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超世紀バトルホビー『カミサマ』

「見ろよ!昨日作った重力操作アーム!俺のガンジーのテレキネシスで水たっぷりのバケツも軽々浮かぶぜ!」

「いいなぁ、僕のスターリンにも付けたいなぁ。でも陽電子ウィング買ったばかりだし……こづかい500円じゃ足りないよ……」

「てっちゃんはホント念動力の権能すきだよな~」

車の窓を開けると子供たちの無邪気な声が聞こえてきた。人気絶頂の改造対戦型ホビー『カミサマ』で遊ぶ声だ。3D蛋白質プリンタと人工神性は今日も少年たちの娯楽を支えているようだ。

そんな凡風景に浸っていた私の意識は、耳障りな着信音によって現実へと引き戻される。発信元は上司。……緊急通報だ。

「来須くん、神木町2丁目交差点付近で違法カミサマを用いた宝石店強盗よ。現場に急行してカミサマファイトをお願い。」

白昼堂々大騒ぎとは恐れ入る。私は溜息を吐きながらアクセルを踏み込んだ。



バイパスを流しながら、助手席に鎮座している相棒の様子を見た。

体長50センチの人形。絶滅寸前である日本の神職を思わせる造形。名前は『ヨシツネ』。黎明期に作られたカミサマ。動力源のATP溶液は充填済み。所持権能はチャチな空間切断。武器は鋭いだけの二本の刀。

所謂「神」を始めとする超常存在の持つ奇跡を起こす力「権能」の人工的再現に成功してはや10年。地上から空想や信仰が失われつつある中で、子供の夢という最後の空想を守るため、私と相棒は戦うのだ。



「起きろ!ヨシツネ!」

現場到着直後の私の第一声は、ヨシツネの起動コードだった。待機状態だったヨシツネは助手席の窓から飛び出し、陽動兼破壊活動に勤しむ違法カミサマに斬りかかる。

アレは物質冷却の権能を持つ「カール」か。強烈な改造をされているのか、9月下旬とは思えない冷気が交差点を支配していた。ダイアモンドダストが瞬く中、私は寒さに震えながらヨシツネを見守る。

二振りの刀とカールの持つ戦鎚がかち合う衝撃で、霜の降りた石畳が捲れ上がった。

【続く】

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