もののけ姫に打ちのめされ続ける理由の話

先日、映画館でもののけ姫を観た感想文の記事で、私はこんな導入を書いた。

小学3年生の頃、お小遣いで買ったリングノートにもののけ姫を観た感想を書いたなあ、と、映画館に向かいながら思い出した。(中略)
ただ、小学3年生の語彙力と頭脳ではろくに文章にすることもできず、「モヤモヤして頭のなかゴチャッとする~。このモヤモヤしばらく取れへん気がする」みたいな内容にしかならなかった。

元記事では、小学生の私がどうしてゴチャッともやっとしたのかという理由を
「記憶にございません」
で放り投げたのだけど、何となくそれでは意味がない気がして、ちゃんと考えてみることにした。
なぜなら、20年近く経った今も鑑賞後に放心状態になったからである。しばらくボーッとして何も考えられなくなった。
というわけで、蛇足かもしれないがまたしてもダラダラ感想文を綴ってみようと思う。お付き合いいただければ幸いです。


情報量のナイアガラや~


いやもう、とにかく。


情報量が、多い…。


もののけ姫は膨大な情報を凝縮した一滴二滴のエッセンスが映画になっていて、私たちは彼らの表層をなぞっているにすぎない。
どの情報を物語の筋に絡めるのかという取捨選択が巧みなおかげで破綻なく2時間の尺に収まっているのだろう。
名前のないモブも含め、登場キャラ全員映画1本分作れるだけのバックボーンがあることが台詞・行動の端々に窺えるのだが、知識があるかないかでかなり見えかたが変わる。
とても小3の私の頭では処理しきれなかっただろう。エボシ様は売られた女をみーんな買っちまうんだ、とか言われても脳内でクエスチョンマークが飛び回るだけで、その台詞の裏までは分からなかったと思う。
あと、単純に使われている言葉が難しい。

「さかしらにわずかな不運を見せびらかすな!」

エボシとサンの一騎討ちに割って入ったアシタカに放たれたこの台詞、エボシの真意を汲み取るのも難しいが、
「さかしら」ってまず意味分かる?漢字変換できた?
…無理じゃない?小3の私……
もはや何が分からないのかも分からない状態になっただろうことは想像に難くない。
そりゃーもやっとゴチャッとするしかない。何か意味のあること言ってるんやろうけどよう分からん、の連続なのだから。



で、大人になってから観ると予備知識もいろいろついてるので、情報を拾ってはこれはこういう意味かああいう示唆かなどといちいち反応しながらの鑑賞になる。エボシ様は売られた女云々、でタタラ場の元気な女たちの過酷な半生を推し量ることができるし、「さかしら」の意味も把握している。
多少の知恵がついたぶん、小学生の頃と比べると情報にただ圧倒されるのみではないが、
これはこれで頭と体力を使う。めちゃくちゃしんどくてめちゃくちゃ楽しい。
よって、観たあとは放心状態になる。
いや、この映画は「観る」というより「浴びる」という表現の方が近いかもしれない。
轟音を立てて絶え間なく水が降り注ぐ大瀑布、例えるならナイアガラの滝のような、そんな圧倒的な情報量を2時間ひたすら浴び続けるのだ。
放心状態にならいでか。
え、なるよね?私だけじゃないよね?


いつか大人になる君たちへ


「もののけ姫は一言で言うとどんな話だと思いましたか?」

そう聞いたら、答える人によって全然違う答えが返ってくるだろう。
小さい頃の私は自然と人との対立の物語だと思っていた。
大人になって、神殺しを為したエボシをギルガメッシュに見立て日本のギルガメッシュ叙事詩だとする考えがあることも知った。初めて見たときは「なるほどそうか!」と膝を打った(Fate世界でエボシが召喚されたらアーチャークラス、というところも含めて)
(参考:
https://togetter.com/li/1281453?page=2


世の中に数多ある解釈のどれもが全部正解だと思う。
様々な要素と側面を持つこの作品のどこを切り取るかは、観る人によってまったく違うからだ。
さらに、同じ人が観ても年を重ねることで解釈は変化する。だから私は何度でももののけ姫を観たくなる。
その時の私にしか受け取れないメッセージを見つけるために、何度でも全身全霊で情報量の大瀑布のようなこの映画を受け止め、打ちのめされ続けるのだ。
もののけ姫の持つ、いつまでも色褪せない魅力はそこにある。

もののけ姫って、一見すると全然子ども向けじゃない。登場人物も多いし、言葉も難しい。
でも、たとえ今は何も分からなかったとしても、子どもたちはいつか大人になっていろんな考えを持つだろう。
何度でも観てほしい、と思う。きっと観るたびに感想は違うはずだ。
登場人物たちの言葉の意味を、行動の理由を、彼らの思惑や信念を、何度でも考えてほしい。
もののけ姫は、いつか大人になる君たちへ、と贈られたアニメーション映画なのだ。

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