路の車両通行禁止、その他一時的な交通手段の導入などだ。CityLabは、4月3日現在米国および世界の都市の道路で起きている変化の一部を、新型コロナウイルス公共交通対応センター(Covid-19 Transportation Response Center: 全米公共交通職員協会National Association of Transportation Officialsが緊急時対応のリポジトリとして新たに立ち上げた)のデータを使用してマッピングした。

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対応の中には、スイッチを押すだけでできるようなものもある。オーストラリアのパース、ニュージーランドのオークランド、マサチューセッツ州のボストンなどでは、横断歩道の信号を押しボタン式から自動に変えた。歩行者がウイルスに汚染されているかもしれないボタンに触れる必要がないようにとの配慮だ。

技術的には簡単でも、地方経済の悪化に伴って政府の歳入が減少するため、財政的に難易度の高い対応もある。ロサンゼルスやデトロイトを含む少なくとも50の市がバスの運賃を無料化、ロンドンとグラスゴーを含む少なくとも10の市では、シェアサイクルを無料提供、地図上にはないが少なくとも12の市が駐車料金を無料化し駐車違反の取り締まりを停止している。

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従来より歩行者や自転車愛用者が多かったいくつかの大都市では、より思い切った対応をとっている。ニューヨーク、ミネアポリス、バンクーバーなど、米国とカナダの少なくとも9つの都市は、ソーシャル・ディスタンシング(訳注*1)のガイドラインに則った歩行や自転車での走行、屋外での休憩を支援するために、特定の道路において自動車の進入を一時的に禁止したり、制限したりしている。ボゴタ、メキシコシティ、ベルリンでは、ソーシャル・ディスタンシングが注目される中でバスやライドシェアに代わる交通手段として自転車の利用が増加していることに対応し、自転車に適した道路網を拡大している。また世界各地で、歩行者の安全のために歩道を広げようという声が日に日に大きくなっている。

「自治体や公共交通事業者は、この前例のない状況の中で、それぞれに合った対応をしている」と、米都市交通担当官協議会(NACTO)議長でブルームバーグ・アソシエイツの取締役でもあるジャネット・サディク=カーン氏(訳注*2)は述べている(注: ブルームバーグLPはCity Labの親会社)。市の職員の多くは今でも、不特定多数の人がハンドルに触れるシェアサイクルや乗客同士がスペースを共有するバスを勧めているかのように見られることを恐れており、まして歩道のために車道を潰すようなことは、今も昔も政治的に簡単に認められるものではない。「こうした状況に対応するのに台本はありません」「自治体の首長たちは真剣にこの問題に取り組んでいます」とサディク=カーン氏は述べる。

一方で、取られている対応のうち、公共交通機関の運賃無料化や自動車の進入禁止などいくつかは、渋滞、交通死亡事故、二酸化炭素排出量などを減らすとして、都市の持続可能性を訴える人々によって何年にもわたって支持されてきたものである。サディク=カーン氏は、新型コロナウイルス対策のために取られた緊急対応であっても、より永続的な変化をもたらすためのテストケースとして機能し、その中のいくつかが恒久的なものとなるよう期待している。

ただ他の多くの関係者は、自動車を使わない交通機関、特に公共交通機関の長期的な見通しについて、あまり楽観視していない。米国では、運営の維持に苦労している公共交通事業者のための緊急資金として議会が250億ドルの拠出を決めたが、将来的にサービスの削減や解雇を防ぐには十分な額ではないと多くの専門家が述べている

新型コロナウイルスは(すでに減少していた)公共交通機関の利用者数と都市の密度そのものに永続的な打撃を与えるだろうと推測する研究者もいる。アジアの多くの都市が証明しているように、感染症の蔓延は人口密度の高い環境でも、しっかりとした検査と明確な政府のメッセージでコントロールできるという事実にもかかわらずである。ノースカロライナ大学チャペルヒル校で持続可能な交通学を研究し、新型コロナウイルスに対する世界の公共交通機関の対応について独自のデータベースを作成しているタビサ・コムズ氏は「これから低密度な環境の開発に対する需要が高まると思いますが、それは同時に公共交通機関の提供が難しくなるという課題を抱えることでもあります」と述べる。

訳注*1: ソーシャル・ディスタンシングは、感染症拡大防止のため物理的に他人との距離を取ることを指す言葉。新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に目にするようになった。
訳注*2: ジャネット・サディク=カーン氏は、マイケル・ブルームバーグ市長時代の2007年~2013年にニューヨーク市交通局長を務めた。退局後、ブルームバーグ氏が立ち上げた都市デザインのコンサルティング会社、ブルームバーグ・アソシエイツの主要メンバーとなった。

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伊藤昌毅 (Masaki Ito)
東京大学生産技術研究所特任講師。IT×公共交通を専門とし、産官学を繋ぐ実践志向の研究者。ITと交通とを橋渡しするカンファレンス「交通ジオメディアサミット」や、現場に寄り添った公共交通オープンデータの推進などを行っている。国土交通省バス情報の効率的な収集・共有に向けた検討会座長等。