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【読み放題対象】ウクライナに平和を千羽鶴~なぜ千羽鶴を作る人はいなくならないのか~

「そんなものをウクライナに送るな!ロシアに送りつけてやれ」

という声が炸裂した。

何の話って? ウクライナに平和を千羽鶴だ。

「この横暴を許してはいけない。決して対岸の火事ではなく、自分たちも私ごととして考えて世界に向けて声を上げることで、第2、第3のプーチンを阻止しなければいけない」と保井さんは参加者10人に向けて話した。(略)参加者でウクライナの国旗カラーの折り紙で鶴も折った。千羽鶴を完成させて在日ウクライナ大使館に送る予定という。
https://www.gifu-np.co.jp/articles/-/50193(岐阜新聞 記事削除済)

このニュースは「大手まとめサイト」を中心にゴミ袋につめられている大量の千羽鶴画像(?)とともに、「この横暴を許してはいけない――それ、お前たちのことだよ!」的にネットで「炎上」した。

ほえ?と私がなにかが焼けるニオイに気づいて、ほんの少し検索しただけでも、出るわ出るわ――「善意のゴミを送るな、送るならロシア大使館だろ」「千羽鶴と古着はロシア大使館におくりつけて有効活用」等々のとても心温まる声がネットに大量に溢れたのだ。

私は思わず、次のように呟いた。

すると、このツイートがまた「大手まとめサイト」にまとめられてしまった。「千羽鶴という『悪』を叩く娯楽」は商業的にも成立した。

かくして、このウクライナに平和の千羽鶴運動をはじめた人のFBには、多くの批判の声が殺到した。そして「千羽鶴は迷惑だからやめてください。東日本大震災の被災地でも一番いらいないものは千羽鶴でした」「気持ちを込めて折る時間をバイトやパートに充てて金銭をあげた方がいいですよ」等々の声にまじって、こんな意見もあった。「千羽鶴は嫌がらせでロシアに送ったらよいのではないか」。

私はとても心のやさしい人間なのでそんな直接的なことは、とてもいえないのだが、

千羽鶴は「嫌がらせ」・・・。

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呪いの千羽鶴じゃないか


要するに、ここでわかるのは、多くの人々にとって「千羽鶴」とは「もらった相手が迷惑するもの」転じて、まるで「メンタル・ダーティーボム」のような扱いだ。

ただしこの言葉には一定の事実性がある。たしかに広島市のように年間10トンもの千羽鶴が送りつけられてきたら保管や処分費用の実被害もあるだろうが、なにより困るのは「お気持ち」だからだ。

すなわち、千羽鶴とは「念」がこめられている点だ。いらないからと邪険にできないのだ。送りつけられた千羽鶴を、不要と判断し、事務的にゴミ捨てにだしたら、賽の河原で子どもたちが積み上げた石を片っ端から蹴っ飛ばすくらいは黒い気持ちになりそうだ。

かくして、続報がはいった。この運動は次のような帰結をした。

多くの批判が殺到し、千羽鶴寄贈断念。



さて、今回はこの千羽鶴の是非論はおいて、メタ的に考える。それは千羽鶴受容の言説の急激な様変わりだ。ロシアによるウクライナ侵攻から、私達をとりまく空気はすっかり変わってしまった。

いままでだって、地震やなにか災害がおこるたびに、被災地に千羽鶴を送る人は炎上をくりかえしてきた。「自己満足だ」「みんな迷惑しているぞ」「同情するなら金を送れ」とかいわれてきた。だが、同時に擁護の声も必ず多くあがったはずなのだ。「金くれくれ風潮のほうが怖い」「素直に受け入れられないのか」「贈った人達の善意とかは全て無視か?」等々だ。

要するに経済的合理性で実際に役立つものより、(相手に迷惑をかけようが)「そこに込められた“お気持ち”こそ至上」とする立場だ。この両派は熾烈な抗争をくりひろげてきた。

ところが、今回のウクライナの平和祈願の千羽鶴ではそうではない。私は驚いたのだ。多くの人々が、「ウクライナに千羽鶴」など擁護する余裕すらなくなってみえる。

なぜ今、もはや生暖かく見守るのをやめ、千羽鶴をこんな状況でも贈ろうとする人たちにイライラしてしまうようになったのか――「わたしたちがわざわざ平和のためにこれだけの時間と労力をかけて金銭的には全く無意味な単純作業をしたんですから、そのお気持ちを下賜してやりますよ」という態度だ――それについてモヤモヤした気持ちをスッキリ言語化する。そう、この一ヶ月ほどでセカイは変容したのだ。

実は「千羽鶴を送りつける」行為を嫌うのは、単に「自己満足で、相手の迷惑を考えない」からではない。それはあくまで表面的な意味だ。

それはなにか。我々が嫌っているものは千羽鶴によって透けて見える「平和を祈るひとの権力への渇望」なのだ。「お気持ちをプレゼントする」ものとは権力を渇望している。

どういうことかといえば――


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