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フェスの勝者 熱量の行方

音楽がなければ、確実に死んでいた。いきなり物騒な話だけれど、幼い私の、生命線であった。そんな人間はたくさんいると思う。リアルに私達の命を作った、血となり肉となる音楽の、年輪とも言えるものが、確実に私の中にある。多分、音楽や映画、本や小説、言いたいこと、伝えたいことはどれも同じだ。世界の素晴らしさ、ひとりじゃない事。愛を知る事、愛を語ること。家族のこと。それらの事柄を、色々なアーティストが、かわるがわる教えてくれた。どう生きていけば良いか。希望を持てるか。それは確実に私の中で積み重なり、音楽がなくても、生きていけるぐらい、私は大人になった。ありがとう、音楽。

もう音楽を必要としなくなるぐらいには大人になった私の心が震える。生きていることは素晴らしいと感じさせてくれる、それは、それらから伝わる熱量。伝えたいと思う気持ちの大きさと、覚悟。自分を曝け出す勇気と気迫。それを強く感じたのは、久々に参戦した野外音楽フェスティバルを、18歳の娘と見に行った時のことだ。6組のアーティストのステージを見た。Apple Musicから流れてくるお気に入りの音楽を初めて生で野外で見ることを楽しみにしていた娘にも、音楽年輪深めの私にも、同じ思いが訪れた。

結局、人の心を最大限に動かすのは、歌詞でもメロデーでもなく、この一瞬のステージにかける熱量だ。それだけが心を動かす。年齢や性別は関係ない。いっさいがっさい飲み込んで、どれだけの人々の心を動かすことができたか。真の王者、フェスの勝者だ。
この日の勝者は二組。KREVAとsuperbeaver。娘の年代でKREVAを知ってる子は少ないかもしれない。KICK THE CAN CREWも然り。でも娘の心を一発で奪った。この日のKREVAの一曲目は finally。「やっと会えたな」のワンフレーズでいきなり奪取した。会場の空気を一瞬で自分のものにした凄さ。この日のプレーリストの80%は初めて聞く曲だったが、目が離せなく、心は震えて、もちろん目から流れる歓喜の液体。すごいぜ、KREVA。カッコ良すぎる。言葉の一つづつが、立って飛んできて、そのまま直でストレートに入ってくる。「変えられるのは未来だけ」のリフレインが心地よく、いくらでも聞いていたい。
そしてsuperbeaver。Apple Musicで聞くのとは完全に別物。圧倒的熱量。伝えたい。自分等の 全部を出して、全部を出して。絞り出して。ボーカルとバンドのそれぞれの熱量。四方八方に飛び散る熱が、私たちそれぞれに反射して、また増幅していき、異様なグルーヴを作っていく。すごいな。すごいや。すごいね。名前を呼ぶよ。今死んでもいい。後悔はない。ないから受け止めて。聞いてくれる人がいなけば存在意義はない。だから名前を呼ぶよ。

これだから、音楽はやめられない。熱量を受け取って、心が震えて、自分もそっち側に行きたいといつも考える。だから文章を書く。確かに受け取ったと書き記したい。同じ熱量で返したい。
私は大人になった。音楽がなくても、生きていけるほど大人になった。でも私はその熱量を感じることができる。大人になった私の心を充分にかき乱し、実感させてくれる。
人生は死ぬまで続いていく。平凡な毎日は素晴らしい。色々あるけど捨てたもんじゃない。綺麗なもの、綺麗でいさせてほしいという欲求に気づかせてくれる。そしてそれこそが生きているってことだ、きっと。



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